3 さあ、銃殺無双の開幕なり!
「魔王さま、冒険者どもの情報です!」
【疾風の魔法剣士 ザーパト Lv69】
【冷ややかな魔術師 オリエンス Lv53】
【黒き
【エルフの一級
HPとMPの詳細な数値はわからないが、森から現れた冒険者どもは四人パーティだ。
【冒険者生存数 4/4】
次いでそんな数値も現れる。……ほう?
俺のわずかな記憶の中では初めてだ。スキルFPSのおかげか。
戦闘になった
「慌てるなよ、囲んで狩るぞ! いつものようにな!」
四人のうち優男の魔法剣士がリーダーか。軽やかに風に乗り、草地の上を飛ぶように回り込むと、じっくり距離を詰めてくる。
「スキル起動!
【
その手に握る魔法剣には風の渦が発生し、徐々に大きくなっていた。
「さあ、風よ! 風よ風よ風の刃よおッ! 溜めに溜めて、魔王でもなんでも一撃でぶった切ってやる! そしてこのオレもついに英雄の仲間入りってわけだぜ! ハハハ!!」
「独り占めですか、ザーパト? 魔王の膨大なEXPは、トドメを刺した者に与えられるという話です。ならばこの私こそが!」
【
片眼鏡の魔術師が杖を構え、呪文の詠唱に入った。足元に魔力の輝きが走り、複雑な魔法陣が形成されていく。
――あの図形は、氷結系の範囲攻撃魔法か?
「どっちでもいいし! 魔王討伐の報奨金を山分けできたらね♪」
気楽に笑うのは褐色の
「どうせアタシ、バックアップしかできないし。あ、そーだ。英雄になった方の
「……魔王、狩るはワタシ! 使命!」
姿を消したエルフの
「転生を繰り返す、この世にそぐわぬ魂を今度も、サーガイアから追い払う!」
【
スキルで姿を消したエルフは、つがえた矢に威力増強の魔法でも込めたようだ。俺たちの斜め後ろに表示が出た。
もとより魔王である俺には、魔力の揺らぎが丸見えだがな。
エルフとの距離は20mほど。相手の弓矢の射程圏内に入っているが……。
ふ。俺のグロックにとってもいい距離だ。
「魔王さま!」
「オズ」
「……はい! わたくしは魔王さまの盾に!」
従魔に魔法剣士への注視を任せ、俺はくるりと反転する。
同時に向けるのは手にしたグロック18Cだ。
「はっ! なんだそりゃ?」
魔法剣を振り上げて、風を溜め続ける優男が嘲笑う。
他の者たちも同様だ。噴き出した魔術師がつい詠唱を途切れさせ、
こいつらは銃がなんだかわかっていない。当然か。
スキルFPSは俺にだけ与えられた、特別な力なのだから。
「ふ」
思い知るがいい。俺は
パァン!
乾いた音が一つ響いた。
腕に反動が伝わった。
炎が噴き出ることはなかった。飛び出した弾丸を目視することもできない。
しかし、一瞬でグロックのスライドが前後に動いていた。
撃てた。――グロックは問題なくちゃんと、動作した!
「魔王さま!?」
突然の破裂音に耳を塞ぐのは、側にいた従魔オズだ。地面に転がった黒い
「なんだ、今の!」
魔法剣士の足が思わず止まる。が、鼻で笑って魔法剣を構え直した。
「魔法のこけおどしか? はっ、くだらないぜ……!」
「違うな、貴様の認識不足だ」
俺ははっきり言ってやった。
空中にいきなり、魔法の煌めきを宿した矢が現れる。それは一筋の光となって空を駆け――無数に分裂し、あらぬ方向に落下した。
キュドドドドド!
地面が揺れて土煙がいくつも上がる。一瞬で草地の一画が穴だらけに抉られた。
……当たればさすがに危なかったな。
だが、それがどうした? 先にこちらが当てればいいだけのこと。
大弓を手にした格好で、消えていたエルフが姿を見せていた。前のめりに倒れ込む。
「なに!? ユーク、おい!」
魔法剣士が呼びかけるも、もうエルフは応えない。
額に空いたのは銃弾の穴だ。流れ出る鮮血が、緑の草をみるみる赤く染めていく。
当たった。狙い通りに!
「ヘッドショットだ」
【KILL 1】
絶命の証として、オズの胸元に赤い表示が現れた。
キル? いい響きだ。これが銃の威力――。
相手のHPなど関係ない。ヒトの脆い箇所に当たれば即死させられる、というわけだ。
「今のが、魔王さまの新たなるお力? さすがはわたくしの魔王さま! お見事です!」
「ユーク? 嘘、マジ!? なんでやられたの、即死系魔法!?」
「魔法武器とでもいうのですか!? しかし今の攻撃に魔力の波動は感じませんでした!」
魔術師も狼狽え、詠唱途中の魔法陣が歪んだ。
「ザーパト、迂闊に踏み込まないでください! 少なくとも今のは飛び道具のようです! それも凄まじい威力の!」
ほう、やるな。すぐに銃の特性を見抜いたらしい。冒険者にしては頭の回る相手だ。
しかし遅い。もう俺は次に、10mにまで迫っていた魔法剣士へと狙いをつけて……。
パン、パンッ!
「グッ、ガッ!」
近い的ほど当てやすいものはない。鋼の胸当てに二つの穴が穿たれた。
今度は狙いを胴体にしたのは、わざとだ。金属製の鎧を貫通できるかどうか試したのだが、この距離なら問題ないようだな。
「ゲハア!」
血の混ざった息を吐いて、優男の顔が青ざめた。信じられないという表情だが。
「もういいぞ」
パン!
ダメ押しにもう1発、胸のど真ん中に叩き込んだ。
――風が、散った。優男は魔法剣を抱いたまま膝を折り、動かなくなる。
【KILL 2】
ああ、なんて簡単な作業なのか! 俺の指の動きだけで、こんなにあっさり冒険者どもをキルできるなんて。
ぞくりとしたのは、命を奪った背徳感か?
一方で、胸が――ときめく。
これは……圧倒的な力による、愉悦? どうしようもなく笑みがこぼれていた。
「ふははっ、はははははははは!」
「やばい、なんかやばいし、魔王って! ……逃げよう、オリエンスぅ!」
30mほど離れているため、呪文の中身を聞き取ることはできないが、術式を替えた?
【
足元に展開していた魔法陣が分解し、魔術師の背後にいくつも新たな図式が生まれる。
ほう。俺の攻撃を見て、威力より速さと手数を優先した攻撃魔法に切り替えたか。
「だから?」
……呪文の完成より先に、俺の指はグロック18Cのセレクターレバーに触れていた。
パララララッ!
今度は
グロックから一気に大量の弾丸が吐き出された。
「きゃあ! 魔王さまあ!?」
オズが跳び上がって驚いた。俺もすぐに
10発ほど撃っただろうか? その間、わずか1秒にも満たない。
思っていたよりも凄まじい速さでグロック18Cは吠えた。白煙とともに時折、
排莢もあっという間で、地面に黒い
反動も
――グロック18Cはただの18型と違い、スライド上部に四角い穴が空いている。Cの名が象徴する「コンペンセイター」という、発射時のガスを逃がす機構だ。
おかげで18型よりも、撃ったときの跳ね上がりは抑えられるはずだ。しかし
故に、半数くらいは標的に当たらなかったが――。
【KILL 3】
片眼鏡を落として、頭と胸に弾を受けた魔術師が倒れた。
術者を失い、俺たちを囲んでいた光の障壁も掻き消える。
「あー! あー! アタシの足がっ、足があああーーーー!」
悲鳴を上げて転がったのは、巻き添えを食った
女は慌てて虚空からなにかを取り出し、褐色の太股を押さえる。
傷を癒やす薬草の類か。自分で回復魔法くらいは使えるだろうに、痛みのせいで混乱状態のようだ。
だから俺はその間に、悠然と距離を詰めた。
「後は、残り一人ですね。我が魔王アハトさまを舐めるからこうなるのです!」
ついてきたオズが、数mにまで近づいた
どうにか足は癒えたようだが、女は完全に怯えていた。支援系である
常に他の冒険者に頼り、誰かと組まなければ生きていくことができない脆弱な存在。
しかし今、女の近くにあるのは――倒れた魔術師の死体だけだった。
「た、助けて……お願いいぃ。アタシ、魔王の
哀願し、いきなり服を脱ぎ始めた。褐色のたわわな胸が露わとなる。
「ね? ね? けっこういい体してるでしょ? 好きにしていいからさあぁぁ!」
「命乞いか。貴様は間違っているぞ」
つまらない。女の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。汚らしい。
「ヒトごときが、魔王さまの相手に相応しいとでも? 思い上がりもいいところです!」
俺の言葉を従魔オズが代弁する。然り、こんなヤツなどいるものか。
それにな。
「……貴様ら冒険者は、どれだけの魔族を殺してきた?」
俺は女の正面に立つと、グロックの
すでに銃の威力を知る
尻の下に広がるのは黄色い水たまりだった。
「ま、待って……待って、待ってええぇ!」
「魔族が命乞いしても、貴様らは許したか? 違うな」
レベルがすべてを物語る。
こいつらは魔族を殺してEXPを得て、己を高めてきたのだ。
「殺したんだ。殺して、奪った。俺たちの存在の残滓を……!」
「ごめんなさい、ごめんなさあい! もうしないからあああ」
「ダメだな」
絶対にキルする。許さない。だが……。
「否、最後に一度だけチャンスをやろう」
俺は冒険者とは違う。グロックの
「逃げてみろ。俺から逃げ切れれば見逃してやる。この草地を突っ切って、無事に向こうの森の中へ飛び込め」
「え……マジ、に?」
「然り、だ」
「魔王さまが嘘を吐くとでも思うのですか? 痴れ者め!」
オズが怒鳴るが、俺には恭しく頭を垂れた。
「さすがです、魔王さま! わたくしは感服いたしました。よもやこのような下劣なヒトにも慈悲をかけるとは……」
「確かに、こいつを生かして帰してしまうかもな」
ほら、どうした? 俺は女に光の障壁の消えた、草原の果てを指し示す。
――
治った足で立ち上がり、魔術師の死体の脇をすり抜けて駆け出す。
全力疾走だ。しゃんしゃんと手首に着けた鈴が鳴る。
【
同時に、魔力の煌めきが女の下半身を包んだ。ほう? あれは……。
「強化魔法ですか!」
俺と同時にオズが見抜く。
それを走りながら行うとは、手練れの業だ。しかも脚力強化の魔法か。
一蹴りごとに小型の魔法陣を踏みしめて、女は一気に加速していく。
【
さらにもう一つ、光の衣を身に纏った。防御力強化の魔法も重ねるか!
「ふ」
女は必死だ。後ろから撃たれるとわかっているのだろう。
然り。俺は生き延びるチャンスをくれてやっただけ。
グロック18Cを構え直すと、遠ざかる彼女に狙いをつける。
20m、30m――まだだ。
40m。かなり小さくなったが……後少し。
もういいか。
パアン!
セレクターレバーは
俺はグロックの有効射程距離ぎりぎりでの射撃をしてみた。1発で女が転ぶ。
なんだ。50mでもちゃんと狙えば当たるではないか。
だが、さすがにヘッドショットとはいかなかったらしい。まだ動く。
「なんでっ、なんでええええ!」
遠くから泣きわめく声が聞こえた。
着弾時に、光の衣の表面に防御魔法陣が展開したが、役に立たなかったからだろう。弾丸のパワーを甘く見たな。
9㎜は貫通力の高い弾だ。そんなもので射程内の銃弾が止められるものか。
パンッ、パンッ、パアンッ!
俺は次々に弾を発射した。
うち1発がバシッと見事に命中した。女の声が聞こえなくなり……。
【KILL 4】
【冒険者生存数 0/4】
【掃討完了――魔王の勝利です】
「やりました魔王さま! さすが、お見事です! 冒険者どもを殲滅ですね!」
立て続けに出た表示にオズが飛び跳ねる。
……グロック18C、いいではないか。使える!
俺のFPSというスキルは圧倒的だ。銃さえあれば俺は無敵――む?
手にした愛銃に目を向ければ、そのスライドが後ろにずれたまま停止していた。
「弾切れか」
「え? それって、魔王さま!」
グリップから
弾薬の込められた次の
もちろん俺はすぐに乞うた。
「新しい弾よ、出でよ!」
ブブー!
【素材が足りません】
俺の命令を
……なに?
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