第124話 エヘヘ、来ちゃった
結果から言うと、旧★国側から流れて来る飛行型魔物へのスクランブル回数は極端に減った。
ここ、2週間では、スクランブルが1件に止まっている。
一応、警戒は今後も続けるらしいが、警戒ランクは下げるらしい。
やはり、人間、緊張が継続するのはキツいもんね。
俺は、また小豆島ダンジョン攻略を再開し、現在第67階層をクリアしている。
日本全国の冒険者達だが、徐々に実力が伴って来ていて、その中の一部には、日々切磋琢磨し、強いとされる者も出て来て居る。
ただ、悲しい事に浮かれ気分でダンジョンに準備無く挑み、帰らぬ冒険者も多い。
冒険者ギルドでは、実力に見合わない階層への立ち入りを、冒険者ランクによって制限しているが、それもダンジョンの中では監視出来る訳ではないので、歯止めにはなって居ない。
まあ、こればっかりは、どうしようも無いだろう。
小豆島ダンジョンを攻略しつつ、頻繁にうどんを堪能しては居るが、そろそろうどんにも飽きたので、次は何処にするかと物色を開始している。
季節は秋を過ぎ、冬に差し掛かろうとしている。
そして、もうすぐ、また1つ歳を取って23歳? いや24歳か。
前世から考えると、既に50歳を超えている訳だが(一応、空白の年数は除外ね)、最近になって身体の実年齢と考え方や感じ方のズレが少なくなって来た様に思える。
これは魂が身体の年齢にマッチして来たのかも知れないな。
最近、巷を騒がすニュースと言えば、何と言っても、ユグドラシル大陸からの、使節団である。
まあ、俺は永田町近辺には近寄らない様にしているが、生エルフや生ケモ耳を愛する者共が、連日永田町界隈とネット界隈を賑わせている。
まあ、件のエルフの王女3人組も来て居るのだが、既にファンクラブまで設立されたらしい。
全く、生きた心地がしない。
もし、あの王女3人組の口から、俺の名前が出て来た時、運悪くファンが聞いてしまったらと思うとね。
ああ、恐ろしい。
順調に小豆島ダンジョンを攻略している俺の下(と清兄ぃもね)へ、不幸な避けられない指名依頼が入ってしまったのだった。
「と言う訳で、秋葉に行きたいとエルフの王女様お三方から要望がありまして、護衛には是非佐々木殿お二人にお願いしたいと言われておりまして。」
とギルド本部からの連絡が入った。
どうやら、せっかく日本に来て居るのに、一向に姿を見せない俺達に、痺れを切らした模様。
下手したら、「護衛デートじゃ!」とか言いそうで怖い。
「その依頼が断る事は可能ですか?」
と聞くと、
「うーん、ハッキリ言うと、可能は可能ですが、その場合王女様お三方が記者会見を開きたいと言われておるのですよ。
私共としては、ここは素直に受けた方が宜しいのかと。」
とスッゴい爆弾を抱えてやがった。
なんて強力な力業の交渉力だろう。 腐っても王族……侮ってはいけないな。
「判りました。依頼を請けます。」
と力なく答えるのであった。
そして、依頼当日。
迎賓館に出迎えに行くと、
「おお!!英雄殿!!! 兄上様もご一緒で、嬉しい限りです。」
と大喜びするエルフ3名+従者エルフ5名。
「姫、良かったですな。やっと念願のでーとなる物が出来ますな!」
と見た目だけ若い爺やが、ハミルダに声を掛ける。
「なんじゃ、小娘ばかりか。」
と清兄ぃは、初っ端からヤル気を失っている。
「あー、俺らは単なる護衛なので、そこを間違えない様に。
あと、何か街中で不用意な事を口を滑らせる事があった場合、最悪、エルフハイランド王国が消えると思って頂きたい。」
としっかり3人に宣言すると、
「あら、それも面白いわね。そうすると、日本に亡命するしかないかしら? ねえ、お姉様?」
と真ん中の王女が言いやがった。
くそー、口の減らない奴らだ。
さっそく、政府の用意したリムジンに乗り、都内観光に出掛ける。
誰が用意した観光メニューだか知らないが、完全にかの有名な『鳥バスツアー』のパクリであった。
チッ、だったら、素直に『鳥バスツアー』に放り込んでやれば良いのに。
迎賓館を出る際、俺らはチーム佐野助のトレードマークのフェイスマスクを被り、認識阻害の魔道具も発動した。
「ちょっと、その無粋なマスクは何ですの? 折角の端正なご尊顔が……」
とか言われたが、全面的にスルーした。
浅草の浅草寺を歩く異様な集団は人目を引き、更に報道のカメラや、一般観光客、追っかけ連中のフラッシュは、止まる事を知らない。
すると、政府のスタッフがフラッシュ撮影を禁止していた。
「おいおい、撮影自体を禁止しろよ。」
初めて食べるせんべいに、エルフ共は、「あら、堅いけど美味しいわ」とお気に召した様子で、大量にバカ買いしていた。
なので、それとなく、激辛せんべいも混ぜて置いてやった。
甘味処では、汁粉に団子を堪能し、
「日本の食事は本当に美味しいですわ。ああ、こちらに住みたいわぁ~」
とチョイチョイ切っ掛けを作っては、撓垂れ掛かって来る。
浅草からは、水上バスに乗って、浜離宮へと移動した。
「あら、ここは緑が多いのですのね。」
あまりエルフには人気が無かったのか、直ぐに次の所へと移動。
今度は六本木ヒルズへ登り、ショッピングモールで買い物に付き合わされ、腕を振りほどいても振りほどいても、腕を組まれ、半ば諦めモードに入る。
しかも、パパラッチから何度も激写されている。
さっちゃん! これマジでお仕事だからね?
そして、上の階にあるレストランの個室でランチとなる。
流石に、ここではマスクを外し、超高級な一流シェフの豪華ランチを堪能させてもらった。
やっぱり、流石は超高級店のシェフである。 マジで美味い! が少ない。
清兄ぃは、「なんじゃ、シケとるのぉ~、これっぽちか。」と毒突き、店のスタッフに3人前程追加していた。
まあ、俺も空かさず、便乗してやったが。
「佐々木殿、日本は本当に高い建物が多いですね。何故ですの?」
とご尤もな質問が出る。
「日本は、一度戦争で焼け野原になったんですよ。それから復興し、人口も復活したんですが、元々広い国ではないので、都市部に人口や会社が集中した結果、上へ上へと建物が伸びた感じですね。」
と簡単に答えてやると、焼け野原と言う点で驚いていた。
うん、俺も実際にその焼け野原は見て無いのだよ。カサンドラスに召喚された後の話だからね。
午後には、イヨイヨ、お待ちかねの秋葉原である。
「ところで、秋葉原では何を見るつもりなんでしょうか? 電気街ですが、最近は魔道具とかも盛んですけど。」
と聞くと、
「何でも、秋葉は冥途喫茶なる物があると聞いておるぞ? 素晴らしい所と。」
とやや興奮気味に語る王女様。
「あー、それちょっと字が違うな。メイド喫茶ね。メイドが出迎えてくれるだけだと思うのですがね?」
と俺が言うと、
「徳よ、それは違うぞ? メイド喫茶にはロマンが詰まっておるのじゃぞ?」
と急激にヤル気を見せる清兄ぃ。
「え、でも清兄ぃ、あそこって、熟女は居ないよ? 熟女なら巣鴨とか行かないと。」
と俺が反論したら、
「フフフ、若いのぉ。メイド喫茶は別格なのじゃ。」
と言っていた。 うん、全然理解出来ん。
結局秋葉でも、観光客や追っかけ等がゾロゾロと金魚の糞の様に付いて周り、異様な雰囲気のまま、3件程趣向の違うメイド喫茶を堪能し、最後に耳かき掃除屋を体験し、王女3名が赤い顔をして出て来ていた。
何故か清兄ぃも掃除して貰った様で、鼻の穴を膨らませながら、出て来た。
俺は、店の外で警戒していたんだがね。
そして、その後は何故か渋谷でラーメンとクレープを食べ、表参道ではまた買い物をしていた……。
一日目が終わり、やっと迎賓館まで送ってグッタリしていたら、
「英雄殿達も、泊まって行きません事? なかなかに素晴らしい宿ですよ?」
とお誘いを受けた。
「いやまぁ確かに迎賓館のお泊まりは実に魅力的だが、愛する妻と子の下に俺は帰るぞ!」
と言うと、
「じゃあ、夜の護衛も兼ねて、ワシは泊まって行こうかの。 飯も美味そうじゃし。」
と契約外の事を言い出した。
喜ぶエルフ3人。
「(清兄ぃ、頼むから国際問題起こさないでよ?)」と釘を刺すと、
「大丈夫じゃ、小娘は要らん。」
と言っていた。不安だ。
やっとの思いで、自宅にゲートで戻ると、ややオカンムリのさっちゃん。
ニュースやSNSでバシバシ俺達の腕組み姿が流れたらしい。
しかも、例の如く、俺に絡みつく様に抱きついて、クンクンと匂いを嗅がれ、「あーーーー!」と叫ばれた。
しまった……疲れの余り、クリーンをかけ忘れてしまった。
その後、風呂に入り、3回程クリーンも掛けてから、1時間程、さっちゃんを宥める羽目になったのだった。
はぁ~、これがあと2日もあるかと思うと、実に気が重い。
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