第5話 優香と真理(優香視点)



 今日は入学式。私はある用事があって、早めに学校に来ている。


「はぁ…………。なんで私が…………。う~~~!」


 私は頬を膨らませながらつぶやいた。まぁ、今更考えても無駄なので諦めるしかない。


「はぁ~~~~~。」


 私が深いため息をついていると突然背後から抱きつかれた。


「優香ぁ~~~!」

「ひゃぁ!」


 突然の事だけに心臓が止まるかと思った。それに奇声まで上げてしまった。恥ずかしすぎる。穴があったら入りたい。私がそんな醜態をさらす原因となった人の正体はもちろん…………。


「久しぶり! スリスリ!」


 私の中学生時代からの親友である山村真理だ。彼女は私の肩の上から顔をのぞかせつつ頬ずりをしてきた。突然、後ろから抱きついてくるなんて言う奇行をして来るのは彼女ぐらいだ。全く、真理は…………。そういうことは彼氏として欲しいものだ。


「なんだぁ…………。真里かぁ…………。もう来てたの?早いね。」

「優香の方が早いじゃない。どうしてこんなに早く来たの?」


 抱き締めていたのをやめつつ前に回り込んできた真理は私の訪ねてきた。


「あぁ、実は新入生代表挨拶をする事になったのよ。」

「おめでとう! 凄いじゃない! 頑張ってね!」

「うん……。」


 親友が応援してくれているのはとてもうれしいことだ。でも、何故か元気が出ない。


「んっ? どうしたの?」


 そんな憂鬱な私の気持ちを察してか、彼女が心配そうに私の顔を覗き込んできて声をかけてくれた。だから、私は彼女に話しを聞いて貰うことにした。


「えっ! あぁ、うん……。あのね、実は新入生代表挨拶、元々私がする予定じゃなかったんだよ。」

「えっ! どういうこと?」


 そう、本当は私が挨拶をする予定ではなかったのだ。


「本当は、首席の人がする予定だったんだけど、断ったらしくって。」


 その原因は主席だった人が挨拶を辞退してしまったからだったのだ。つけが回ってきた私にとってはたまったものではない。


「あぁ、それで。でも、優香ってそこまで点数良かったけ?」

「まぁね。今回は頑張ったからね。」


 入学試験の時に私は自己最高得点を取ることができた。まぁ、その結果こんなことになったのだけれど…………。


「それで次席だったの?」

「そのお陰でこんなことになりました。」

「あはは…………。それにしてもなんかあいつに似てるね、その人。」


 真理は、話をしていくうちに似たようなことをする人が思い浮かんだらしい。確かにこんなことをしそうな人が私の身近にいたような気がする。悩んでいるうちに裕太の顔が思い浮かんできた。彼ならするかもしれないことだったからだ。


「あぁ、裕太ね。確かに行動が似てるわね。」

「まさか、本人だったりして?」

「さぁね?」


 もちろん私は裕太の進学先を裕太のお母さんである双葉さんに聞いてある。彼の引っ越し先を聞いた時ついでに教えてくれたのだ。


「なんか含みのあるコメントありがとう。あっ、そうだった! 聞くのを忘れるところだった! で、昨日どうなったの?」

「昨日?」


 真理は急に話題を変えてきた。


「神崎に会いに行ったんでしょ?」


 裕太つながりで思い出したのだろう。彼女には私が裕太の家に行くことを伝えていた。私は素直に彼女の疑問に答えた。ついでに彼の行った悪行も言っておく。


「うん…………。でも、すぐ追い返されちゃた!」

「そうだったの!」

「そのお陰で昨日は碌に食べられなかったんだよ!」


 昨日は高校の下見に来ていたので、帰りに裕太の家でご飯を食べさせてもらってから家に帰るつもりだったのだ。そのことをお母さんに伝えていたから私のご飯は作ってない。


そのため、追い返された後、お店に行って食べることになったのだ。でも、帰りの電車賃も必要なので、いつも食べている量より少ない量しか食べられなかった。


「懲らしめないとね?」

「もちろん、そのつもりだけど?」


 真理が苦笑いを浮かべている。みんな私が怒ったら怖いと言うらしい。背後に死神が出るとかでないとか…………。う~~ん? 私的には全然怖くないのだが…………。


 それに、懲らしめる機会なんてこれからいくらでもある。なぜなら、私はこの学校の近くに引っ越しをするからだ。その引っ越し先は…………。まぁ、このことはまだいいから置いておこう。


「あらあら。神崎、御愁傷様。自業自得だから仕方ないことだけど……。」

「次会ったら、ただじゃおかないんだから!」

「ふふっ。まぁ、元気が出てきたようで何より何より! でも、神崎を懲らしめることを考えるのは、挨拶が終わってからだからね!」


 真理とたわいもない話をしていたことで自然と元気が出てきたようだ。今は彼女と会ってすぐと違って笑顔で話せるようになってきていた。


「うん。それじゃ、もう私行くね。」


 私は真理に一言声を話しかけてから式場へと向かっていく。


「分かった。じゃあまたね!」

「うん!」


 やっぱり彼女は私の一番の親友だ。私は真理に心の中で感謝しつつ、挨拶に向けて気合を入れなおすのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る