第2話 墓標

 異形の手先。突然現れた恐ろしい怪物、世界の何処かにある異形の根源から生み出される悪夢。

 山道は鬱蒼と木々が生い茂り視界が悪い。老騎士である父は飛び出してきた異形に為すすべもなかった。わたしは父を殺した異形の手先を何度も斬りつけた、その時ばかりは怒りに身を任せて。しかし異形が死ぬことはなく、どれほど時間がかかろうとも必ず生き返る。

 こんな場所で墓など作れない。しかし父の遺体を町まで運ぶことも出来ない。父はかつて高名な騎士として王に仕え、晩年は自らの意志で辺境の要塞の騎士となった。本当ならば英雄として葬られてしかるべきだった男だ。

 父の遺体はここで朽ちてゆく。わたしは希望を失った悲しみだけをこの場から連れて行けるのだ。

 

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