第144話 仕上がり宣言

 今、俺は新しい相棒を手に北海道の野寒布岬ダンジョンに潜っている。

 しかし、全然手応えが無く、完全なオーバーキル状態である。

 一応これでも50階層を超えているのであるが、ピリリと来る様な魔物は居らず、相手にとって不足だらけ。

『もっと下へ!』と心は逸るが、勿体無いので、ちゃんと律儀にモンスターハウスや隠し部屋の宝箱は全部攫っていっている。


 そろそろ、もう少しは堅い奴が出て来る階層に突入する筈なのだがなぁ。


 第56階層に入り、コカトリスやロック・ゴーレムが出て来るが、フフフ、あのシールドまで生やしていたガーディアン・ゴーレムに比べれば紙同然。

 サクサク斬り捨て、流れ作業の様にドロップ品を回収している。


 56階層を完全にクリアした後、良い時間となったので、ギルドにドロップ品の山を提出して、自宅へと戻って来た。



 日本にあるダンジョンだが、俺が入ったダンジョン限定で言うと、一番厳しかったのは異常事態が発生していた、草津温泉ダンジョンぐらいで、後は大体同じ程度である。

 気になって調べてみると、いつの間にかダンジョンランクなる規定を作ったらしく、冒険者ギルドの発表を信じるのであれば、今のところ難易度が高いとされるダンジョンは九州の熊本にある阿蘇の大観峰ダンジョンがダントツとされていた。

 理由は、現地の冒険者の報告によると、出て来る魔物が第5階層以降で、急激に難易度が上がるらしい。

 その為、現在は第8階層辺りが最前線となっているらしい。


 じゃあ、何故俺がそこを攻めないのか? と言う話なのだが、今の所遠慮している訳だ。

 だって、そこを専門にしている攻略組とかが結構居るのに、俺が行ってしまうとせっかくの雰囲気をぶち壊しちゃう事になるからね。

 必死で頑張って戦っている横を、スイーってスキップしながら通過されて、先のボスや宝箱をやられちゃうと、台無しだよね。

 と言う事で、余程何か特別な依頼でも無い限りは、他の冒険者のヤル気を削がない様に、彼らが頑張っているダンジョンを荒らさない様にしようと思っている訳だ。


「やっぱり、月ダンジョンで試すのが一番なのかなぁ。」


 しかし、本当にこの師匠の新作は凄い。

 付与の有り無しに関係なく、本当に素晴らしい切れ味である。

 城島君がユグドラシル大陸の師匠の下で幽閉さている為、双葉からの突き上げが日々激しいのだが、やはりここは踏ん張り処だよな。

 これだけの刀を打てる様になれれば、一生食うにも困らないだろうし、日本にとっても素晴らしい事だ。


 まあ、あんまり長く2人を離れ離れにするのは可哀想なので、兄上と相談してあちら側に送ると言う手もあるか。

 面倒だから、先に籍を入れちゃうってのも有りだよね。フフフ。


 その為にも、早く双葉の料理を何とかしないとなぁ。

 あれじゃあ、城島君が可哀想だよなぁ。


 そんな双葉を知るさっちゃんは、「皐月には料理の英才教育をする!」と言っていた。

 そう決意させる程の腕前なのである。



 野寒布岬ダンジョンがある程度落ち着いたら、その先をどうするか……だな。

 いっそ、カウアイ島のダンジョンを先に好き勝手攻略するのもありかな。



 ◇◇◇◇



 新しい相棒(愛刀ね)と組んでから、早3週間が経った。

 昨日、野寒布岬ダンジョンを完全攻略完了し、本日からお休みモードである。

 以前に比べ若干買い取り価格の相場が落ちたが、トータル的に良い稼ぎになった。

 子供らの学校とかが無ければ、暫くカウアイ島で2年ぐらいノンビリするのも悪く無いのだがなぁ。


 これを機に皐月と遊びながら、ダンジョン攻略のハウトゥ本でも執筆してみるかなぁ~。


 と軽い気持ちで書き始めた『ダンジョンの歩き方』と言う教本だが、書き始めると本来の凝り性が発動してしまい、実際のダンジョンにあるトラップの画像等を入れてトラップ解除の方法までを事細かく説明した事で、超大作となってしまった。

 まあ、当初は電子版のみ、2000円ぐらいで出したのだが、これがバカ売れの大ヒット。

 冒険者やこれから冒険者を目指す者のバイブルとまで言われる様になった。

 実際にこの本が広く浸透するのも早かったが、その結果目に見えてダンジョン内のでトラップ等による事故率が激減した。


 さっそく冒険者ギルドと外務省の方から、出版元であるマジック・マイスターへコンタクトがあり、外国語版を作る事となった程である。

 そして、印刷物の本が海外の国へと輸出され始め、お陰様で印税がドンドンと入って来る様になってしまった。


「越後屋、その方、また阿漕な商売で荒稼ぎしておるようじゃのぉ?」


「何を仰いますか、お代官様こそ、その上前で潤っておりますでしょ?」


「「ガハハハハ」」

 と兄上とバカ笑いする程だった。


 そして梅雨が終わり、夏になる頃、


「やっと仕上がったわ。ちょっと大変だったけど、これなら人様の所に嫁がせても飯マズとは言われ無いわ。」


 と母上から、双葉の仕上がりの許可が出た。

 早々に城島家と相談の上、城島君と双葉の結婚式の日程が決まったのだった。


 双葉はやっと憧れのウェディングドレスを着られると大喜び。

 そして、何よりズッと毎日一緒に居られる事に喜んでいた。

 城島君は城島君で同じ気持ちらしく、デレデレに浮かれている。



「何だかんだで、実に良い感じに収まったなぁ。しかし、父上がなぁ……」

 と俺が呟くと、兄上も苦笑いしながら、

「だよな。男親ってあそこまで苦悩するものなんだろうか? 俺の所もあつしの所も女の子が居るんだよね。

 明日は我が身なのか? はぁ~~。」

 と深いため息をついていた。



 そして7月25日の大安吉日、双葉がウェディングドレスに身を固め、神妙な面持ちで誓いをたて、城島家へと嫁いで行ったのだった。

 愛弟子の結婚式に呼ばれ、初めて日本に足を踏み入れたドリュー師匠は、全てが物珍しいらしく、キョロキョロしていたが、披露宴代わりのガーデンパーティーでは、ドワーフらしく酒を大量に飲み、終始「ガハハハ!」とバカ笑いしていたのだった。

 尚、新婚旅行は、北海道にしたらしい。


 新婚旅行が終わると、城島君は双葉を連れてユグドラシル大陸に幽閉となる。

 師匠曰く、

「まあ筋が良いからあと1~2年ぐらいで、ほぼ良い線までいくじゃろう。」

 と言っていた。




 敬護もピートも双葉が嫁いで居なくなってしまい、凄く寂しそうである。

 特にピートは、小さい頃に養子となり、凄く双葉に可愛がって貰っていたので、精神的な影響は大きいみたいである。

 父上も喪失感が半端無いらしく、ピートと仲良く2人でドンヨリしている。

 反対に、母上は大仕事をやり終えた感が半端無く、割とサッパリしているのが面白い。



 夏休み中と言う事もあり、そんなピートを連れて、カウアイ島へ長期バカンスに行く事にしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る