第4話 危機【修正済み】




「んぁ…………。」


 いまだ眠たげな裕太はチラリと時計で時間を見た。現在、八時十分。


「…………。」


 彼はぴたりと動きを止めたまま、微動だにしない。


「!!!」


 カッと目を見開く裕太。一気に眠気が冷めたのだ。彼は八時十五分に家を出て、高校へと向かうつもりだった。今の時間から準備しても予定通りの時間にここを出ることはほぼ不可能なのだ。


「まずい!」

「このままだと、 入学式に遅刻にするかもしれない!」


 裕太が慌てて、ベットから飛び起きる。彼は寝間着から制服に着替えながら…………。


(ちっ! 今日は入学式があることを完全に忘れていた!)





 彼がこのような事態に陥った原因。それは一時間半ほど前の彼自身の行動だった…………。






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『ジリリ、ジリリ……』




 裕太は目覚ましの鳴る音を聞いて薄っすらと重たい眉を開いていく。片目だけしか開けられていない裕太はそのまま体を起こして目覚ましを止めた。


(まだほとんど寝れていないのに……。何でこんなに早くから目覚まし鳴らすように設定したんだ? まだ六時半じゃないか。今日もまた何もない日なのになんでこんなに早く起きないといけないんだ……。)


 余り働いていない頭でそんなことを考えていた。彼は昨日、深夜に目覚めてしまったせいであまりよく眠ることができていないのだ。


(それにしてもあの夢は何だったんだ?)


 ふと、夜に目が覚めてしまった原因を探ろうと頭を働かせようとしてみた裕太。でも、今はそれどころではなかった。なぜなら、彼は少しでも気を抜いてしまえば、すぐに寝てしまいそうだからだ。


(はぁ……。八時ぐらいまで寝ておくか…………。)


 結局、裕太はなぜこんなに早くに目覚ましを鳴らすようにしてしまったのか思い出せないまま再び布団にくるまって眠りにつくのであった。



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 小さなミスを犯してしまった裕太。その後すぐにそのミスに気が付き、修正していれば何も問題は起こらなかっただろう。でも、その小さなミスは今となっては大きなミスとなってしまっている。


 いくら頭が余り働いていなかったとはいえ、あれほど楽しみにしていた大事な大事な入学式を忘れてしまっていただなんて誰にも言えないだろう。


 彼は入学式を楽しみにしていたなんてこと幸か不幸か、誰にも言っていない。敢えて言うならば、リビングのソファーに座ってるクマのぬいぐるみには話していたのだが…………。


 まぁ、誰にも言っていないと言うことは彼自身が自分の口から言わなければ誰にも伝わることはないと言うことだ。でも、今の彼に取ってそんなことを気にしている余裕なんて全くないようだが…………。


「急がないと本当にまずい…………。」


 大慌ての裕太。自室の中であっち行ったりこっち行ったり動き回りながら着替えていく。相当慌てているようだ。


「入学式に遅刻するなんてこと絶対に避けないと…………!」



 思わずそんなことを呟きながら、着替え終わった裕太は急いで自室から洗面所に向かう。


 ちょうど洗面所で歯を磨いている時に彼は自分のネクタイが少し曲がっていることに気が付いたものの、直す暇もないらしくやむなく見なかったことにした。顔を洗い終わった裕太は自分のカバンを取りに再び自室へと戻る。


 そして、今彼の準備は整った。今までで一番早く準備を済ませるという偉業(?)をなしとげた彼は玄関へと小走りで向かった。


『ぐ~~…………。』

「ちっ…………!」


 しかし、世の中はそんなに甘くはなかった。彼が外に出ようとした瞬間、彼のお腹が鳴ってしまったのだ。裕太はその音に対して思わず舌打ちで返してしまった。


 でも、このまま空腹を無視するなんてことはできない。とは言っても、今からきちんとした食事を取る時間もない。仕方なく一旦台所まで戻り、パンを一切れ銜えてから玄関に向かって走り出す。走りながら食べるつもりのようだ。


 準備万端だと思っていたのに一番大事な腹ごしらえを忘れてしまっていたなんて、さすがは大事なところでポカミスをしてしまう裕太だ。


 少し自宅を出る時間が押してしまったが、もっと後から気が付くなんてことにはならなかったからまだよかったのかもしれない。もしかしたら入学式中にお腹が鳴っていた可能性もある。そんな最悪の事態を避けられたのだからまだ良しとするべきだろう。



 そして、裕太は玄関につくと目の前にあるドアを勢いよく開けて外に出た。


「行ってきます!」




 彼は自宅にそんな一言を残してから学校に向け、全力で走り出すのであった。




















 階段を走り降りている途中で裕太は気がついてしまった。自分の犯してしまったある失敗を…………。それは…………。



「鍵閉めてない〜〜〜〜!」



 そう、彼は自宅の鍵を閉めるのを忘れていたのだ。まだ、部屋を出てすぐだったのは、不幸中の幸いだろう。急いでいたのと一人暮らしに慣れていなかったのと二つの要因が重なったことで起きてしまった悲しい事件だ。



(これ本当に大丈夫かなぁ…………。)



 彼は、ふとこれからのことに対して少しだけ不安を抱きつつ、鍵を閉めるためにこれまで来た道を引き返すのであった。



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