第11話 親友(裕太視点)



 楽しい休日の始まりだ。今日は土曜日、そして明日は日曜日なので、二日間休みだ。


 しかし、そんな楽しい休日だというのに俺は動くことが出来ない。何故なら、筋肉痛だからだ。昨日、全力で走ってしまった反動がきたのだろう。入学式当時が、金曜日だったのは不幸中の幸いだろう。


 もし、別の曜日だったなら次の日も学校に行かなければならない。今の状況をから登下校するのにかなりの労力を使うことは想像に難くない。


 それにしても、昨日買い物に行って良かった。この調子ならどう考えても、買い物には行けなかったからだ。後のことも計算に入れて行動したのがよかったのだろう。まぁ、寝坊しなければこんなことにはならなかったのだろうが……………。




(今日はゆっくりするか………。)



 でも、その前に腹ごしらえが先だ。腹が減っていてはゆっくりすることも出来ない。そう思い、台所に向かおうとしたその時突然、着信音が聞こえた。俺はスマホの置いたままにしていた寝室に引き返す。


 スマホを手に取った。電話をかけてきたのは親友の英一だった。彼は俺と同じ中学校の出身で、中学生の時から仲がいい。卒業式が終わった後、ここに引っ越して来る前に英一とそして、あと二人の親友との四人でよく遊んでいた。


 それ程の月日が経っていないのにあの楽しかった日々が懐かしく感じてしまう。確か俺が引っ越した後、英一も引っ越しをしたんだったな。新しい生活になれるのに精一杯だろうから、直接会えるのはもう少し先になりそうだ。



(電話するのも久しぶりだな。ずっと忙しくてそんな暇なかったからな…………。)



 そう思い、リビングに戻った俺はソファーに腰を掛けつつ、電話を取った。




『やぁ、裕太。久しぶり。元気にしてる?』

「まぁ、元気にしている。ただ、筋肉痛になっているがな。英一はどうだ?」

『僕は元気だよ。』

「そう言えば、そっちも昨日入学式だったんだろ? どうだった?」


 英一との久しぶりの会話に懐かしさを覚えつつ、昨日の入学式のことを訪ねた。俺は優香に俺の存在を気が付かれてしまったことで生命の危機に直面した。それ程、優香を怒らせたら本当に危ないのだ。


 彼女を追い返してしまったあの時の俺を殴りたい。優香に見つかると言う最悪な入学式だった俺に対して、英一はどうだったのだろうか。


『あぁ、僕は眠たかったその一言に尽きるよ。睡魔に抗い続けるのに苦労したよ。あっ、そう言えば筋肉痛ってどうしたんだい?』


 英一は中学生の時、休み時間は必ずと言ってもいいほど寝ていたからな。それにしても、授業中でも彼の方向を見たら、寝ていたような気がする。それなのに成績はいつも上の中。誰かに教えてもらっているわけではないらしい。


 この謎は俺の中学校の七不思議のひとつに数えられていたらしい。ただ、この七不思議はどれもしょうもないことばかりなのだが……………。でも、英一が謎の多い人物なのは変わりない。


「あぁ、そのことな。まぁ、その、入学式に遅刻しかけたのが原因でな…………。」

『そうなのかい? 意外だな。裕太はいつも早めに登校していたから。』

「あぁ、いつもはそうなんだがな………。その日に限って寝坊しちまってな…………。」

『ははは……。まぁ、裕太らしいね。』


 英一が苦笑しているのが電話ごしでも分かった。まぁ、そうだろう。


「俺はよく大事なときに寝坊してたからな。」


 その通りなのだ。俺は、中学生生活最後にして最大の行事である三年生の修学旅行に寝坊してしまった。その時は本当に遅れるかと思った。でも、間一髪学校から空港へ向かうバスの出発時刻に間に合うことができた。それにしても、あの沖縄旅行はハプニング万歳だったな。まぁ、楽しい修学旅行だったのには変わりない。


『で、そっちの入学式はどうだったの?』

「優香がいた。」

『えっ? 同じ高校に進学しちゃったのか。二人は本当に腐れ縁だね。同じクラス?』


 仲が良かったときは何ら問題はなかった。でも中学校に進学して、疎遠になってしまってからは別の話しだ。一年生の頃は別のクラスだったので大丈夫だった。


 でも、その後の二年生から三年生の二年間同じクラスになってしまった。それによく隣の席になってしまったので、あの時は気まずくて仕方がなかった。三回に二回という異常な確率で優香の隣の席になってしまっていた。


 あれは本当に地獄だった。そして、高校生になった今、その地獄から解放されたと思っていた。でも、そう容易く抜け出せるものではなかったらしい。


「いや、違うクラスだ。それが唯一の救いだな。」

『それは良かったね。そういえば、うちの学校にも凄い美少女がいたな。別に僕にとってはどうでもいいことだけど。』

「まぁ、英一はこう言ったことに全然興味を示なかったからな。」


 美少女が学校にいるというのは、普通に考えて羨ましいことだろう。男子校や工業系の人たちならなおさら嫉妬心が大きいかもしれない。


 まぁ、思春期真っ盛りな時に周りが男子だけの所に行けばそんな気持ちが沸き起こるのも致し方ないことだろう。それに、こんなことを言ってしまえば、学校でも指折りの美少女と関わりのある俺も嫉妬の対象に入るだろう。


 こういった俺の人間関係を知られれば、男子諸君に物理的なプレゼントを贈られる。俺はそのことを身をもって経験した。はぁ、あの時は大変だったな…………。


『みんな、騒いでたからね。まぁ、彼女と僕なんかが関わることなんて絶対にあり得ないことだからどっちでもいいんだけど。』

「英一、フラグたててる気がするんだが?」

『ん? どういうこと?』


 英一は時々知らず知らずのうちにフラグをたてていることがある。今回もフラグをたててしまっている気がする。何で英一はよく気が付かぬうちにフラグを立てているのだろうか?


 フラグの一級建築士である英一の能力によって修学旅行中、ハプニングが起きまくった。最終的には英一がフラグを立てそうになったらクラス総出で阻止していったことで、最終日だけは何事もなく過ぎ去った。


「いや、なんか、そんなこと言ってたのに数ヶ月経ったらなんだかんだで関わるようになってたりしてと思ってな。」

『そんなラブコメみたいな展開は起きないよ。だってここは、物語の中じゃないからね。』


 この言葉を聞いて俺は確信した。英一がその美少女と必ず関わるようになると。彼が恋愛の方面でフラグを立てたのはこれが初めてだろう。それにしても流石、一級フラグ建築士だ。


「まぁ、そうだな……。でも、敢えて言っておく。色々頑張れ! 一級フラグ建築士。」


 だから、俺は応援の言葉を贈らずにはいられなかった。


『最後の一言は余計だよ。まぁ、一応その言葉は、受け取っておくよ。』


 彼は苦笑交じりに、突っ込みを入れてきた。フラグがいつ回収されるか楽しみに待とう。俺はその時そう決意した。


『そっちこそ頑張ってね。それじゃ。』

「あぁ、じゃあな。」



 そういい合った俺たちは電話を切った。それにしても、英一が元気そうで何よりだ。これからたくさんの壁にぶち当たるだろうが、何とか乗り切っていって欲しい。その壁の多くは彼の最も苦手とする恋愛関係だろうが…………。


 それに俺は、英一以上に頑張らなければならないだろう。まずは、優香とどう接するかだ。来週中に必ず俺は優香に捕獲されるだろう。いつもそうだった。俺が優香を怒らせたら、一週間以内に必ず捕まえられていた。来るべきに備えて俺は対応の仕方を決めておかなければならない。


(はぁ………。気が重い………。これからどうすっかなぁ〜〜。)


 俺はそんなことを考えつつ、ソファーに体をあずけるのであった。


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