4 略奪こそが魔王の覇道と知るがよい

 弾が造れない?

 必要な素材が足りないからか。ならば、補給するのみ。

 俺は草地に倒れる、朱に染まった魔術師の男の死体に目を向けた。


 ……どれだけの素材が得られるかは、わからないが。


「戦利品の回収ですね。わたくしにお任せください!」


 俺の考えを察して、石板従魔タブレットのオズが動いた。

 ぱん! と小さな手を強く叩けば――魔術師の死体が黒い魔力の輝きに染まる。



【遠見の片眼鏡×1】【白き加護のローブ×1】【革のロングブーツ】【聖鋼のショートスタッフ×1】【2573C】



 着ていたローブやブーツが死体から掻き消え、落としていた金属製の杖や片眼鏡も消失した。

 所持していた金と一緒に、システムと繋がるオズがその身に取り込んだのだ。


 その対象はもちろん他の死体にも及ぶ。



【ライトアイアンアーマー×1】【鉄塊のグレートソード×1】【1574C】【獣の毛皮×1】【森エルフの大弓×1】【破魔の矢×291】【森エルフの鉈×1】【1936C】【魅惑の舞装束×1】【両手首用鈴飾り×1】【高級な首飾り×1】【約束の髪飾り×1】【羽根飾りのサンダル×1】【8106C】



 あちこちに離れて倒れていてもお構いなしだ。冒険者どもの装備品がすべてリストに代わり、オズの胸に収められた。

 ふむ、やはり従魔は便利だな。


「……魔王さま。お褒めの言葉をいただけると、わたくしものすごく喜びますが」


「然り。よくやった」


「えへへえ」


 ねぎらいに頭を撫でれば、オズは嬉しそうにはにかんだ。


 本番はここからだ。それなりに素材となるものは得られたが……後は手探りだな。

 俺のスキルFPSは特殊だ。まだそこらに転がっているパラシュートに、手にしたままのグロック18Cと、できあがるものは様々だが。


「まずは弾だ。出でよ!」



【9×19㎜ブリット変換生成クリエイト



 じゃらららっ!


 ……出た。出るではないか! かざした手のひらから大量の黒い弾薬が吐き出され、ぶつかり合いながら草地の上に転がった。


「魔王さま! これが、もしや……じゅう、とやらから飛び出て冒険者どもを射貫いたモノなのですね」


「然り。そのとおりだ」


 オズと一緒に拾い上げれば間違いなく、9㎜パラベラム弾だった。

 握っていたグロックから弾倉マグを引き抜き、さっそく弾込めを始める。


 手作業が煩わしいが、確かにきっかり17発装填できた。弾倉マグをグリップに戻し、後退したままスライドを止めていたストッパーを下げる。


 カシッ!


 小気味いい音とともにスライドが元に戻った。これでいつでもすぐに撃てる。

 やれやれ、せっかくの銃も弾がなければ無力もいいところだからな。


 幸い生成した弾数には余裕があった。願えばまだまだじゃらじゃらと出てくる。


「こちら、いかがしましょう?」


 しかし、調子に乗って造りすぎたかもしれない。


 オズが短いスカートを持ち上げて、そこに集めた弾薬を山盛りに載せていた。

 重みで生地がたわみ、下着をうまく隠すほどだ。それでも足元には弾が余っていた。

 そもそも弾倉マグに入れなければ弾は使えない。


「ふ。そうか、ならば」



【マガジン変換生成クリエイト



 今度は何本もの弾倉マグを生み出した。あまり深く考えずに生成したが――どれも弾薬が二列に収められる、グロック用のダブルカラム式だ。

 さすがはスキルFPS。無意識に必要なものを選別しているようだ。


「なるほど! こちらに入れればよいのですね?」


 さっそく屈み込んだオズが先程の俺の装填を真似て、空の弾倉マグにスカートの上の弾を込め始めた。

 さすが俺の従魔。学習すればこれくらいは可能か。


 しかし……俺は手の中のグロック18Cに目を落とす。よくよく考えてみればこいつには、造り出した時点で初めから弾薬が込められていたな。

 もしかすると。



【装填マガジン変換生成クリエイト



 俺の意図を汲んで、スキルが新たに何本もの弾倉マグを生成する。

 草地に落ちてもそれらはほとんど転がらず、明らかに重みがあった。


 拾い上げるまでもない。弾倉マグの先端にはどれも黒い弾丸がちらりと顔を出している。……最初から具体的にこう願えばよかったのか。

 しかも、中にはこれまでのものより倍もの長さを持つ弾倉マグが1本混ざっていた。


「ふむ、これは……」


 グロック用のロング弾倉マグだ。掴んで装填確認用の穴を見れば、通常の「17」止まりではなく「33」まで数字が刻まれていた。

 グリップに差し込むと長すぎて、下から突き出たままになるが、弾切れの隙が減る。

 ありがたい。もう何本かロング弾倉マグがあってもいいだろう。



【装填マガジン変換生成クリエイト



 だが次に出てきたのは、鈍色の円盤型弾倉マグだった。重い音を立てて大地に沈む。

 ――ドラム弾倉マグか!


「魔王さま、そちらは……?」


「これも弾倉マグだ。大量に弾が入るタイプのな」


 音に驚くオズの前で、俺はドラム弾倉マグを掴み上げた。


 ……重い。腰に差し込んだロング弾倉マグもそれなりだが、その倍以上の重量だ。

 片手では持ち上げるのもやっとなため、グロックも腰のベルトに挟み込んで、両手で改めて確認する。


 円盤は俺の手のひらほどもある大きさだ。そこから直接、17発用と同じ形の弾倉マグが生えている。なるほど、これもグロックの規格に合うものか。


 円盤の横には指をかける突起があり、そこを押し上げれば簡単にフタが開いた。

 中にはらせん状にぎっしりと、黒い弾薬が装填されていた。中心にあるギアが回り、弾を送り出していくという仕掛けだ。

 その数はざっと50発以上。ドラムの上に生えた弾倉マグにも17発入っているから、合計で70発ほど撃てることになる。


 悪くない。だが……。


「ふ。さすがに重すぎるか」


 フタを閉め直して俺は試しに、グロックの弾倉マグをドラム弾倉マグに差し替えてみた。

 やはり……重量バランスがグリップ下に偏って、狙いをつけても銃口マズルがブレる。

 連射フルオート機能付きの18Cには弾が多い方がいいものの、これでは過剰だ。ロング弾倉マグで事足りる。


 造ってしまった以上、仕方ないが――ともかく弾はもう十分だ。


「できました、魔王さま!」


 空の弾倉マグにも装填を終えて、両腕いっぱいに抱えたオズがやって来る。


「でも、いかがしましょう? こちらは、どうにもわたくしの中に取り込むことができないのですが……」


「なに? そうか」


 冒険者どもから奪った素材は収容できても、スキルFPSで生成したものは不可能。

 ――やはりこの力は異質なものなのだろうな。


 自分で持ち運ぶのは面倒だが、仕方あるまい。

 ならば。



【アクセサリー変換生成クリエイト



 俺は追加で装備品を生成した。

 現れたのはポーチがたくさんついたベルトと、そこから垂れ下がる黒いホルスターだ。


 それと三角形の小型のバックパックが一つ。


「こんなものか」


「……背嚢ですか? それと、このベルトは……」


「最低限の装備というところだ」


 俺は新しいベルトを装着し、ホルスターは右の大腿部に巻き付けた。

 レッグホルスターというわけだ。そこに普通の弾倉マグに差し替えたグロック18Cを収める。


 いいな。右手を伸ばせばすぐに銃を手にできた。それにベルトのポーチは予備の弾倉マグを入れておくのに便利だ。とりあえず前に2本、左側に2本収納しておく。

 残りはバックパックに放り込んだ。ロング弾倉マグやドラム弾倉マグも一緒にすれば、さすがに重い。


 こういうときのための従魔だ。


「オズ」


「はい、魔王さま。……まあ! こちらをいただけるのですか?」


「然り。貴様に任せる。背負っておけ」


「魔王さまの備品、大切にお預かりします!」


 小さな体でもバックパックをしっかり背負い、彼女はくるりと回ってみせた。


「あの、似合いますか? 魔王さま」


「ぴったりだな」


「ありがとうございます!」


 サイズがちょうどいい――という意味だったが、オズは無邪気に白い歯を見せた。

 気に入っているならいいだろう。とりあえず、これで必要なものはそろったか。


 ――否、足りないものがまだあるな。

 生成した銃が拳銃ハンドガン一つだけでは心許ない。

 もう一丁、強力な銃器が欲しいところだが、できるか? なるべく具体的にイメージすれば……。


 ダメだ。俺は腕を突き出したものの、固まった。


「魔王さま?」


「……大丈夫だ」


 不安を感じ取ったオズに応えるも、まいった。

 どんな銃を求めればいいのかが、頭に浮かんでこないのだ。


 手にした銃は事細かに理解できるが、手にするまではあまり知識が降りてこない。スキルFPSとは、存外うまく使いこなせるものではないのだな。

 ならば、この際なんでもいい。


「新たなる銃よ、出でよ!」



【パーツ変換生成クリエイト



 雑に願ったせいだろうか。生み出されたのは銃ではなかった。

 腕の長さほどもある、グロックと同色の塊だったが……グリップもなければ引き金トリガーもない。


「こいつは……」


 大きさの割に軽々と持ち上げられる。後部には折り曲げ式の銃床ストックがついていたが、内部はごっそり空洞になっていた。

 コンバージョンキット。銃をカスタムするための大型パーツだ。


 側面を見れば名称がちゃんと刻まれていた。


「microRONI-MAO8? 普通のRONIではなく、一回り小型のタイプか」


 なぜこんなチョイスに? 確かにこのパーツは今持っている俺のグロックと合うはずだが、それでも小ぶりな「micro」の方である必要は――。


 そのとき、突然くらりと目眩が襲った。


「ッ!」


 この感覚を俺は知っている。いつかの「僕」が体験した、命が掻き消えようとしているときのもの。

 ……魔力切れだと?


「魔王さま!?」



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【魔王 アハト】

魔族/Lv99

HP:66/66

MP:4/6666

所持金:653555C

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 オズが慌てて俺のステータスを表示する。


 MPが残り4?

 魔族の魔力は生命力と直結している。1%を切れば、体の維持に変調を来すのだ。


 だから俺は膝をついた。コンバージョンキットを手から落とし、草地の上に倒れ込む。

 なぜMPがここまで尽きた?

 ……考えられるのはただ一つ。どうやら俺のスキルFPSによる変換生成クリエイトは、かなりの魔力を消費するらしい。


 迂闊だった。まずいぞ、これは――。


「さすがです魔王さま! その身が削られるのも構わず、お力を振るわれていたのですね? なんというお覚悟……!」


 こんなときでもオズは従魔らしく感涙していた。


 その言葉を聞きながら、俺の意識はゆっくりと闇に沈み……。

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