第117話 子供達の夏休み
鬱陶しい梅雨が過ぎ、夏になった。
子供らは健やかに、スクスクと育ち、皐月は歩き回る様になった。
言葉も順調以上に覚え、よく喋り掛けて来る。
可愛い!
敬護はゴールデンウィークのキャンプ以来、前にも増して、率先してピートと訓練をする様になり、剣術も魔法も地味な筋力トレーニングもやって、ドンドン実力を付けて来ている。
ピートもそれに応じて底上げしており、頼もしい限りだ。
特にピートはグングン身長が伸びていて、イケメンっぷりが加速している。
学校にはファンクラブが密かに有るとか無いとか。
「なんて羨ましい青春時代なんだ!!」
と俺が叫ぶと、さっちゃんから、割と冷めた目で、
「旦那様、何言っちゃってるの? アッ君クラブって秘密結社的なのがあったのよ?
まあ、私が潰したけどね。」
と怖い事をカミングアウトして来た。
「え?何それ? 秘密結社? 怖いんだけど?」
と突っ込むと、まあ、俺の知らない所で、実際は俺も結構モテてたらしい。
知らなかったんだけどね……。
で、幼稚園時代からの熱狂的なファン?であるさっちゃんが、それらを全部潰したらしいんだ。
いや、暴力とかじゃなく、全員の前でのアピール連発で、何かそれを華麗にスルーする俺の塩対応で、同情を集めた結果、自然消滅したらしいんだがな。
しかし、塩対応と言われてもなぁ~。
思い当たる節は無い。
「うーん、あんな時代の前だからなぁ。恋愛とか以前に、何とかしなきゃってのが先にたってたから、判らんな。」
と答えると、
「まあ、結果私の一人勝ちだから良いのよ。
フッフッフ。可愛い2匹の卵も産んだし、さっちゃん頑張った!!」
とニマニマしていた。
一応、可愛かったので、頭を撫でておいた。
最近は、四国の香川のダンジョンに通っている。
別に、うどん目当てなんかじゃないんだからね?
福岡のうどんも美味しかったが、香川のうどんも美味いんだよね。
喉越しが堪らない。
最近は、1週間の内、3日ダンジョン、4日自由時間って感じでローテーションしてるけど、その4日に1~3日は何か兄上の会社か、日本航空機工業とか、他の会社の雑用とか、例のロケット関係で潰されている。
そうそう、前に作ったジェットエンジンの代替え用の魔動ダクデットファンのエンジンだけど、進化したんだよ。
ジェット燃料の代わりに、水素を使って、離陸時や戦闘時のアフターバーナー的に押し上げる事に成功してね、空を飛んで来る魔物を撃退する為に、既存の戦闘機のエンジンに積み替えが始まってる。
プロトタイプに乗った自衛隊のパイロット曰く、
「佐々木さん、このエンジン、ヤバいっすよ! アフターバーナー全開にすると、メッチャ加速するっす。」
と興奮していた。
実際、F-15に積んだテスト機では、当時のメーカーの出した最高速を軽く超えたらしい。
確か、マッハ2.8とか言ってたな。
しかも、ジェット燃料からメインは魔石に代わった事で、エンジンと燃料の両方で軽くなったから、運動性能も格段に上がり、行動半径も広くなった。
ただ、パイロットにとっては、一長一短で、高運動性能と燃料切れの心配が無いのは良いが、デメリットとしては、作戦の流れ次第では、長時間操縦席に座る事になり、その為、オムツを履いていないと、コクピットがヤバい事になるらしい。
ただ、戦闘機はエンジンの積み替えだけでOKだが、兵器の方は、当面機銃のみとなる。
これは既存の対空ミサイルの数に制限がある事や、それに魔効付与ゲートを使ってミサイルを対魔物兵器化しても、費用対効果の面では、有用では無いと言う判断らしい。
まあ、弾頭を別の物に換えるだけで、有用にはなるんだが、ワイバーンぐらいなら、機銃で羽を撃つだけでも地上に叩き落とせるとは思う。
後から後から湧いて出るから、出来るだけ低コストで運用しないと、保たないしな。
子供らは、もうすぐ夏休み。
またサバイバルキャンプをやりたいと、今度は米、醤油、味噌だけは許可して欲しいと言っていた。
前回あれだけ、食材も集め、料理も創意工夫していたから、それほどガッツリとしてサバイバルでなくても良いとは思っている。
ちなみに、あのベーコン、滅茶滅茶美味しかった。
肉厚に切ったベーコンでベーコンエッグを作り、トーストに挟むと多分、パズーもビックリだと思う。
ちょっと悔しかったので、その後庭にスモーカー小屋を作ってしまった。
スモーカー小屋を作ったタイミングが、ベーコンを試食した直後だった為に、察したピートが、フフッと笑っていた。
なので、ちょくちょく、ベーコンやソーセージなんかを俺やピートが作っている。
チーズの燻製は、父上や叔父上、清兄ぃに大好評で、鶏のササミなんかの燻製も美味しいと女性陣に好評だ。
スモークに使うチップの種類と割合で、香りや色、味も変わるので、その研究に結構嵌まっていたりする。
さて、夏休みの企画である。
子供らは、最低でも1週間のキャンプを希望しておられるのだが、流石に1週間の『見守り』はキツいなぁ~と、唸って居るのである。
が、可愛い子供らのヤル気と希望は叶えてやりたい訳で、余計に悩ましい。
ちなみに、見守っている間、大体約8時間程、俺は自前の飛行魔法で飛び続ける事になる。
まあ、たまにトイレに行くけど、概ねそんな感じ。
そして、夜は木の上のハンモック生活。
この行動を制限された生活を1週間とか、結構拷問に等しい。
かと言って、本気で放置も難しいしなぁ。
そこで、俺は考えた。
ある程度監視と保護が出来る魔道具を作れば良いんじゃないかと。
まあ、監視と言う点では、過去にも使用した魔動映像通信装置を使うとして、保護と言う点では、過去に作った緊急時に結界が自動発動するブレスレットを改良してしまえば良いんじゃないか?と。
上空で俺が待機していたとしても、別の場所で何かやっていたとしても、瞬時に移動出来るので、救助に向かう際の差は殆ど無いに等しい。
要は気持ちの問題だけである。
後は、保護者さえ、それを了承してくれれば、問題は無い。
それに、ゴールデンウィークから今日までで、子供らの戦闘力は、日々の訓練で、格段に上がっている。
(これは、子供らの希望を叶え、魔法の訓練や軽い剣術、弓矢等の訓練も行う様にしたので)
と言う事で、ブレスレットの改造を済ませ、保護者会を開き、各保護者の理解を求めた。
保護者らは、ブレスレットの効果を体験し、これなら、そこらの遠足や登山よりも安全なんじゃないかと納得してくれたのだった。
そして、キャンプは子供らの希望通り10日間の許可が出たのだった。
ピートには事前に、
「俺、今回は近場では見守らないから気を付けてな。」
と通告しておいたが、
「うん、そこら辺は大丈夫だと思うんだ。慢心はしないけど、あの島って、最悪でも毒蛇ぐらいでしょ?」
と言って笑っていた。
ピートと敬護も居るから、最悪でも何とかなるか。
◇◇◇◇
さて、夏休みキャンプだが、各々がパワーアップしたキャンプはゴールデンウィークの1回目に比べ色んな意味で凄かった。
初日こそ、一応心配な事もあって、チョイチョイ見守って居た訳だが、子供らはそんな俺の心配を吹き飛ばす様に、猪を狩ったり、胡椒やショウガを発見したり、天然のネギを発見したりと大活躍。
流石にコンニャクは無いが、豚汁っぽい物を作ったり、釣った魚をタタキにしてショウガ醤油と大葉で包んで食べたりと、見て居て驚く様な料理のオンパレード。
ブルーシートのテントは勿論バッチリだったし、虫の嫌う匂いを使った防虫を行ったりしていた。
特に全員が身体強化が使える様になった事で、作業効率がアップした事も、生活が華やかにグレードアップした理由の1つであろう。
1人1人が2倍の労働力となったお陰で、テキパキ作業が進む。
更に余力で、簡易的ではあるが、キッチン作業台や、テーブルと椅子まで作っていた。
1日目からコツコツ作業をしていたらしく、魔法で風呂まで作り、3日目には完成していた。
焚き火と火魔法の両方で、お湯を沸かし、3日目からは、風呂付きのキャンプにグレードアップ。
食や住に余裕が出来たので、4日目からは、1時間程度海で採取しながら海水浴したりしていた。
ハハハ。予想以上だよ。
5日目には、鶏の巣を見つけた様で、卵焼きなんかも料理に加わっていたし。
こうして、アッと言う間の10日間が過ぎ、みんな日焼けして逞しくなった子供らを迎えに行くと、帰るのを渋っていた。
相当楽しかったらしい。
キャンプの感想を聞くと、
「楽しかったけど、ワサビが無かったのは悲しかった。」
だそうだ。
どうやら、釣った魚を刺身と炊きたてのご飯で食べたかったらしい。
ふむ、綺麗な湧き水もあるから、ワサビの栽培も出来そうな気はするんだがなぁ。
何だか、生活を良くする為の、次なる課題を自分らで考えているらしく、帰ってからも色々ネットで調べたりしていた。
ピートと敬護も戻って来て、佐々木家界隈は、一気に賑やかになった。
父親の俺の感じる子への思いとはまた違う、母親のさっちゃんは、逞しくなった我が子が無事に帰って来たのは嬉しいのだが、ちょっと親離が加速した事で、寂しそうな気配を漂わせていた。
まあ、男の子だからなぁ~。
それくらいが、子の成長として健全なのだよ。
ピートも敬護も、初っ端から10日間サボってしまった、夏休みの宿題を急ピッチで進めている。
本人達曰く、盆休みまでの終わらせる! と意気込んで居た。
また夏休みの自由研究は、『無人島でのサバイバル』や『サバイバル料理』に関するレポートらしく、イラスト入りの超大作を作り上げていた。
俺のダンジョン攻略の進捗だが、香川県の小豆島ダンジョンは、現在第58階層まで攻略済みである。
ここは、俺の大好きなジャングルフィールドの出現回数が多く、俺のアイテムボックスの中の果物ストック量が、もの凄い事になっている。
また、キラー・ビーの巣からは、大量の蜂蜜もゲットしており、甘いダケでは無く、その芳醇な香りと、美肌効果や整腸効果等に、女性陣がメロメロになっている。
母上からは、
「アッ君、是非とも小豆島ダンジョンは定期的にハチミツ採取に行きなさい。」と特命が飛んで来る程だった。
さっちゃんは、最近、そんな俺のダンジョン攻略のオマケを使い、スィーツを作るのに嵌まっている。
元々、さっちゃんのスィーツ作りは趣味の1つだった様で、高級食材を使った、さっちゃんデザートは、最高である。
「これなら、マジでスィーツ屋さん出来るよ。」
と俺が太鼓判を押すと、
「じゃあ、子供達の手が離れたら、考えようかな?
あ、でもそうすると、旦那様との時間が減るから、やっぱり止めとく!」
と可愛い事を言っていた。
フフフ。まあ二人の時間、これからも長く楽しもうね。
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