第143話 新しい相棒

 世間では、正月休みが終わり、更に成人式の騒ぎが収まった頃、暫く沈黙していた大神様とカサンドラ様からの連絡があった。


「遅くなってすまんのぉ。」


「でもでも、大変だったんですよ。色々な方向を検討して。」


「お久しぶりですね。既に年も明けて1月も終わりに近付いてますが、方向が決まった様で何よりです。

 あんなのを抱えてると思うと、生きた心地しないですからね。」

 と俺が皮肉を込めてご挨拶。



「まあそう言うてやるなよ。カサンドラちゃんも頑張ったみたいじゃぞ?」


「フフフ、まあ大変だろうと言うのは想像出来てますが、安全な方法と廃棄場所は見つかったんでしょうか?」


「ええ! 多分これで大丈夫な筈よ? と言うか色々シミュレートしてみたけど、他は100年後200年後に問題あったりするから、これしか方法が無いわ。」


「選択の余地無しですか。」


「ええ。まあ」

 とカサンドラ様が、美しい顔を曇らせながら説明し始めた。


 まあ内容は凄く簡単であった。

 現在停止している訳だが、そもそもの基本設計が拙いので、突発的な災害等があった場合にどうなるかは判らない。

 取り外そうにもサービスバルブが先の方にあるので、タンクや魔力源だけを切り離せない構造なんだとか。


 うーーん、設計責任者を呼んで来て、1年ぐらいコンコンと説教してやりたくなるな。

 その無数の配管にバルブを後付けするのは不可能。

 タンクと動力源の制御コアを抜くのも危険。

 で、残った一番後々まで安全な方法は……



 なんと、おれのアイテムボックスの中だそうだ。


 いや、ビックリだよね。

 確かに時間停止しているから、悪くはならず、現状維持だよね。

 仮に、俺が死んでも、アイテムボックスの中身はそのまま異次元にお取り置きだもんね。


「俺のアイテムボックスはゴミ箱かよ? 夢の島かよ?」


 もうね、脱力感半端無いですよ。


「まあ、徳治郎さんの言いたい事も気持ちも理解出来るのですが、これ以上に安全な方法が無かったのです。」


 申し訳無さそうな表情のカサンドラ様とウンウンと頷いている大神様。



「しかし、流石にあのサイズの物を収納した事が無いんだけど、大丈夫なんでしょうか?」


 確かに大きいとドラゴンや屋敷程度は収納した事あるけど、あのサイズは未だに経験無い。

 塔の正確な高さは、798mで横幅が最大で直径293mもあるらしい。

 上へ上がる程、直径が狭くなる感じではるけど、それでも直径184mがあるし。

 兎に角、ほぼ海の中なので、全体的な姿は知らないんだよね。


 と言う事で、無理矢理納得させられて、逃げる様に大神様達が去っていったのだった。




 翌朝目覚め、早朝からテンションが駄々下がりの俺は、グッタリしたまま着替えて、塔へとやって来た。

 収納するのであれば、一刻も早い方が良いだろうと言う判断である。


 塔の屋上へ辿り着き、収納するサイズや形をイメージし易い様にと、シールドを張って海に潜った。

 水深20m辺りを過ぎると、周囲の水温は下がり、空気清浄に温度調節を追加する。

 俺の光魔法のライトで照らされた塔は、本当に巨大で確かにバベルの塔と言われればそう思える様な構造であった。


 そして、潜る事30分、やっと水深783mの海底まで達した。

 グルリと海底部分を周りながら、全体の把握が完了した。


 俺は、塔の全体をイメージしながら、『収納』した。


「ふぅ~。やっとゴミを回収完了か。まったく、ヤレヤレだよ。

 でもこのサイズでも収納出来るのには驚いたな。」

 とボヤきつつ、自宅へと戻るのであった。



 ◇◇◇◇



 2月に入る頃、子供らを連れて豪雪地帯でのサバイバル訓練を日帰りで行ったり、家族でスキーや温泉に行ったりして過ごした。


 実に平和である。


 このままマッタリと時が流れて行くのも悪く無い。



 だが、2月の後半に入った頃、事態が動き始めた。



「アツシよ、出来たぞ! ついに出来たんじゃ!」

 とドリュー師匠からの連絡が昼食前に入った。


「マジですか! 直ぐに行きます。」


 俺は、居ても立っても居られず、部屋着のままユグドラシル大陸の師匠の工房へとゲートで向かった。



「これじゃ!」


 師匠が自身満々に布に巻かれた1本の刀を持って来た。

 その後ろでは、遣り切った感を全身に纏った城島君が微笑んでいる。

(城島君はこの2ヵ月以上、殆ど師匠の下で修行していた。)


 鞘から抜いた刀を確認すると、初めて見る様な金属とも魔物の骨や牙や爪とも違う光沢で、薄く青みがかった白色の刃を持っていた。


「これは美しい……」


 思わず刃の紋様に見入ってしまう。いや吸い込まれると言った方が正しいか?

 言い知れぬ凄みさえ感じるその刀を、軽く振ってみる。


 シュン シュン と言う風切り音がする。

 バランスが非常に良くて、まるで腕が延長されたかの様に馴染んでいる。


「これは素晴らしい。 付与を掛けてみても良いですか?」


「ああ、勿論じゃ! 限界を試してみてくれ!」


 俺は、一気に付与4重掛けを行い、5重目を掛けた。

 うむ。全然余裕を感じる。


 そして、6重目を掛けた。

 全然大丈夫だな。


 更に7重目………8重目………まだ行けるのか!


「師匠! 凄いよ、これ。 付与8重目でも余裕だよ?」


 俺ははしゃぎながら、ガーディアン・ゴーレムを取り出して、ガーディアン・ゴーレムの回路を弄ってシールドを発生させた。


「さあ、試し切りタイムだな!!」


 正眼に構えた刀を真っ直ぐに振り下ろすと、「シュタッ!」と小さい音がした。



「あれ?」


 俺は余りの手応えの無さに不安を感じていると、10秒ぐらいしてガーディアン・ゴーレムの巨体の中心に線が現れ、左右にガシャンと倒れていった。

 綺麗な竹割状態である。


「スッゲー!! 師匠、これ凄いよ! これ貰った!! これ、俺が貰うよ! 師匠スゲーー!!」

 と小躍りする俺。


「ガハハハ、そうじゃろう、そうじゃろう。」


「じゃあ、俺これ貰って行くから、残りの刀も宜しくね。師匠!」

 と軽快な足取りで工房から立ち去ったのだった。


 背中に城島君の悲しげな視線を受けつつ……。

 ガンバレヨー!



 フフフ、ダンジョンアタックの再開だな。

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