第130話 経験値バブル

 新しくメンバーに加わった城島君は、結局その夜は、母屋(実家)にお泊まりする事となった。

 いやぁ~、何かあの双葉が恋する乙女っぽい仕草をしていたのが、実に新鮮だった。

 父上だけが、実に微妙なひょうじょうだったけどね。


 俺が、ニヤニヤしながらそんな父上を見ていると、俺の視線に気付いたらしく、スッと俺の横にやって来て、

「まあ、笑ってられるのも今の内だぞ? あと16年もしたら、お前もな……」

 と言いながら、俺の方をポンポンと叩いて去って行った。


 ん?16年後??? あー!! 皐月か! 駄目だ駄目だ! 皐月は嫁にやらん!! とは言えないよな。


 ハハハ………


 何か妙な事に、間接的な攻撃でダメージを受ける俺だった。




 翌朝から、レベル上げと言う訓練が始まる。

 正式メンバーとなった城島君には、大神様から頂いたブレスレットを渡してあるので、効率よくダンジョンに潜って貰う事となる。

 とは言え、元々は余り冒険者家業に力を入れて無かったので、剣術の指南とダンジョンの両方を行う事になるようだ。

(担当は清兄ぃね。)


「あつしさん、何か、緊張するっす。」

 と若干、緊張のせいか身体の動きが悪い城島君。


「ハハハ。その内に馴れるさ。」

 と俺が言うと、


「おお、城島君か。 うむ、堅苦しいな。 東次で良いかの。

 東次、まずは、佐々木流斬刀術の基礎から、ハイペースで行くぞ。」

 と朝からテンションの高い清兄ぃ。


 城島君は、

「はい、よろしくお願いします。」

 と頭を下げていた。



 庭では、何故か双葉も一緒になって佐々木流斬刀術の稽古をしている。

 予定では、朝の3時間を剣術の稽古、それから夕方5時までをダンジョンの深層でレベル上げ、帰って夕食前に剣術の稽古をしたら、ひとっ風呂浴びて夕食。

 夜は月ダンジョンの深層でやはりレベル上げだ。


 あと、週に1日は勘を鈍らさない程度に錬金関連の時間を入れる事となる。


「ハッハッハ、双葉には悪いが、事が終わるまでは、デートはお預けだな。」



 ◇◇◇◇



 城島君が加わって1週間が過ぎた頃、大神様が夢で日程の詳細と、カサンドラ様からは組み替える魔方陣の詳細や手順のお知らせがあった。


 魔動兵器がこちらに転移して来るのは、11月20日、午前3時33分前後、場所は、ハワイの沿岸100km程の海上だそうで。


「えっと、今一つ判らないのですが、その魔動兵器ってどんな形状なんでしょうか?

 中にガーディアン・ゴーレムが100体が居るって事はかなりなサイズの構造物だと思うのですが?」


「あら? もしかして教えて無かったかしら?

 えっとね、こっちの世界で言う、バベルの塔的な建物でね、内部が50階ぐらいの構造なのよ。

 ガーディアン・ゴーレムだけど、相当に堅いわよ。

 物理攻撃は勿論、魔法攻撃もして来るし、耐物理と耐魔法のシールドも展開して来るわ。

 大きさね、1体が大体4mぐらい。

 とても厄介な相手よ。

 そうそう、こっちの世界の映画?ってのでそんな敵役が出て来るあれ、何て言ったかしら、ター○ネーター? あれの更に100倍くらい強くした感じだわね。」


「わー、全然聞いてませんよ。それ。

 ああ、あと大神様。マジでピンチですよ。全然メンバーのレベルが足り無いし、時間無いからとてもじゃないけど、このペースだと間に合わないです。

 レベル上げのペースを上げる為、何とか経験値倍増のスキルとかって、メンバーに貰えないでしょうかね?」

 と敵の詳細情報に慌ててつつも、大神様にお強請りしてみた。


「うむむ……、何とかしてやりたい所なんじゃが、理を弄るのも結構ギリギリの所じゃからのぉ。

 おお、そうじゃ! 期間限定となるが、ブレスレットの効果でなら可能じゃぞ。」


 期間限定? どれ位の期間だろうか?


「その期間はどれくらいまで? あと、先々の事もあるので、ブレスレットの追加も貰えますか?」

 と図に乗ってみた。


「ふむ、期間はのぉ、装着して稼働してから50年て所でどうじゃ? あと倍率じゃが、こちらも対応が遅れた責任もある故に、2倍ではなく、今回の事が片付くまでは、3倍にしておく。

 これでどうじゃ? ああ、追加は当初の約束通り、OKじゃ。20個ばかり追加しておけば良いかの?」


「おお、3倍ですか! それは良いですね。 それなら、何とか間に合うかな? 追加は30個でお願いしますね。

 そうか、3倍かぁ~、良いなぁ。 間に合う様な気がする? 3倍程度で間に合うよな?」

 と頭を捻っていると、


「ああー、もう判ったわい。 今回の件が片付くまでは、4倍にしてやるわい!」

 と大神様が、やけくそ気味に言っていた。


 俺は、心の中で、大きくガッツポーズ! ハッハッハ!やったね!!


「ありがとうございます! 何か行けそうな気が強くしてきました。

 それあ、明日の朝から有効ですよね?」

 と催促すると、少し『しまった』と言う顔で、

「わ、判った。急いで対応するわい。」

 と言っていた。


 これで、全ての情報が出そろった。

 他のメンバーの為に出来るお願いは全部終えた。多分。



 ちなみに、そのバベルの塔型の魔動兵器だが、海底に着床する感じで、先端部分がおそらく海上に10m程突き出した感じになるらしい。

 ターゲットとなる場所は、上から25階層下った場所にある、ワンフロアーを使った動力制御ルームなのだとか。

 さら、その高さは海中となるのだが、海中の1階~3階部分までは浸水する物の、そこから上は完全防水エリアとなっているらしい。外壁に破損がなければだけど。


 書き換える強制停止装置の詳細な場所や設計図に近い情報まで入っていた。

 これなら、事前に予習しておけば、何とかなりそうだな。

 城島君はいっぱいいっぱいだし、取りあえず、俺が理解してから、レクチャーする感じが効率的だろうな。

 最悪、俺がやる可能性もあるしな。


 一応、万が一の際のバックアッププランも考えておかねばな。




 翌朝目覚めると、ブレスレットの効果が追加されていた。


「え? 俺にもくれるのか!?」


 これは美味しいぞ!!

 さっそく、ブレスレットを所持している全員に通達すると、さっちゃを含め、現在休止して母親業をやっている人達まで、『経験値バブル』に沸き返っていた。

 そんな訳で、佐々木家周辺では、一気にレベル上げに勤しむ様になった。

 さっちゃんも、なっちゃんや、愛子ちゃん、そしてエバと一緒に、近所のダンジョンに気張らしに行くと……。


 普段、チーム佐野助のBチームとして活動している、前田や凛太郎とグリードも暫くダンジョンに籠もると言っていた。

 なので、急遽佐々木家に幼い子供らを集め、人を雇って、面倒を見て貰う事になってしまった。


 あと、11月20日まであと13日である。


 子供らには、多少可哀想な事にはなるが、佐々木家と仲間全体の生存確率を上げる意味でも、ここは頑張り所だろう。


 こうして、佐々木家周辺では、怒濤の2週間が過ぎ去って行くのであった……。

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