第115話 子供達の冒険
3月が終わる前に、やっと通い詰めた福岡の西公園ダンジョンも最下層まで到達し、無事にダンジョンボスを討伐し終えた。
前田達と均等割にはしているが、もの凄い金額が政府銀行の口座に追加された。
尤も、政府銀行の俺の口座は、結構出入りが激しかったりする。
今回も新学期が始まるって事で、全国の孤児院へ、新学期の支援金として寄付を行っているし。
まあ、せっかくだから、新しいランドセルと、通学服ぐらいは持たせてやりたいじゃないか!とね。
そして、そのもの凄い分け前の数字を見た前田と凛太郎曰く、
「なあ、マジで、これだけあれば、暫く仕事しなくて良いんじゃね? 普通に生きるなら、これだけでも一生は暮らせるよな?」
「だよな。暫くは嫁さんと子供とマッタリ過ごしても、バチは当たらないよな?」
とか言っていたのだが、ちゃっかり者のなっちゃんと愛子ちゃんに却下されて、1週間だけの休みを勝ち取って終わったらしい。
4月になって、桜の花びらも満開を迎えた。
そして、毎年の様に春先に中国大陸からやって来る実に迷惑な黄砂だが、ここ数年減少している。
どうやら、黄砂の素となる砂漠地帯に異変があり、緑化が進んでいると言う事らしい。
砂漠の緑化と言えば、エジプトや中東も同様で、徐々に草が生え始めていて、不毛の大地が、恵みの大地に変化していると言う噂である。
まあ一概に何とも言えないが、人口が減った事で、砂漠の緑化が進み、温暖化が完全にストップと言う事実は、実に皮肉な物である。
あと、不思議な事に、春先と言えば花粉症の季節なのだが、年々花粉症に悩まされている人が減っていっているとの話である。
これは、レベルアップに伴う身体能力のアップが影響しているのかも知れない。
双葉は、いよいよ高校3年生となり、この先、進学するのか、働き始めるのか、考えている様である。
双葉と言えば、城島君だが、彼は既に株式会社マジック・マイスターへの強制入社が決定している。(俺と兄上の中で)
いや、無理矢理って訳でも無く、本人もノリノリなのだから、問題は無い。
ユグドラシル大陸の方は、魔素の循環も落ち着き、一転して豊作となっている。
徐々にではあるが、日本との行き来も始まり、一部の者は日本で働いたり、観光したりする者も居る。
ただ、問題が全く無い訳ではなく、ユグドラシル大陸がこちらにやって来てから、徐々に空を飛ぶ魔物が出始めている。
まだ小物ばかりなので、良いのだが、これがワイバーンとかが闊歩する様になると、一気に危険度が増す。
今の所、ユグドラシル大陸以外で、ワイバーンの目撃例は無いが、油断は出来ない。
同様の事を政府も懸念している様で、対魔物監視衛星の開発を進めているらしい。
ただ、問題は色々あって、旧財閥系の企業が廃業してしまったので、これまでロケットを開発していた人材とこれまでの技術的ノウハウや製造ラインの確保から始めているらしい。
そして、その受け口は、日本航空機工業となるそうな。
ロケットの再開発の話を聞いた時、俺は不覚にも、「え? そんなの、成層圏まで飛行魔法で飛んでその先は有視界の範囲をゲートで進んで、アイテムボックスから衛星出せば済むんじゃね?」とか声に出しそうになってしまった。
あの時、寸前で声にしなかった俺、グッジョブだ! じゃないと、また面倒な事を毎回やる羽目になるしなぁ。
まあ、せっかくこれまで積み上げて来たロケットの技術があるのに、そのままロストテクノロジー化させるより、次の時代へ引き継ぐ方が良いからな。
あと、対魔物監視レーダーは、兄上のマジック・マイスターへと話が来て居る。
つまり、俺にも動けと言う無言の圧力が、兄上を通してチラチラと掛かって来ている。
実に面倒で難しい話である。
俺の望みとしては、敬護と皐月がある程度大きくなったら、さっちゃんとマッタリ、スローライフを送りたいと思っているのだがなぁ。
どちらにしても、対魔物監視レーダーと衛星はどうやら、俺以外には出来そうな人材は居ないらしい。
そして、最後の問題は、技術的な事ではなく、全世界の衛星の管理に関する問題。
弾劾の日以前は、国際的な衛星軌道を管理する機関が、統括して管理し、各国へ静止衛星の座標を割り振っていた。
これに基づいて、各国が自国の衛星を制御したりしていたのだが、まずこの国際的な機関が壊滅してしまっているので、現状がどうなっているのかは不明なのである。
更にコントロールを失って幾久しい他国の衛星が、この先障害となりそうなのである。
こればっかりは、現状解決策らしい物は無いらしい。
まあ、俺に言わせれば、「そんなの亡国の衛星なんか、全部魔法で吹き飛ばして仕舞えば良いじゃん?」と思うが、これも声には出して居ない。
下手に声に出してしまうと、
「ああ、それなら、是非宜しくお願い致しますね?」
と言われちゃうからな。
実際の話だが、俺は今生の17歳ぐらいの頃に、一度大気圏外まで出た事があるのだ。
勿論宇宙服なんて無いし、普通の格好のままだったけど、ちょっと思い立って実験してみたのである。
結果、光魔法のシールドを5重に展開して、宇宙放射線を防御しつつ、シールド内に風魔法で酸素供給をしてやれば、問題は無かった。
また、宇宙空間でも怖いぐらいに無抵抗で飛行魔法が使えたのだ。
逆に、あんまりにもサラッと上手く行ったので、笑っちゃったぐらいだけれどな。
思わず、飛行魔法で月まで行ってみようか? とも思ったのだが、途中で魔力が尽きた時の事を考えて、思い止まったのであった。
ふむ……気が向いたら、誰にも告げずに、邪魔な旧★国や旧△国とか、未だにグダグダやってる欧州辺りの衛星を吹っ飛ばして、綺麗にするのも手だな。ハッハッハ。
◇◇◇◇
明日からゴールデンウィークに突入する。
あれから、この約1ヵ月で、俺は結局対魔物監視レーダーや対魔物監視衛星の目に相当する部分の開発に成功し、日本全土をカバーする地上基地分や、監視衛星用の高出力タイプの量産体勢までを担当し終わった。
これでスッキリとした気分で休めると言う訳だ。
ゴールデンウィークの前半は、子供らを引率して、新たに購入して改造した無人島でのサバイバルキャンプとなる。
まあ、あの島は、かなり俺が手を入れたので、食料を持たずに行っても食うには困らないぐらいになっている。
ピートと敬護は、現在工房で城島君に習いながら、自分のサバイバルナイフを、シャコシャコと研いでいる。
時々、ニヤリと薄笑いを浮かべながら、研いだ刃を目線の高さに上げて、片目を瞑って刃先を見たりしているし。
この2人の変化と言えば、シッカリして来たと言うのもそうだが、武器と言うか愛用のナイフの手入れをする様になった事だな。
それに時々、図書館で借りたサバイバル・ブックなんかに載っていたサバイバル術を実験したりして、遊んでいたりする。
例えば、長ズボンの裾を縛って浮き袋代わりにして、その浮力効果のある時間を計ってみたりとか、火を起こす方法を何種類か試して見て、どの程度の実用性があるかとかだ。
あと、面白い所では、粘土を捏ねて簡単な食器や鍋っぽい物を焼いて乾燥させて作ったりしていた。
まあ縄文式土器の装飾無しバージョンかな。
ピート曰く、
「やはり知識で知って居ても、実際にどれ位、使い物になるかは未知数だから、土壇場で試すより事前に知って居た方が良いと思ってね。」
と言っていた。うむ、流石は我が弟である。
翌朝、我が家に集まった子供達とゲートで島の海岸に移動した。
「さ、これからサバイバル開始だ。
無人島生活を存分に楽しんでくれ!
あ、毒蛇も居るから、気を付けてな!」
と言って、ゲートを起動して一旦島から帰る振りをして、実は島の上空へと移動した。
気配を完全に消しているので、まあ、見つかる事は無いだろう。
俺の号令で、一斉に子供達が集まり、打ち合わせを始めた。
どうやら、3組に別れて、島の探索を始める事にしたらしい。
「じゃあ、みんな十分に気を付けてね。水と食料になる物を重点的に。」
とピートが言うと、全員が頷き、3方向に散って行った。
俺は、上空から気配察知と視力強化で子供らの行動を見守りつつ、さっちゃんの作ってくれたお握りとお茶でノンビリとする。
子供らは、水源である湧き水を発見したようだ。
他の班の子らは、果物の木を発見して、食べられそうな実を採取しつつ、探索を続けている。
2時間程の探索を終え、子供らが海岸に集合した。
結局、野営地を水源の傍にする事にした様だ。
早速、全員で水源の傍まで移動し、開けたスペース(俺が作ったんだけどね)に倒木の棒を見つけて骨組みとし、持って来ているブルーシートを組み合わせて簡易テントを建てて行った。
流石に2泊3日で屋根まで作らせるのは酷かと思い、ブルーシートを支給する事にしたのだ。
南の島とは言え、まだ夜中はかなり肌寒い季節である。
その為、作ったテントの入り口付近で、ストーブ代わりに焚き火が出来る様にする様だ。
調理はそれとは別の場所に竈を作り、作る予定っぽい。
テントの中には、刈り集めた草を敷いて、その上にブルーシートを敷いていた。
ほぅ!なかなか考えているな。
一旦、火を起こしてお湯を作り、見つけた笹の葉を使って笹の葉茶を飲む事にした様だ。
野営地が完成すると、一旦、火を起こしてお湯を作り、見つけた笹の葉を使ったお茶と果物を食べつつ休憩していた。
休憩が終わると、竹を割いて、籠を編んでいた。
更に、太い竹筒を何本か用意して、節に穴を開けていたので、水筒にでもするのだろうか?
今度はチームを半分に分けて、本格的な食糧集めをする事にした様だ。
1チームは島の散策していない辺りを探索し、もう1チームは海岸の岩場辺りで海産物を獲るらしい。
ピートが率いる岩場チームが何やら、岩場の隙間の海面に竹籠を沈めている。
なるほど、竹の籠は、罠と魚籠か! 考えてるなぁ。
更に、サバイバルナイフに内臓されたケースから、釣り針と糸を取り出して、岩に張り付いたトコブシの肉片を餌に魚を釣り始めた。
少し離れた所では、岩場に出来たプールに入り、張り付いた貝類を採取している。
お!釣れたみたいだな。
もう1チームの方は、俺が自然栽培しておいた芋を発見したっぽいな。
あ、野生に返った鶏を発見したのか? フフフ、追っかけてる追っかけてる。
午後3時過ぎた頃、両方のチームが帰還し、成果を自慢しあっている。
釣った魚を捌き、持って来たコッフェルに水に少し海水を混ぜて入れて、トコブシ等の貝類と、芋や茸を切って入れてる。
大丈夫かな?あの茸? 更に視力を強化して、鑑定してみたが、大丈夫、食用可能な椎茸だよ。
更に、ハーブや何かを入れてるな。
あまった芋は、どうやら、海水で茹でるみたいだな。
一緒に入れてるのは、木の実か?
茹でた芋の皮を剥いて、潰し始めたな。
お、ここでさっき茹でた木の実も一緒に切って混ぜたね。ほほぉー。フライパンで焼くのかな?
あっちは、さっきの鶏を捌いてるな。
ハハハ、低学年の子が、若干引き気味だ。
鶏はどう調理するつもりだろうか?
表面を軽く直火で炙った? その後、内臓を獲った中に、ジャガイモや香草を入れてる様だな。
表面に芋を茹でた際の海水から採れた塩を塗り込んでいるな。
ああなるほど! バナナの葉か!!
それに包んで、地面に少し穴をあけて、十分に熱した石を置いて、バナナの葉で包んだ鶏を入れて、その上にまた石を置いて周りに木を置いて蒸し焼きか。
初日から、なかなか、豪勢じゃないか。
辺りが暗くなる夕方6時頃には、全員揃って、頂きます と竹で作ったお椀や皿や箸を使い、1日目のディナーを食べていた。
いい加減俺も、腹が減って来たので、ちょっと離れた木の上で、持って来たさっちゃん弁当を食べた。
子供達の楽し気な会話が聞こえて来る。
「塩しか無いから、余り期待してなかったんだけど、このスープ、美味しいねぇ!」
「やっぱ、貝類や魚の骨とかから、良い出汁が出てるのかな?」
「それに、この草?も良い香りしてるよ。」
「鶏の蒸し焼き、滅茶滅茶美味しいよ! ちょっとこっちも食べてみてよ!」
「本当だ! 何かほんのりとバナナの香りもしてて、美味しい!」
「ジャガイモのパンケーキも美味しいね。」
「一時は、食材見つからなかったら、どうしようかと思ってたんだけど、みんなで協力したら、何かご馳走になったね。」
等と話している。
1時間程掛けて、全部を食い尽くした子供達はマッタリとしている。
コッフェルやフライパン、食器や箸を洗って、竹で作った籠に入れて乾し、どうやら、男女に別れて身体を拭く事にしたらしい。
ついでに顔を洗って歯も磨き、午後9時頃に就寝となった。
一応、今回のキャンプでは、万一と言う事が無い様に、夜は結界の魔道具を使う事にしている。
なので、野生の危ない虫も動物も野営地には入って来られない。
テントの前に大きめの薪を入れた焚き火があり、反射した熱で、テントの中も大丈夫そうである。
念の為、魔道具の結界の外に魔法で結界を張っておいた。
木の上に蚊帳付きのハンモックを吊し、クリーンを掛けて中に入ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます