第4話 湖畔の騎士

 湖畔はわたしに自然の美しさを改めて感じさせた。水は透き通りとめどなく流れ、月日とともに削られた岩や青く茂った草木が静かな、しかし確かな命を謳っているように思えた。

 湖畔で出会った騎士は親切な男だった。食料や旅に必要なものなど何でも分け与えてくれたのだ。今の時代では希少となっていた隣人愛とでも言うべき心がそこにはあった。

 しかし、幾つか言葉を交わしたほか、わたし達はお互いを探ることはなく、深く語りあうこともなかった。男は知っていたからだ。いつ死ぬかも分からない人生で過度な友情は心を縛り、いつか苦痛を強いる。彼も道すがら多くを失ってきたに違いない。それでも彼の目は強い決意を讃え、これまでの犠牲が報われる日を信じていた。

 わたし達は湖畔でわかれた。共通の志があるとしても、行くべき道が同じとは限らないものだ。わたしはこの先の村へ、彼は少し離れた街へ。

 わたしはしばらくは使命のため生きると決心していた。湖畔の騎士の静かに燃える意志がわたしにそう思わせたのだ。

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絶望騎士 @torinoousama

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