第一章 幼馴染

第1話 ドアを開けたら……。【修正済み】



 高校の入学式が明日に迫っているある日。



 一人の少年がただただ、リビングにあるソファーの上で脱力しながらボーっと天井を見つめていた。彼――神崎裕太は少し前にこの部屋へと引っ越して来た新一年生だ。


 彼は進学後、一人暮らしをするために家からかなり離れた高校を選んだ。そして中学校の卒業式が終わって少し経ったのちこちらに引っ越してきた。これまでのことから分かるかもしれないが、裕太は一人暮らしというものに憧れを持っていた。


 しかし、それが楽しくないと気が付いたのは引っ越しをしてから僅か一週間も経たぬうちだった。裕太はすべての家事ができるし、その中でも料理が最も得意だ。基本的な生活に問題はない。しかし、問題は別にあったのだ。一人暮らしの寂しさに耐えきれなくなってしまったのだ。



 最初は自分自身の好きなように過ごせるのでとても楽しい日々だった。そんな日々も最初だけ。少しずつ、少しずつだが、孤独感が増していった。


 もともと裕太は実家で両親と妹の家族三人と一緒に過ごしていた。小学生の頃なんてお隣の家族ととても仲が良く家族ぐるみでの付き合いがあった。まあ、この事は今はどちらでもいい。


 ともかく、裕太の家庭は今も昔も変わらずとても賑やかだ。でも、彼はその賑やかさに嫌気がさして、一人暮らしをしたいと思うようになったのだ。だが、そんな家庭に慣れていたせいか、静かすぎるとどうも落ち着かないのだ。


 最近は、熊のぬいぐるみに話しかけて寂しさを紛らわすようになってしまった。この熊のぬいぐるみは孤独感に耐えかねた裕太が、最近になって買ってしまったものだ。


 そして今日も日課となってしまったぬいぐるみに話しかけると言う奇行をしている裕太。


「はぁ……。なぁ、学校早く始まらないかなぁ。」


「んっ? 元気出せって?学校始まるまで、話し相手になってやるからだって? いやぁ~、本当にありがとな。お前がいなかったら、寂しくて仕方なかったぜ。」



 いつもこんな風に彼は話しかけている。周りから見たら明らかに頭のおかしい人だ。裕太にだってその自覚はある。でも、寂しく寂しくて落ち着かない。だから、こんなことをしてしまう。





 ボーっとしていた裕太の視界の端にふと、窓の外の風景が写った。もう日が傾いてきている。もう少しで山の陰に隠れてしまうだろう。つまり…………。


 裕太は勢いよく振り返った。そう、時計を見るために。予想通り、もう5時すぎになっていた。もうすぐで、日が完全に落ちてしまう。日の入りまでには買い物は済ませ、帰宅しておきたいと考えていた。そのためには、今すぐ出かけねばならない。


「やべっ!」


 冷蔵庫の中身や持ち物の確認をしていく。


(よし、これで準備万端。)


 そして、急いで買い物に行くための準備を終えた。


 いつもは裕太は自炊をしているが、一人寂しく食べているので料理をするのも億劫になってきている。実家暮らしの時は家族が美味しそうに食べていた。家族のため、ということで料理をするのが苦にならなかった。だが、今家に居るのは彼一人だけ。億劫になってきてしまうのもやむを得ないだろう。


(はぁ…、考えても無駄だな…………。)


 この状況は彼が自分自身で望んだ結果なのだ。割り切るしかない。そう考えながら、玄関に向かった。


「今日の晩御飯は何にしよう?」



 そう呟きながら部屋のドアを押した。しかし、いくらドアを押しても開く気配はない。


(鍵は開けているのに何故だ?)


 そんな疑問が脳裏によぎった。だが、鍵が閉まっていないと言うことは開かないなんてことはあり得ない。そして、再度試した。今回は勢いを着けて思いっきり押したのだ。



「きゃぁ……。」



 ドアは開いた。今回は多少の抵抗はあったものの、すんなりと開いてくれた。しかし、…………。


 ふと、その時のことを思い返したみた裕太。そうするとその時のことを鮮明に覚えていた。茶系の綺麗なセミロングの髪が視界の端に写っていたことを。そして、とても懐かしい声が聞こえたことも。


 声が聞こえてきたドアの向こうを見る。目の前の光景を見て裕太は驚きのあまり思わず目を見開いてしまった。だって、…………。


(なんだそう言うことか…………。)


 懐かしさを覚えたのも、当たり前のことだったのだ。なぜなら、…………。









 そこに居たのは裕太の幼馴染――宮間優香だったからだ…………。












<あとがき>

 第一章と言う名の前置きの始まりです。これからよろしくお願いします。





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