第7話 真実【修正済み】



「はぁ、はぁ…………。やっと着いた…………。」


 肩で息をしている裕太。ようやく学校の校門までやってこれたのだ。そんな彼は思わず気が抜けてしまった。彼はそのまま、歩いて会場まで向かうことにした。ゆっくりと周囲を見渡しながら歩いていく。


 すると敷地内にある桜の木が立ち並んでいる場所が目に留まった。満開になった桜たちは風になびいて揺れ動いている。ひらひらと大量の桜の花びらが空を舞う。空と地面と桜の花びらたち。それぞれが互いを強調し合うことでこの光景が生み出せれているのだ。


 どれかが欠けたその瞬間、それは失われてしまう。『儚さ』というものを見た人々に教えてくれるその光景の余りの綺麗さに見惚れてしまった裕太はその場で立ち止まり、その景色を眺め続ける。そうして、時間が過ぎていく。



『キーン、コーン…………。』


 ふと耳に入ってきたチャイムによって裕太は現実に戻って来た。それと同時に気が付く。周りに誰一人いないことを…………。


「あ…………。ヤバい…………。」


 こんなところで道草を食っている場合ではない。一刻も早く、会場へと向かわなければならない。そう思ったことが最大の失敗となる…………。




 裕太が急いで目的地へと向かうため、廊下を走っていると…………。


「こら! 走るな!」


 ある怒声を聞いた。周りには誰もいなかったので、自信に向けて言われたことはすぐに分かった。その証拠に、声を発したであろう先生がこちらにゆっくりとそして確実に近づいて来るのが見えた。おそらくその先生は生徒指導の先生だ。


 その先生の第一印象は恐ろしいと言う一言に尽きる。それ程の迫力があった。それにこの先生は体育の教師なのだろう。そのことが容易に想像できる先生ほど体格のいい先生だ。


 そんな体格は彼の雰囲気と相まって、恐ろしさをより際立たせている。裕太がそんなことを考えているうちに、先生が彼の前にやってきてしまった。


「廊下を走っていたのはお前だな?」


 裕太より十センチほど慎重の高いその先生は見下ろしながら、裕太に問いかけてきた。


「はい………。」


 裕太は素直に答えた。言い訳をしてはいけないと彼自身の直感が叫んでいたからだ。彼の直感はよく当たるので、それに従ったのだ。


 この先生は見た目に反して優しい先生なのだが、基本的に生活指導をする先生としてそちらの面に関しては厳しめの対応をしている。


「はぁ、分かった。生徒指導室まで行くぞ。そこで反省文を書いてもらう。」


 これで裕太が入学式に遅れることはほぼ確実となった。でも、これは自分自身の蒔いた種。つまり自業自得なのだ。裕太が入学式を諦めて、先生に付いて行こうとしたその時…………。


「それにしても、見たことのない顔だな?」


 先生と一緒に歩いていると裕太の顔を眺めながなら、首をひねっていた。先生が裕太の顔を目にしたことがないのは当然の話。だって裕太は今年の新入生なのだから…………。先生もその結論にすぐに至った。


「まさか、お前…………。新入生か?」

「えっ、あっ、はい………。」


 裕太はそんな事を聞かれると思っていなかったので、焦ってしまいたどたどしい答え方になってしまった。


「そうか…………。なら、早く行け!」

「えっ?」


 少し考える素振りをしたかと思うと、突然裕太にこんなことを言ってきた。裕太は、一瞬何を言われたのか理解できず、無反応だった。少したってから先生の言っていたことが頭に入ってきた。


「後少しで集合時間だろ?」

「だと思います…………。」


 先程予鈴がなってしまったので、もう少しで集合時間の八時五十分になる頃だ。


「そうだろ? だから、今回ばかりは見逃してやる。新入生だしな! ただし、次はないからこれからは十分に注意しろよ?」

「はい。ありがとうございます。」


 厳しい先生かと思ったら以外に優しい先生なのだなと思う裕太。でも、次は見逃してくれないようだ。これに関しては裕太も予想していた。まぁ、当たり前のことだろう。なぜなら、先生が今回見逃してくれたのは裕太が今年の入学式の主役である新一年生だと言うことが一番大きいからだ。


 今までも早めに行動を始めようと心掛けてはいたが、今回の事がきっかけでより一層気を付けようと思う裕太であった。もう二度とこの先生と一対一で話すのはごめんだというのが一番の理由なのは誰にも言えないだろう。


「つべこべ言わずに早く行け! ただし、走るなよ?早歩きでならいい。」

「はい!」


 やはり怖いには変わりないなと認識をまた改める裕太。先生の迫力は十分すぎるほどある。


「止まるんじゃねぇぞ! 止まったら遅刻になるぞ!」

「わ、分かりました。」


(ひぃ~~! やっぱり怖すぎるだろこの先生!)


 そんなことが頭をよぎったが、今はなりふり構ってはいられない。そう考え、裕太が再び歩き出そうとしたその時、先生はこんなことを言ってきた。


「あぁ、一つ言い忘れていたが、俺は体育の教師じゃないからな。」


 裕太はつい『何言ってんだこいつ』と思ってしまった。どこからどう見ても体育科の教師にしか見えない先生。なら担当の強化は一体何だと誰もが問うだろう。その疑問はすぐに解決した。先生本人が言ってくれたからだ。それも衝撃的な答えをだ。


「俺は美術の教師だ。忘れないでくれよ。いつもみんな忘れちまうから…………。」

「はい、分かりました。」


 いまいち、彼の言っていたことを理解できなかった裕太だが、とりあえず返事をしてから、先生の言いつけを守りつつ、全速力で歩いて式場へ向かった。

























 裕太は早歩きで式場へと向かっている中で、ふと、先生が最後に言っていたことを思い出した。


「?」


 体育じゃなくて美術の教師だと言っていた。それは分かったが、うまく頭が処理しきれず完全に理解できない。いや、理解することを拒否していると言ったほうが良いかもしれない。段々と裕太の頭が真実を受け入れていく。


「!?」


 そして、ようやく頭が理解したのだ。


「えっ? え~~~~~~!」


 衝撃的な事実を知った裕太はその場で思わず叫んでしまう。周りに誰もいなかったのは唯一の救いだろう。もし誰かいたのならば、頭のおかしな人を見るような目にされされていたかもしれない。





 これは、彼の中で今年一番の衝撃的な事実だった。


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