第125話 売り込み

「うぉーー、これがこの世界の遊園地と言うものか!?」

とエルフ3人娘が、鼠園で騒いでらっしゃる。


特に、着ぐるみと言う文化が無いので、驚いていた。

着ぐるみと一緒に写真を撮ってやると、大喜びして、母上に見せびらかすのじゃーー! と言っていたが、トラブルの火種の予感しかしない。

「後で、あの女王がゴネそうだな。」

と俺が呟くと、


「じゃあ、ワシの出番かの?」

とニマニマしている清兄ぃ。 こちらも国際問題になりそうで、怖い。


そして、拷問の様な1日が始まった。


どのアトラクションもだが、3回乗せられるのである。

ジェットコースターにしろ何にしろ、大抵2人乗りで、横に座りたがるのだ。

まあ、ここのアトラクションはそれ程、強烈なのは無いが、外交特権だかなんだかで、長蛇の列に横入りする訳で、それが各3回続く訳である。

ブーイングが出ない訳が無い。


「あのさ、みんなちゃんと並んでいるんだよね。 1回でも顰蹙を買うのに3回とか本当に止めてくれないか?」

と俺が強く提案し、何とか3つ目のアトラクションから、順番に一緒に1回乗るローテーションに切り替えてくれた。


まあ、マスクをしているとは言え、実に目立つ訳で、バシバシと写真を撮られている。

今頃、さっちゃんがSNSとかニュースとかを見て、ヤキモキしているのではないかと、ハラハラドキドキ。


時々、女王3人のファンが取り囲んで、身動きが取れなくなるし、ジャングルクルーズの横のレストランに入る頃には、グッタリしていた。


まあ、それはそれとして、エルフ3人は、これまで見た事も聞いた事も、お伽噺ですら無かった、遊園地と言う物が面白いらしく、ただ『遊ぶだけ』の為に、ここまでの仕掛けを作る、こちらの世界の人類に対して驚きと、ある意味尊敬すらしていた。

「こんな所があるのなら、我らの長い人生も素晴らしい物になるのじゃがな。」

とシミジミ呟いていた。


「確かに、あっちの世界には遊園地なんて発想なかったよな。

これを輸出しちゃえば、かなりユグドラシル大陸も変わるかもな……」



午後からは、3Dシアターで大声で叫んでみたり、危うく魔法で防御しようとしたり、結構大変だったが、満喫してくれた様で何より。

夕方は、早めだが、しゃぶしゃぶの店に行ってバクバクと高級和牛を食べていた。

「これは、サッパリしてて、美味いのじゃな。幾らでも食えるぞ?」

と言っていたが、あまりにもバクバクと高級和牛のしゃぶしゃぶを食べるので、お付きの政府官僚が、青い顔をしていた。

フフフ、まあ、俺と清兄ぃも、ヤケになって、ガンガン食べたからな。

これぐらいの役得が無いと、やってられないぞ?



やっと2日目が終了し、迎賓館に送って行った。


明日は京都に連れて行かないと行けないのが、実に気が重い。

ゲートなら一瞬なのだが、どうやら、政府には新幹線を輸出するという目論みがあるらしく、新幹線を使っての移動となる。

ハァ……。




ちゃんと『クリーン』を3回程掛けてから、自宅にゲートで戻ると、さっちゃんがクンクンと鼻を鳴らしながら、ホールドされた。

うん、今日はセーフの様で、ホッと一息。


「なあ、さっちゃん、そろそろ皐月も大丈夫そうだから、温かくなったら、鼠園、みんなで行こうか?

やっぱ、仕事とは言え、他人と行くぐらいなら、愛する家族と行きたいぞ!」

と俺が言うと、


『愛する』と言うフレーズが琴線に触れたのか、「好きです!」と抱きしめられた。


近くにいた、皐月がキャッキャとそれを見て喜んでいたが、敬護は、ニマーっと悪い顔で笑ってた。

お前、そんな顔もするようになったんだな……。





翌3日目、早朝からの移動となり、迎賓館から、東京駅に移動し、新幹線に乗車する。

初めて乗る列車体験に、不思議そうなエルフ達。


やがて、車内放送で発車のアナウンスと発車の曲が流れ、スッと列車が走り始める。


「「「うぉーーー!動いたぞー!」」」

と昨日のアトラクションの続きの様な反応。


そして、横浜を過ぎると、一気に加速して行く新幹線のスピードに驚くエルフ三姉妹。


「地上を、こんなスピードで、これだけの人数を乗せて、移動出来るのか!」


すると、すかさず、新幹線を売り込みたい政府の官僚が、説明をし始める。


「どうなのじゃ? 佐々木殿。 これは買いなのか、それとも買いで無いのか?」

と俺に意見を求めやがった。


「いや、そりゃあ、買いの一手だろ! これがあれば、ユグドラシル大陸の人や物の行き来が大きく変わるぞ?

例えば、今まで内陸部では食べられなかった、海の幸……鮮魚が内陸部で食べられる様になるし、山や森の幸を沿岸部でも食える様になる。

塩だって、内陸部まで運びやすくなるしな。

全てが良い事だらけではないが、十分にメリットがあるだろ。」

と俺が言うと、なるほどなぁ。と呟いていた。


そして、

「そうか、英雄殿がそう言うのであれば、母上にもプッシュしてみるかのぉ。」

と言っていた。


それを聞いた、俺の斜め前(エルフの後ろ)に控えていた官僚の一人は、俺のアシストに満面の笑みで親指を立てていた。

おい、後でお礼を寄越せよな? 金は要らん! 何か面白い物……そうだなぁ、古代名刀とか良いなぁ。

と思いながら、目線で合図したつもりだったが、よく考えると、マスクをしていた……。

これは、後で忘れずに、言って置かねば。



そして、京都駅に到着すると、ファンに出迎えられるも、リムジンに乗り換えて観光地巡りを行う。


清水寺から眺める秋の紅葉が素晴らしかった。


「ほぉ! 木材でもこれ程の高さの物を作るのか! 素晴らしい技術じゃ!」

とエルフの王女が絶賛していた。


エルフは、日本庭園を不思議がりつつも、「面白いのぉ。これはこれで有りじゃな。」と気に入ったご様子。

そして、面白かったと言えば、一番気に入ったのが、畳。


彼方此方の寺等の本堂に敷かれた畳を見て、肌触りを確かめ、

「佐々木殿! これは良い!! これは何じゃ!」

と絶賛していた。

多分、これは間違い無く、真っ先に畳を大量買いするだろうな。フフフ、畳屋さん、頑張ってエルフに畳を作ってやってねぇー!


案の定、政府の官僚に、畳の購入や大工の派遣なんかを頼んでいたし。


途中昼飯には、有名店で湯豆腐を食べ、豆腐も気に入った様だった。


そして、夕方近くには、飛行機で一路東京へと戻る。

迎賓館まで送り届けて、護衛任務は完了した。


「英雄殿!!!! 帰りたく無いのじゃーーー!」

と叫んでいたが、知らんがな。


ちゃんと、帰れよな!


「また、約束通り、エルフの里に行くから。大人しく帰れよな! 女王にも宜しくな!」

と言って帰って来た。

勿論、家庭円満の秘訣であるから、『クリーン』を掛けるのは忘れ無い。


しかし、清水寺の紅葉は見事だった。

これも是非さっちゃんや子供らと見に行きたい物だ。



そうそう、あの親指を立てた官僚に、

「おう!これで新幹線決まったら、お礼あるんだろうな? 金は要らんから、古代の名刀とかくれ!」

と俺が移動の合間に言うと、


「判りました、お代官様。クックック、お代官様も悪ですねぇ。」

と言うので、


「何を言う、越後屋、その方こそ悪よのぉ~。」

と返しておいた。


え?これって何か賄賂的な何かになるのかな? と後でちょっとビビったのだった。

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