第8話 出会い【修正済み】



「はぁ、はぁ………。」


 裕太は肩で息をしながら、


「ぎりぎり間に合った……………。」


 先生と別れた後、裕太は全速力でここまで歩いて来た。そのお陰で入学式に遅刻することはなかった。彼はあの時、見逃してくれた先生に心の中で感謝した。再び会った時にはお礼を言おうと心のメモに記しておく。でも、本当はもう二度と会いたくないと思っているのは彼の中だけの秘密だ。


 久々に激しく動いたのは明日は確実に、筋肉痛で動くこともままならなくなるだろう。そうなれば買い物には行けないので今日中に、土日の分の買い物もしておかないといけなくなってしまった。寝坊するとろくなことにならないな。


 ふと辺りを見回してみると沢山の人だかりができていた。それもそうだろう。この高校は県内でも生徒数の多い学校で有名だからだ。先生方が何か言っている。人が多すぎてうまく聞き取れないが、少し耳を澄ませれば聴き取れなくもなかった。


「張り紙で自分のクラスを確認したら、クラスごとに並んでください!」


 先生方は新入生に指示を出していた。指示を聞いた裕太は人の波に流されそうになりながらも張り紙の前にやってきた。


「俺のクラスは…………。」


 まずは、自分のクラスの確認が最優先なので自分の名前を張り紙の中から探していく。一組から順に探しているとそう長い時間がかかることなく自分の名前を見つけることができた。


「あった。三組か。知り合いがいればいいんだけどなぁ…………。」


 現在分かっている範囲では、この高校に入学する彼の知り合いはたったの二人だけだ。親友とその彼女だ。八クラスもあるので、彼らのどちらかと同じクラスになれる確率は皆無に等しい。


 自身でもわがままだとは分かっているが、同じクラスになるのであれば親友の方が良い。なぜなら、中学生の時から裕太は彼の彼女と話すのに苦手意識があったからだ。


 それには深いわけがあったのだが、今年からはその要因となっていた人物がいないから大丈夫と思ってもいいかもしれない。裕太は出来れば彼らのクラスも確認したいのだが…………。


「う~ん。あいつらのクラスを確認しようと思ったが、この人だかりだと難しいな。」


 自分のクラスを確認するだけでもかなり難しいほどの人が張り紙の前にいる。自身のクラスだけでもすぐに確認できたのは幸いだったのだ。


「まぁ、どうせまた後で会うだろうからその時に聞けばいいか。」


 裕太は諦めて自分のクラスの列に向かった。





「え~~と…………。この列かな…………。」


 多くの人たちが並んでいるので、自分のクラスを見つけるだけでも一苦労になっている。


「いない…………みたいだな…………。」


 裕太は周りを確認してみたが、見える範囲には知っている顔ぶれを見ることはできなかった。彼と同じ中学校出身の人はあの二人以外いないのかもしれない。


 それに二人とも三組の列にはいないので別のクラスになってしまったかもしれないと考える裕太。彼がそんなことを考えていると、横から声をかけられた。振り向いた先にいたのは隣に並んでいた同じクラスの人だった。


「やぁ、初めまして。俺は植城一輝。これから一年間よろしく。」

「こちらこそよろしく。俺は神崎裕太だ。裕太って呼んでくれ。」


 知らない相手だったものの、裕太はこの人となら仲良くなれると思った。それは何故か。簡単な話だ。裕太は一輝を見た瞬間、自身と同じような苦労をするであろう人物に見えたのだ。特に女性関係で…………。


 裕太は優香との関係で多少苦労したことがある。一輝にも自信と同じような困難が待つ受けているような気がしたのだ。だが、まだそのような苦労をしたようには見えないことに気が付いた裕太はこれから一輝が困っていたらできる限り助けようと誓うのであった。


 余談かもしれないが、もうすでに一輝は女性関係で困った事態に陥りかけている。実は彼を捜しているある少女が居るのだ。その少女はある出来事がきっかけで一輝に片思いしていた。彼女が一輝を見つけたその時、二人の物語は一気に動き出す。だが、これはまだまだ先のことのなので、今は深く話す必要はない。


「それなら、俺のことも一輝でいいよ。裕太。」

「分かったよ。一輝。」


 そんな会話をして二人は固い握手を交わした。皆緊張しているため会話はほとんどないと言っていいかも知らない。だから、ほとんどの人が入学式で友人ができることはないだろう。そのことから裕太は入学式に話せる相手ができたと言うことは相当運がいいのもしれない。


 ただ、これから彼には不幸な出来事が待ち受けているのはまだ彼自身が知るところでない。



 ”これから一体どんな楽しい毎日が待っているのだろうか?”



 裕太はこれからのことに期待を膨らませながらを、先生方から次の指示が出るまで待ち続けるのであった。


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