第116話 ご馳走と課題

 2日目の朝がスタートした。

 朝から子供達は元気いっぱいである。

 朝食は、昨日取った果物と、芋を蒸かした物で済ませるらしい。


「昨夜はあれだけ豪勢だったけど、今朝は若干寂しいね。」

 と1人の子供が呟くと、


「まあ、昨日は上手く行き過ぎたぐらいと思わないと。

 特に鶏を確保出来たのは大きかったね。」

 と他の子が反応する。


「本当なら、鶏の卵とかも確保出来れば良かったんだけどね。

 雌で卵が期待出来るなら、潰して食べちゃうよりも、卵を永続的に産ませた方が良いよね。」

 と上級生の子。


「そうだよね。

 そうそう、昨日足跡を発見したんだけどさ、どうやら猪が居るみたいだね。」


「じゃあ、猪鍋とかも出来るのか。

 あ、でも猪って確か腐りやすいんじゃなかった?」


「血抜きをちゃんとしないとダメだよね。

 大きさにもよるけど、燻製出来れば、ベーコンとか干し肉とかに出来るのかな?」


「「「「「「おおぉ!!」」」」」」

 と朝から、ヤル気になっている。


 うん、この島、猪も6匹ぐらい居るんだよね。

 と言うか、俺が他の山から確保して2匹程増やしておいたんだよね。

 あと、面白い所だと山羊な。 これも雄雌4匹ぐらい混ぜてるし。

 鶏は20匹ぐらい放したから、今はもっと増えてるかと思う。



「猪鍋も、ベーコン良いね!」

「じゃあ、今日は俺が猪探しするかな。

 最悪でも、魔法で対応出来るし。」

 とピート。


 そして、海チームと山チームに別れて行動開始するのであった。


 山チームを率いるピートは、まず竹槍を作っていた。

 猪が突っ込んで来た時の躱し方や、対処の仕方を教えつつ、何かあれば、直ぐに助けに行くので落ち着いて対処事を何度も言っていた。



 ◇◇◇◇



 山チームは、途中で芋や果物を補充しつつ、昨日足跡を発見していたエリアに行き、足跡を追った。

 どうやら、その辺りは猪の通り道らしく、無数の足跡があるらしい。

 暫くすると、真新しい足跡を発見した様で、ドンドン山の方へと進んで行く。


 おお、発見したな。


 前方30mぐらい先に木の根っこに頭を突っ込んで居る猪3匹を岩の影から窺っている。

 さあ、どうやってやっつけるだろうか? と内心ワクワクして見て居ると、ピートが魔力を一気に高め、身体強化と身体加速を発動し、竹槍2本を持って走り始めた。

 そして、距離を10mまで一気に詰め、竹槍1本を全力で投擲した。


 悠長に何かを食べていた猪も、やっとこのタイミングで察知し、頭を上げたが、その時点で竹槍が猪の首をザックリ貫通し、「キュォー」と言う悲鳴を上げて絶命した。

 他の2匹は、一斉にその場から逃げ出して行った。


 うん、流石はピートである。


 呆気なく猪を倒してしまい、驚きと歓声を上げる子供達。


「ピートってば、凄いねぇ!!」

「わーーい、猪鍋だーー!」

 と喜んでピートの下へと駆けて来たのだった。



 ロープで木に吊した下に穴を掘って、首を刎ねて血抜きを行い、腹を割いて、内臓も取った。

 内部を水魔法で綺麗に洗い、皮を剥いで行く。


 既にビックボア等を、何度も解体させているので、その手際は安心して見て居られる。

 ピートはバナナの葉を沢山持って来させて、解体した肉のブロックを綺麗に洗ったバナナの葉で包み、全員の背負うリックに入れて行った。

 そして、帰り道にも茸や香草や果物を採取しつつキャンプへと戻って行った。




 若干時は戻るが、海チームの方も順調な様で、釣りをする者と、岩場のプールで貝類を採取する者とに別れ、作業をしている。

 昨日仕掛けた罠には、カニや伊勢海老が入って居たらしく、大喜びしていた。


 釣果は、鰺を2匹と、驚いた事に、黒鯛を1匹釣り上げていた。

 早速絞めて、イソイソとキャンプへと戻って行った。


 昼を過ぎ、1時頃に全員が拠点に戻り、作業に取り掛かる。


 ピート達数名は、桜の木と楢の木を探し、その倒木からチップを作成していた。

 細かく砕いたチップを魔法で乾燥させて、燻製チップの出来上がり。

 その後、竹で骨組みを作った小さめのスモーカーを作っていた。


 他の者が肉のブロックを切り分け、海水で作った塩と香草を擦り込んで竹で作った籠に入れて吊していた。


 残った半分肉のブロックをスライスして、大量の肉のスライスを作っている。


「やぁ~、この分なら、今夜も豪勢になりそうだよな。」

「私、このサバイバルキャンプ終わったら、体重が増えてそうな気がする。」

「ああ、私も! 何かおかしいよね。サバイバルなのに。フフフ。」

「しかし、この鯛、刺身にして米とわさび醤油で食べてぇ~。」

「こうして考えると、米や味噌や醤油って、偉大だよなぁ。」

「だよな。せめて胡椒とかあれば嬉しいだけどなぁ。誰か胡椒の木?草?判別出来ないの?」

「ああ、調味料って偉大だな。」

「マヨネーズも偉大だぞー!」

「フフフ、出たっ。マヨラー」


「「「「米食いてぇ~」」」」

「「「お風呂入りたいわ」」」


「あつし兄ちゃんから教わったんだけど、風呂ぐらいは作ろうと思えば作れなくもないぞ?

 ただ、時間と魔力が無駄に必要だけどな。」

 とピート。


 すると、女の子達が、目を輝かせ始める。


「あ、いや、期待しているみたいだけど、俺レベルじゃあ、作るのに最低でも3日ぐらいは必要だからね?

 つまり、今回のキャンプ期間内では、無理って事だよ。」

 と言うと、ガックリと項垂れていた。




 午後5時前、超大作ディナーが完成したらしい。

 完成したベーコンをすり潰した芋に混ぜて焼いたパンケーキ、鯛の焼き魚よ、猪肉入り海鮮スープ等、非常に豪華で大量である。

 あ、後はスライスした猪の焼き肉もある。


 全員で声を揃え、

「「「「「「「いただきまーーす!」」」」」」」

 と合掌。


 彼方此方で、美味しい美味しいとバクバク食べている。


 俺は、例の如く、少し離れた木の上に陣取り、生唾を飲んで見て居た。


 くぅーーー、美味そうだな。

 帰りにあのベーコン、少し味見させて貰おう……。



「このスープ、滅茶滅茶美味いんですけど!」

「ああ、本当に美味しいね。これに味噌入れたら、きっと絶品だよね。」

「「「「……味噌かぁ。」」」」

「味噌と醤油の造り方って、調べたけど、結構大変だよね。」

「だよね。それに発酵と熟成に時間も掛かるしね。」

「次回のサバイバルキャンプには、是非味噌と醤油を希望したい!」

「で、出来れば米も!!」

「ハハハハ。やっぱり米は欲しいねぇ。」

 と無い食材に思いを馳せていた。


「今日のピートの猪狩りを見てて思ったんだけどさ、やっぱり魔法の習得は、生き残る上で重要だよね。」

「ああ、あれは凄かったね。

 ピートは、どれくらい魔法を訓練してるの?」


「ああ、ほら僕は3歳ぐらいで日本にやって来て、あつし兄ちゃんや双葉姉ちゃんとか色々に魔法を教えて貰ってるんだけど、

 最初に魔力感知を覚えたのは、5歳ぐらい? いや6歳だったかな。

 それから、毎日魔力が増える様に、毎晩枯渇するまで使って寝る様にしてるね。」

 とピートが語っていた。


「へー!そうか。じゃあもう6年くらいは魔法の訓練しているのね。

 じゃあ、敬護君も5歳ぐらいからやってるの?」


「えっと、僕は多分4歳ぐらいからかな。

 ピート兄ちゃんに比べると、全然ダメだけどね。」


「それも凄いじゃん!」


「でも、お父さんは、確か2歳ぐらいで身体強化とか使えてたらしいからなぁ……。あ、これ内緒だったかも。忘れてね。」

 と敬護。


 おいおい、敬吾君よ。バラすなよ!! まあ、今更だから良いけどな。


「じゃあ、敬吾君も、魔物とか倒せたりするの?」


「いや、僕だと精々、ゴブリンぐらいまでかな。

 オークはやった事ないけど、1匹相手でもまだまだキツいと思う。

 どっちにしても、実戦経験が少ないし、まだまだ咄嗟の判断なんてダメダメだからね。

 その点、やっぱりピート兄ちゃんは凄いよね。」

 と答えて居た。


 実際の所、敬護の実力だったら、剣術と魔法を合わせて、ギリギリ、オーク10匹程度なら相手が出来ると思うんだよね。

 まあ、あいつは結構慎重なタイプだからな。


 反対にピートは幼い頃から危機に接して育った影響か、非常に咄嗟の判断力が良いんだよね。


 夕食も終わり、就寝の準備をして、この日も全員直ぐに寝付いたのだった。



 ◇◇◇◇



 一夜明け、最終日の朝になった。

 朝食は、木の実と芋のパンケーキ、海鮮スープの残り、焼き肉とベーコンらしい。


「今日で終わりかぁ。

 何かちょっと残念でもあるね。」


「フフフ。私も。結構こう言う生活も、悪く無いって思っちゃう。

 尤も、お米と味噌と醤油とお風呂は欲しいけどね。

 それがあれば、コツコツ小屋でも作って、少しずつ生活に必要な物を作れば、住めるよね。」


「でも、そうなると、やっぱり魔法や剣術とか、後は弓矢とかも使える様になりたいね。」


「そうだね。やっぱりある程度身を守れないとね。」




 朝食を食べ終わった子供達は、撤収作業を開始した。

 テント代わりのブルーシートを畳み、使った木の棒や竹等を一箇所に纏め、トイレ代わりの穴に木炭や灰を捨てて、埋め戻して居た。


 余った猪の肉やベーコンは全員で別けて、お土産にするらしい。

 荷物を持って、周囲を再度見渡して、全員で2泊した野営地に頭を下げてから、海岸へと出発したのであった。





「いよぉ~、早かったな。

 どうだった? サバイバルキャンプは?」


「あ、お父さん! そっちも早いね。

 楽しかったよ。」

 と敬護が嬉し気に答える。


「あつし兄ちゃん、全員無事に戻りました。(監視お疲れ様)」

 とピート。どうやら監視に、気付いていたらしい。フフフ。


「あつしさんだーー! 鶏も猪も美味しかったよー!」


「米食いてぇ~。」

「私はパンも食べたいーー!」

「俺はアイスーー!」

「コーラ飲みたい。」

 と感想を聞いたつもりが、何か段々と食べたい物の願望に変わって来た。


「ハハハ。じゃあ戻るか。」

 と言って、ゲートを開き、自宅の庭に戻って来た。


 まずは、全員にクリーンを掛けてやり、異臭を取り除いてやった。

 そして、軽くジュースとサンドイッチを出してやっていると、各自の親が迎えに来た。

 子供らが嬉し気に親に抱きついたり、興奮気味にキャンプの出来事を一生懸命に説明していた。


 去り際に、子供らから、魔法と剣術や弓矢等も教えて欲しいとお願いされた。

 ハハハ、なかなか意欲的だな。


「まあ、それはまた親御さんとご相談の上だな。」

 と返事をすると、手を振りながら帰って行った。



「ああ、終わったね。リーダー役、ピートお疲れ様。安心して見てられたぞ。流石だった。

 あと、敬護も良くやってたぞ。料理も結構出来る様になったな。」

 と2人の頭に手を置いて撫でながら、褒めると2人とも照れていた。



「まあ、まずは、一回風呂入ろうか。

 あ、あと、ベーコン少し食わせろ! 木の上から見てて、実に悔しかったから!!」

 と言うと爆笑していた。




 そして3人で久々の風呂に浸かっている時に、

「次回は、是非米と味噌と醤油は認めて欲しい!」

 と懇願されたのだった。




 ゴールデンウィークの後半は、1日空けて、2泊の予定で湯布院、別府と1泊ずつ旅行に出掛けた。

 ピートも誘って、5名の予定だったのだが、母上が拗ねて、結局、今回はコンパクトに父上、母上、それに兄上一家。

 双葉は友達と約束があるとかで、お留守番との事だった。


 知らなかったが、別府はふぐが有名らしく、ふぐ刺し、大変美味しゅうございました。

 ピートと敬護は地獄巡りが楽しかったらしい。

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