第118話 英雄のご帰還
お盆には、清兄ぃの家で一族が集まり、ご先祖様の墓参りも、お迎えとお見送りをした。
盆休み明けに、とうとう首相からの依頼もあって、再度ユグドラシル大陸へ行く羽目になった。
まあ、ちょくちょく師匠の所へは通ってるんだけど、それは内緒だ。
で、問題は首相からの必死のお願い(泣き落とし)が入り、断り切れずに請けてしまった。
内容は、何度も断っているエルフの里ことエルフハイランド王国の件で、少々ブルーが入って居る訳だ。
この際、清兄ぃをスケープゴートに差し出すか?
とも考えたが、余計に話がややこしくなりそうなので、頭の中の多数決により速攻で却下した。
政府間で難航しているのは、エルフの作るポーションの取引の件で、大陸が持ち直すまでに日本政府が支援したものの、いち早く復活したエルフの里は、他の人族の国程には、恩義を感じて居なかった訳で、本来の引き篭もり体質が再燃した感じ。
加えて、切望した英雄(俺と清兄ぃ)は帰っちゃうしで、プライドもズタズタ。
なので、日本から送られて来ている、特使に対して、無茶を言う訳だ。
日本にしてみれば、自衛官の命に直接影響のあるポーションだけに、出来れば安定供給の確約が欲しいが、年間10本しか出さないとか言われ、交渉を進めて行く内に、時間が経てば経つ程本数が減り現在年間3本と言ってるらしい。
流石はエルフ。えげつない。
元々エルフの秘薬って有名で、人族が幾ら10年単位で精進しても、向こうは100年単位で精進するから、出来る物のグレードが別物なんだよね。
俺もアイテムボックスにストックしてあるけど、エルフの作ったポーションは絶品。
これに比べれば、俺の錬金なんて、ママゴトになってしまう。
例えば、日本が年間1000本寄越せ!って言っているなら、おいおい、無茶言うなよ!
と言うのも判るのだが、話を聞くと、年間300本とお願いしているらしい。
代わりに日本からは、日本で作られた魔道具や食料や調味料や保存食の提供を打診しているらしいが、釣りの餌が弱いんだよね。
エルフは、割と決まった行動パターンを繰り返すから、生活スタイルがあまり変化しないし、保存食ってのも、マジックバック等で時間停止さえ出来れば問題無しだからね。
車やバイクの輸出も、森の中で暮らすエルフには不要。
まあ、唯一スマホとか無線機はあればあったで有用なんだけど、それも絶対に何が何でも欲しい訳では無い。
寧ろ欲しいのは、英雄の身体と言うか子種っぽいし、まあそう言う訳で、ため息が出るのもご理解頂きたい。
久々のエルフの里の城門の前に出ると、一瞬エルフの衛兵が構えるも、俺と判って直ぐに表情を崩す。
「おお!! 英雄殿! お久しぶりです。
ささ、どうぞ!」
と入場を勧められる。
伝令は直ぐに宮殿へと知らせに走り去る。
すると、直ぐに迎えがやって来て、半ば強制連行の様に馬車の乗せられ、『英雄のご帰還』とばかりに、多くのエルフに出迎えられる。
そして謁見の間で久々のエルフの女王とご対面。
「おお!英雄殿、待ち焦がれておったぞよ!」
「「ああ、英雄様!!」」
「あ!佐々木殿ーー!」
と女王エカトリーナ、王女2人、そしてちびっ子ハミルダが口々に騒ぐ。
「お久しぶりです、女王陛下。王女様方。ご機嫌麗しゅう存じます。
おう、ちびっ子ハミルダ!元気だったか? もう漏らしてないか?」
と声を掛けると、
ハミルダから大ブーイングがほとばしる!
「ん、な、何言っちゃってるんですか、佐々木殿。わ、私は、そんな事、一度もございませんことよ。」
と顔を真っ赤にしながら、ジタバタしていた。
そんなハミルダは放置で、
「そんな他人行儀な呼び方は嫌いです。
私の事は、エカトリーナと呼び捨てでお願い致します。英雄殿。」
「私も、エイミーとお呼び下さいまし。」
「私は、エメラードと呼び捨てでお願いします。」
と女王と王女2人が続く。
「まあ、ご挨拶はさておき、我が国とまともに交渉して頂けないですかね? 女王陛下。
事は、人命に拘わる話なので、早急に了承して頂きたい。
大体、年間3本って何ですか? 日本をバカにし過ぎてないですか?
言ったか忘れましたが、俺エルフの国は初めてでは無いのですよ。
だから、国の規模で、大体の年間の生産本数判って居るのですよ?
それとも、この世界のエルフは、他の世界……女神カサンドラ様の名を冠したカサンドラスよりも劣っていると言う事でしょうかね?」
とエルフのプライドを刺激する。
「な、なんじゃと? いや我らが他の同胞の国より劣っている訳が無い!
まあ、年間3本ってのは、ほれ、英雄殿に来て貰う為の口実じゃ。」
「ですよねぇ? じゃあ年間300本ぐらい、その英雄殿の国に出したって、バチは当たらないですよね?
ただね、前にも言った様に、私には、ただ1人と決めた妻が居るのです。
お気持ちはありがたいですが、流石に他の女性に手を出す様な真似は出来ないのです。
そこはご理解頂きたい。
じゃないと、俺は二度とこのエルフハイランド王国の地は踏まないと思いますよ?」
と言うと、
「判った、理解した。
その代わり、1月に1度、いや2月に1度でも良いから、顔を出して欲しいのじゃ。
英雄殿は、伝説の転移が使えるのじゃろ?
ならば、本の一瞬では無いか。な?」
と縋る女王エカトリーナ。
「判りました。2ヵ月に1度かどうかは、確約出来ませんが、ちょくちょく顔を出す様にはします。
俺も、色々彼方此方に出回ってますんで。」
と言うと了承してくれた。
すぐに、待機していた日本の特使もやって来て、その場で調印して貰った。
「ハハハ。いや、流石は英雄殿ですね。
まさか、来て30分で話を纏めるとは。
良かったら、外務省に入りませんか?」
とスカウトされた。
「いや、本当に勘弁して下さい。
俺、こう言う交渉事とか、外交上のマナーとかってのが、一番不得手なんですから。」
と顔の前で手を振って拒否した。
その晩は、流れでしょうが無く、晩餐に付き合い、引き留められるも、身の危険を感じて、サクッとゲートで自宅に帰還。
夜の9時半に帰ったのだが、帰って来るなり、さっちゃんが擦り寄って来て、手足を絡めながらホールドされ、クンクンと匂いを嗅いで、チェックされた。
「ふむ……大丈夫な様だ。」
と安心したさっちゃんが、子供とお風呂に入りに行ってしまった。
あぶねぇ~~ 一応戻る前にクリーン掛けておいて大正解だったな。
晩餐で、かなり擦り寄って来られたから、嫌な予感したんだよね。
首相からは翌日、お礼の電話が掛かって来た。
はぁ~。これからもエルフの里にちょくちょく行くのかぁ……。
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いつもお読み頂き、ありがとうございます。
皆様如何お過ごしでしょうか?
何とか、この時代を乗り切って生きたい所です。
と言う事で、憂さ晴らしと言うか、気分転換に新作を書いてみました。
宜しければ、お読み下さい。
「オッサン、人生に絶望死したら異世界生活で救われた件(仮」
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