かえりみち

花梨糖

いちねんせい

「先生、さようならー」

「浅倉さん、さようなら。桜井さんもさようなら」

「……さようなら」


 浅倉颯夏あさくらりつかはわくわくしていた。国語と算数の教科書と桜井優和さくらいゆわとおそろいで買った筆箱の入ったランドセルをカラカラさせて、今にも走り出しそうだ。そんな颯夏を優和は不安そうな顔でみている。


 この小学校では、入学してから何日かは先生と集団下校することになっている。それも昨日まで。今日からは、颯夏と優和だけで帰るのだ。家が隣のふたりは、保育園の頃からいつも一緒に遊んでいたが、この距離を二人だけで歩くのは初めてだから、ちょっとした冒険気分だった。


「早く!」と言って颯夏は突然走り出した。「待って、走らないで」優和は、急いで追いかけた。颯夏は砂利の敷いてある空き地でようやく足を止めた。

「石蹴って帰ろっと」颯夏は、蹴りやすそうな、まるっこい石を探し始めた。追い付いた優和も、たくさんの石に目を輝かせて、しゃがみこんだ。


 しばらくして、優和は手のひらに黒くてさらさらした石ときらきらした部分のある白黒のまだらの石をのせて、颯夏に見せた。「りっちゃん、この石きれいじゃない?」「宝石みたい!」颯夏は、目を輝かせてその石を受け取った。「この石誰にも見つからないように隠しておかなきゃ。どこがいいかな?」優和は、くるりと一周回って辺りをみて、ある一点で目を止めた「あそこがいいんじゃない?」


 優和が、見つけたのは家の塀と塀の間の細いスペースだった。雑草がぼうぼうに生えていて、外からは目立たなくなっている。ふたりは、雑草を踏み分けて中に入っていった。葉がふたりのからだに擦れてくすぐったくて、くすくす笑いながら奥へ進んだ。


「ここにしよう」一番奥まで行ったところで石を隠すことにした。何本か雑草を抜いて、石を置くスペースを作り、そこに抜いた雑草を輪っかにして並べる。その真ん中に石を二つ並べて置いた。


 ふたりは、立ち上がって出来上がった宝物置き場を見た。上から細く太陽の光があたって二つの石が本物の宝石のようにきらきらと輝いた。「また、新しく見つけたらここに隠していくことにしよう!」「そうだね!」ふたりは約束して、もう一度くすぐったい思いをしながら宝物置き場から出た。


 歩いていると、車通りの多く車道と歩道の境目が分かりにくい道に出た。この道は、ふたりのかえりみちの中で最も危険な場所だ。親や先生もこの道を通るときは特に気を付けてと忠告していた。そのことを思い出したふたりは、気を引き締めて、少し緊張しながら歩き出した。ふたりで横に並ぶのは危ないので、前に優和、その後ろに颯夏が縦に並んだ。


 そのうち、前で小さく上下するランドセルをかついだ背中を見ながら歩いていた颯夏は、貨物列車をしたい気持ちになってきた。そっと優和の背中に手おこうとしたが、ランドセルが邪魔で届かない。仕方なくランドセルに手を置いて小さく歌い出す。

「かもーつれっしゃ しゅっ しゅっ しゅっ」


 いきなり背中が重くなって、歌声まで聞こえてきたので優和は転びそうになった。「りっちゃん、何するの?危ないよ」少し怒りながら言うが、颯夏は気にしない。「ほら、ゆーちゃんも歌おう」と言って続きを歌い出した。颯夏の楽しそうな歌声を聞いているとだんだん楽しくなってきて、ついに優和も歌い出した。


 少し跳ねながら、歌って歩いていくうちに、ふたりの家が見えてきた。

「ばいばい、ゆーちゃん」

「じゃあね、りっちゃん」













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

かえりみち 花梨糖 @karinrin_tou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ