第3話 女盗賊は行動力と洞察力がやばい
よし、勇者とラブコメさせられる人材を探そう。そう思って女盗賊エッタに会いに行くと、突然俺の懐に入ってきて耳元に口を近づけられる。
「好きです。ずっとパーティーに来るのを待っていましたよ、アレンさん」
「そうじゃない!……はっ」
俺は思わず告白に対する返答としては意味不明の返事をしてしまう。
一体何でこうなってしまったのか。まずここは盗賊ギルドの中。本来は身分が高い人間などが黒い依頼を行うためにあるシークレットルームである。何でこんなところに通されたのか疑問でいっぱいだったが、彼女の行動で納得した。確かに勇者にばれたらアウトだからな。
「ごめん、その前に……まず俺たち会ったことあったっけ?」
「え、ないですよ?」
当然ですよみたいな雰囲気で返してくるエッタ。ちなみに彼女は小柄で手足が細く、いかにも素早そうな体つきをしている。年齢も幼いのか、ちょっと童顔でちょこんと首をかしげる仕草が可愛らしい。
「何で俺のことを好きなの? あ、恋愛じゃなくて魔術師としてリスペクトしてる的な?」
確かにそれはありえる。俺が恋愛脳になっているだけで本当は純粋な尊敬とかで……
「いえ、恋愛的にですが。告白した相手にそういうこと言うと嫌われますよ」
何でだろう、俺のことを好きな相手と話してるはずなのになぜか苛々する。
「何で会ったこともない相手から恋愛的に好かれてるんだよ」
「あれは二年前のことです。私が王都の魔法学校に忍び込んでいた時でした」
「当然のように忍び込むな」
勇者パーティーにいるということは国で最強クラスの盗賊である。おそらく、本気で隠密している彼女を見つけることが出来る者はいない。
「いえ、魔物を倒すのに魔法学校に保管されている宝具がどうしても必要だったのですが、許可をとるより私がとってくる方が早いと。あ、今の許可をとると私がとってくるを……」
「うるせえ」
まあ、魔物を倒すのにいちいち手続きなんか踏んでられないというのは分からなくもない。
「それで?」
「そのとき私はアレンさんを見かけたんです、寮の自室で勉強に熱中しすぎてそのまま寝落ちしてしまうアレンさんを。その寝顔がとても可愛らしくて……というのは冗談として、私ひたむきな人って好きなんです」
エッタは真剣な表情で俺を見つめてくる。確かにひたむきと言われればこの上なくひたむきであった。……主にアクレイアに対して。
「そして寝言で言ってたんです、いつか絶対勇者パーティーに入ってやる、と」
まあアクレイアと同じパーティーになりたかっただけなんだがな。
「いや、でもアルフォンゾだってひたむきだろ?」
俺が勇者の名を出すとエッタは露骨に嫌そうな顔をした。やめろ、俺じゃなくてあいつを好きになってくれ。
「えー、でもあの人色々こじらせてますよ。知ってます? あの人前にいた魔術師の女の子のこと好きだったのに、別の男と結婚して子供まで出来たせいでしばらく飲んだくれてたんですよ?」
「そうだったのか」
なるほど、それであんなに荒れてたのか。腹立たしいのは変わらないが同情はする。
「だからって無関係な人を巻き込んで恋愛禁止令出すとかありえなくないですか?」
そこで俺は重要なことを思い出す。
「そうだよ、恋愛禁止令だよ。あれひどいってエッタも思うよな? 何とか勇者を説得してなくそうぜ」
「はい! ……あれ? でもそう思うってことはアレンさんも好きな人いるってことですよね?」
まあ普通に考えてそうなるな。いや、ここで「一般論だから」とか言えば良かったのかもしれないが、俺は思わず答えに間を開けてしまう。
「えーと……」
「どう考えてもそれ、私じゃないですよね。だって会うの初めてですし」
「そうだな」
「アレンさんは魔法学校に親しい女性の方はいなさそうでした」
エッタの推理は続く。何かすげえ嫌な予感がするぞ。
「何で知ってるんだ?」
「その後もアレンさんに会いたくてちょくちょく忍び込んでましたもん」
「ちょくちょく忍び込むな」
「でも魔法学校って一般の人は入れませんし。そしてアレンさんは寮と学校を行き来していたので外に好きな人がいる可能性もゼロ。そしてあれほど勇者パーティーを目指していた。私はそれを魔術師としての憧れだと思っていましたが」
「わー、待て、わーわーわー」
もはや俺に出来ることは意味のない奇声を発してエッタの発言をかき消すことだけだった。が、エッタは一人で結論にたどりつく。そして俺を指さして憤慨した。
「最低です! ひたむきに勇者パーティーを目指している振りをしておいてそんな邪念があったなんて! もう知りません、私のこと好きになるまで一生恋愛禁止されていてください!」
そう言ってエッタは部屋を出て行ってしまった。俺悪くなくね? うーん、どうすればいいんだ? 早くも三角関係になっているぞ? というかこの惨状を見るに恋愛禁止令は正しかったのでは? とすら思えてくる。俺は頭を抱えた。
いや、だがまだパーティーにはあと一人メンバーがいる。女剣士エリィだ。もはや色々なことを彼女に頼るしかあるまい……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。