第114話 サバイバル力

 正月3が日はアッと言う間に終わってしまい、自宅に戻って来た。

 楽しい時間は、時間が経つのが非常に早いものである。


 4日は、人出も減ったであろう、靖国神社の友の下へ参拝に行った。


 そうそう、俺達が靖国神社に行っていた頃、双葉は城島君と近所の神社に参拝(と言う名のデート?)に行ったらしい。

 何でも、4日は俺と約束してたらしく、工房に来たけど、すっぽかしてしまったらしいんだよな。

 あれぇ~記憶にないなぁ。ハッハッハ。

 なので、双葉に連絡して、『代わり』に1日相手をして貰ったんだよね。


「えー? あつし兄ちゃん、それはあんまりだよ!」

 と抗議していたが、代役を頼むと、


「えー!? しょうが無いわね……」

 と言いながら、慌てて母上に振り袖を着付けして貰っていたらしい。

 頑張れ!城島君!!



 敬護とピートの冬休みも後残すところ数日である。


 正月に2人と約束した、凧作りを1日中やって、翌日飛ばして遊んだ。



 兄上は4日から仕事始めだったらしく、既に平常運転になっている。

 俺はと言うと、相変わらず、首相からのエルフに関する泣き言電話が掛かって来ているが、スルーしている。

 ちなみに、俺からの提案もあって、分散している獣人達にお願いし、余っている平野部分で稲作等を含めた農業をやって貰い、こちらからは技術支援や住居の提供等を行う事になったらしい。

 世界規模で見ると、まだまだ復興途中なので、食料は余分にあるに超した事は無い。

 逆に言えば、食料さえ潤沢であれば、その余った労力を復興に回す事が出来る。

 そして、新しい時代は、日本主導で行えば、過去の様なバカな争い等は激減するだろう……多分……。



 俺と清兄ぃは、時々合間に酒や酒の肴を持参して、ドリュー師匠の下へと行き、新しい刀の素材や大きさ等の打ち合わせや、新しい炉の建設を行ったりしている。

 清兄ぃは、ドリュー師匠が過去に打った刀を試しに使っていて、その切れ味や美しさを絶賛していた。

 どうやら、俺が居ない時にも酒を片手に飲みに行ってるらしい。


 前田達は、何処から聞きつけて来たのか、ドワーフの打った刀に興味があるらしく、清兄ぃに頼んで連れて行って貰い、酒樽と引き換えに新しい刀を貰って喜んでいた。



 ◇◇◇◇



 新年になって10日が過ぎる頃、いい加減ノンビリするのも飽きたので、仕事始めをする事にした。

 ダンジョンアタックである。


 まあ、年末の政府からの指名依頼の報酬や、一時立て替えで配布して廻った俺自身の蓄えた食料や救援物資の分も、多少は上乗せして支払って貰ったが、実際で言うと、億単位で大赤字ではある。

 更に年末年始の旅行代金は、何か知らない内に俺が支払う雰囲気となっていて、散財してしまったので、働かねば!と思った訳だ。


 と言う事で、さっちゃんの「辛子明太子の美味しいのが食べたい!」と言う一言で今回は福岡の西公園ダンジョンにやって来ている。

 前田達も「博多ラーメン食べたい!」と言う事で今回ジョイントしている。



 西公園ダンジョン横のギルドに立ち寄って挨拶をして、5名パーティでダンジョンアタックを開始したのだった。


 まあ、ダンジョン内の話は特に大した事も無く、いつも通りなので省くが、この福岡のラーメン巡りは実に楽しかった。

 博多ラーメンも美味しいのだが、うどんも美味いのである。

 勿論初日の帰りに、辛子明太子を買って帰ったが、日々今日食べたラーメンやうどんの話をすると、さっちゃんも食べたいと言い出して、敬護の小学校が休みとなる週末に、一緒に食べ歩きする事になった。

 と言う事で、西公園ダンジョンは第5階層を過ぎてもアタックを継続する事にした。


 せっかく週末に食べ歩きするなら、泊まりたいね と言う事になって温泉を探したのだが、福岡って温泉無いんだよね。

 熊本や大分とかには、温泉だらけなのにね。

 結局、普通に天神の老舗?ホテルを取る事にしたのだった。


 金曜、敬護が小学校から戻って来ると、全員でゲートで移動し、大濠公園で手こぎボート乗ったり、遊具で遊んだりした後、ラーメンやうどんの食い歩きをした。

 更に地鶏の鍋物も堪能した。


 夕食後、油山と言う夜景の見えるポイントに立ち寄って、夜景を堪能し、ホテルへ帰還。

 敬護曰く、「お風呂が狭いね……」とご不満の様だった。

 まあ普通にちょっと広めのツインだから、しょうがないし、普通のホテルならこんな物だろう。


 と言うか、日頃から大人の贅沢に付き合わせてしまい、それが普通と思い込んでしまっていると、これは教育上、非常に宜しくないな。

 キャンプにしても、マジックテントで快適なキャンプばかりを体験しているし、最悪な泥水を啜る様な地獄のキャンプを体験していない。


 うん、これは拙いな。確かに幼くしてダンジョン経験もあり、レベルも多少上がっては居るが、サバイバル経験も無い。


 その夜、俺は急遽子供が眠りに就いたあと、さっちゃんと話し合いの場を設けた。


「と言う訳で、このままだと、この先第ニ第三の災悪が訪れた際、こいつらの生存確立が減ると思うんだよ。

 さっちゃんには詳しく言ってなかったかも知れないが、俺はそう言う泥水を啜ってでも生き抜いた経験があるんだ。

 だからこそ、その経験を活かして、そんな環境下でも、より生活を快適にする工夫をする様になった。

 料理にしても同じだ。」

 と説明すると、


「言われてみれば、確かにそうね。

 可愛い子の為に……と思ってやっていた事が、逆にその子の生存確率を下げるって、皮肉よね。」

 とさっちゃんも同意してくれたのだった。



 俺は、清兄ぃや父上母上、そして兄上と義姉上を交え、さっちゃんに話したのと同じ事を説明した。


「確かにのぉ。戦時中~戦後のキツい時代を知るワシじゃが、その経験は確かに生き残る上で重要な体験じゃった。

 子の可愛さで、逆にその子の生存確率を摘む結果になるのは頂けないのぉ。」


「じゃあ、具体的にどうするの?」

 と兄上が聞いて来た。


「やっぱり、こうなると、地獄の長期サバイバルキャンプを体験させるしかないよな。」

 と俺が言うと、「マジか」と呟いていた。


「そもそもだが、修学旅行とかやる前に、こう言う訓練を学校教育に取り入れるべきだよな。」

 と俺が言うと、


「いや、それは結構ハードル高いんじゃない? ほら、今でこそ、貴方達の子供の時代よりはマシだけど、モンペとか色々ごねる人出て来るよ?」

 と母上が昔を思い出して、苦い顔をしている。



 兎に角、佐々木家に関しては、英才サバイバル教育を実施する事に決定したのだった。



 それからの日々、俺は西公園ダンジョンアタックと平行して、別の無人島を1つ購入した。


 例の島を改造する事も考えたのだが、せっかくロッジとか色々建てたので、今更撤去も勿体無い……と言う事で、思い付きで別の島を探してみたら、何箇所か無人島の売り物を発見した。

 中でも、かなり南寄りの温暖な島があって、手頃なサイズの中でも、湧き水もあり、小高い山や植物も生えている島が売りに出ていた。

 どうやら、昔は人が住んで居たらしいのだが、過疎化で島を離れたらしい。

 その後、リゾート計画等もあったらしいのだが、弾劾の日で完全に計画も頓挫し、投げ売り状態になっていた。


 ラッキー!とばかりに、即決で購入し、早速空き時間でコツコツと島の改造に着手したのだった。

 テーマは、『子供らでもサバイバル可能な南の島』である。

 サバイバルが可能な自然の恵み……即ち、果実の木や食用可能な植物を徐々に増やしつつ、ヤバそうな動物や毒を持つ生物をチェックした。

 致死性の神経毒を蛇を発見したが、数はそれ程多く無かったので、そのまま放置する事にした。

 まあ、噛まれたとしても、速攻でキュアを掛けるか、解毒ポーションを飲ませれば大丈夫だしな。



 週末になると、敬護や近所の子らを集め、サバイバルのイロハを教えた。

 ピートは、幼児ながらに米国での日々の記憶があるお陰か、その重要性を理解し、率先して色々と知識を吸収していった。流石である。

 敬護も徐々にではあるが、考え方が逞しくなって行ってる気がする……多分。


 広い我が家の庭で行える事~河原や野山に出て日帰りのアウトドア調理等、火起こしや、雨風を防ぐ為のビバークの仕方等、色々と実施していった。

 また、サバイバルに重要な綺麗な水の確保の仕方や、簡易的な濾過器の作り方とかも教えていった。

 サバイバル教室を始めてから約2ヵ月半が経ち、3月の春休みには、泊3日の日程で、普通のキャンプを経験させた。

 このキャンプでは、全てを子供らにやらせ、一応、俺は引率として付き添って行ったが、特に口出しも手も貸さなかった。


 テントの設営も、竈作りもそれなり熟し、1泊目の夜はかなり低学年がビビって居た様だが、高学年の者がそれらを間に挟む様にして、無事就寝した様だった。

 翌朝は、朝から足り無い薪を拾ったり、米を研ぐ係、野草や茸を採る係等に別れて効率よく朝食を準備していた。

 そうそう、今回のキャンプでは、米と調味料は持たせているが、食器やお箸は現地調達させている。

 一応飯ごうとコッフェルは持って来ている物を使って居る。


 子供達曰く、今日は近所の川の魚を捕まえるつもりらしい。

 フフフ、なかなか逞しいじゃないか。

 その為、朝食で多めに炊いたご飯で塩むすびを作って、川で食べる予定とか。


 そのうち、川魚を捕まえる為の罠の作り方とかも教えたい所だな。




 最終日の3日目になると、最初はマゴマゴしていた子や引っ込み思案で受動的な子も、率先して自分の役割を熟そうとする意欲が窺える様になっていた。

 連日、顔や手ぐらいは洗っているのだが、2日間野外で過ごし、肌寒い季節のため、川での水浴びすらして居ないので、男の子も女の子も結構汚れている。

 しかし、顔つきは精悍になり、目には力強い光が灯っていた。

 朝食を済ませて、撤収作業に入り、テキパキと作業を進め、2時間程で荷物を纏め終わった。


「よし、みんなお疲れ様。

 いやぁ~、凄いじゃ無いか。

 なかなか随所に工夫が見られて、とても良かったぞ!」

 と褒めると嬉しそうに笑っていた。


 そして、地元へと戻って来て解散となった。


 そうそう、前に首相に説明していた、子供らのサバイバル訓練が、国会の審議を通り、正式に今年の4月から教育の一環として行われる事となった。

 サバイバルの講師として、現役の自衛官や退役した自衛官が行う事になったらしい。



 まあ、あれだな。『わんぱくでも良い。逞しく育って欲しい』と言う事だな。

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