第119話 欧州の危機再び

 やっと、半年以上長引いたエルフのゴネが一瞬で片付き、ホッとしていたら、2週間もしない内に、欧州から凶報が届いたのだった。


「どうやら、数少なくなっているのに、纏まらず、主導権争いをして後手後手になったらしい。」

 と首相が沈痛な表情で語る。


 今、俺と清兄ぃは、首相官邸でその対策会議って事で呼ばれて居る訳だが、まあ、簡潔に言うと管理を怠った複数のダンジョンがスタンピードを起こしたって事らしい。

「で、我々にどうしろと?」

 と聞いてみた。


「あ、いや、どうしようかと……」

 と口籠もる首相。


「そもそもだけど、日本がそこまで面倒見る必要は無いんじゃないかと思うのですよ。

 日本は現状で、最大限以上に強力したじゃないですか。

 そして、結局は弾劾の日以前と同じで、グダグダになっちゃったんでしょ?

 悪いけど、日本は動くべきじゃないですよ。

 ちゃんと、自分らで出来る所までは、手助けしたのに、グダグダした為の自業自得でしょ。

 それを、何故日本が尻拭いしなきゃダメなんでしょうかね?

 それで喉元過ぎたら、きっと以前の国連と同じですよ?

 放って置きましょうよ。自衛官の方々だって、流石に可哀想じゃないですか?

 全く関係無い国に、派遣されて、命掛けろって、ねぇ。」

 と俺はスルーに1票。


「ワシも同意見じゃな。

 戦前はあれだけ人権無視してアジア各国で遣りたい放題やっておきながら、戦後はそれを忘れたかの様に、日本を悪者にして、その後ろ暗さを隠すかの様に態とらしい程に、人権擁護アピールしとったじゃろ?

 嘘臭いんじゃよ。アホらしい。勝手に世紀末でもやらせておけ。」

 と戦前を知る清兄ぃもスルーに1票。


「いや、しかし……」

 と口籠もる首相。


「いや、そりゃあ、確かに子供らは可哀想だと思いますがね。

 じゃあ、あれですか? 子供らだけ救い出しに行きますか?

 それなら俺も協力しますよ。

 そして救った子供らに、日本人古来のモラルや生き方を植え付けましょう。

 そうすれば、ある意味リセットされて、良い感じになるかもですね。」


「で、先方は何と言って来ておるんじゃ?」


「まあ、簡単に言うと救援要請ですね。」


「ふむ。先方の提示した見返りは?」


「いや、それは特に何も。」


「結局、これって、助けても助けなくても、逆恨みされるパターンだと思うんですがねぇ。」


「じゃよな。そう言う奴の割合が多そうじゃし。」


「判っては居るんですが、それでも国としてある程度の姿勢は……」


「だから、良い子ぶるために、建前だけで半端に手を出すから、毎回悪化するんですよ。

 いい加減気付きましょうよ。 その悪循環。 確かに博愛主義も良いですが、薄っぺらすぎるんですよ。

 日本が一番に考えるべきは、日本国民の事。日本の領土の事。

 半端に手を出して受け入れたら、またいつの間にか、日本の奥深い所まで静かに侵略されて、取り返しの付かない所まで行きますよ?

 やっとリセット出来たのはまだ数年前じゃないですか。

 まあ、今回は黄色人種じゃないから、判り易いかもですが、でも無条件に誰でも受け入れたり、無駄に日本人の血を流してまで体裁を整えるのは如何かと思います。」


「じゃよ。ワシは、そいつら100人を救うより、自衛官1人を救うぞい。」


「だよな? 俺もそうだな。」


 と言う事で、要請は却下で、騒動が収まるまで日本は仮設大使館を一時撤退すると言う事になった。


 まあ、首相が俺達の居る目の前で先方に連絡を取って会話していたが、断って、大使館の一時撤退を言った瞬間、先方は大激怒し、罵倒の嵐だった。


「だからだよ。 そんな貴方方だから日本人の貴重な国士の血を流すに値しないと言っているんだ。」

 と言って貰って、スッキリとした。


「まあ、何処でも同じですが、日本人同士の感覚で、お人好しして深入りし過ぎるのは、控えましょう。

 今はまだ日本だって厳しいんですから。無駄に浪費して良い状態じゃないです。

 気にしたらダメですよ。」

 と言う事で、首相官邸を後にした。



「とは言え、子供らの事は実に気になるんだよね。」

「じゃな。」

 実は一番気にしている2人であった。



 ◇◇◇◇



 と言う事で、心の安寧の為にも、ダメな環境から、出来るだけ、まともな場所に子供らを移せないかと2人で旧フランスにやって来ている。


 上空から見下ろすと、仮の首都?の辺りはバリケードを破られて、彼方此方に魔物が闊歩していた。

 しかし、見ると最大でもオークやリザードマン辺り。

 確かに数は多いけどねぇ。

 で、肝心の国民は、と言うと、政府の対応が遅かったのか、建物の上で孤立している。

 政府の建物は、ガチガチに武装して固めてて、住民そっちのけであった。


「誰が選出したのか知らんが、酷い有様じゃの。」


「どうしようか。 これ政府の建物に送り届ければ、大丈夫じゃない?」


 と言う事で、建物の屋上に避難している住民達を、ゲートで政府の建物に、ドンドンと送り届けてやった。

 2人で手分けして、3時間も掛かってしまったが、ザックリ反応を見ても、生存者に漏れは無かった。


 更に、旧ドイツに行くと、同じ様な光景を目の当たりにした。

 これも同じ様に、国の庇護下に国民を送り届けてやった。


 どちらの国の政府の敷地も守るべき国民で溢れかえっていたが、後は知らん。



 首相に確認したが、両国の大使館の方は、無事撤退が終了しているらしい。


「ところで、今2国から再度、怒号が掛かってきたんだけど、佐々木さん達、何かした?」

 と聞かれ、


「いえ、彼らが守るべき国民を彼らの庇護下に送り届ける『だけ』はしましたが、それ以上は何もやってませんよ?」


「ハハハ。だからか。」

 と渇いた笑い声を漏らしていた。



 実質、この仮の首都の中だけがスタンピードを起こしてるけど、他のコミュニティとかには影響なかったし、そう言う意味でも何となく大神様の意図を感じるんだよね。

 下手に手を出して、その意図を踏みにじるのは、得策ではないからな。


 まあ、陸続きだし、何百年も前から戦争し合ってるお国柄だから、無理矢理共同体を作ろうってのが間違ってるんじゃないかなぁ?

 やっぱり、適度な距離感は必要だろう。




 後日談だが、この2つの政府は、怒った住民らに潰された。

 次の政府代表が決まる前に、日本から一言、


「こんな世の中において、まだ無理矢理理想を掲げて主導権争いを繰り返す様な代表を選ぶな!

 ちゃんと自国の国民は自国で守れる様にする代表を選べ。

 既に我が国は、苦しい中でも最大限以上の協力をした。

 それを無駄にする様な国は知らない。」

 と。


 まあこれが心に響いたか、どうか知らないが、次は本気で知らんぞ!と。

 スタンピードだが、政府のトップが代わって事で、何かサラッと落ち着いたらしい。

 やっぱり、下手に手を出さなくて、正解だったようだな。

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