第113話 初詣とトラブル初め

宴会場で美味しい夕食を食べに食べる。

ビュッフェスタイルの夕食なのだが、滅茶滅茶食べる俺達なので、宿泊料金に含まれている通常料金だと、確実に赤字になる。

なので、その旨を予め旅館側に伝え、割り増しで払う事にして、了承して貰った。

一応、追加料金は本日の具合を見て決めて貰う感じにした。


男性陣だけでなく、女性陣も食べるので、徐々に旅館のスタッフの顔色が悪くなっている。

「え? まだ食べるんですか? 正気ですか?」

と言う目をしている。


母上に一応聞いてみたら、

「あら、私、ちゃんと予約時には『みんな凄く沢山食べるわよ』って言っておいたから、大丈夫でしょ?」

と言ってたが、スタッフの顔色を見る限り、もしかして仕入れた材料が、足り無くなりそうなんじゃないだろうか?と疑っている。


タイミングを見て、宴会場のマネージャーに、そこら辺をズバッと聞いてみると、

「はぁ……実はここまでとは思ってもみなかったので、市場の閉まる正月休みの分も含め、一応人数の2倍の量で仕入れておいたのですが……」

と言葉を濁された。


そこで、急遽確実に足り無くなる材料を、俺の方で支給する事で打ち合わせをした。

材料を支給するとは言え、作る手間やスタッフの人件費は余分に掛かるので、そこら辺は追加料金を更に払う事でちゃんと予定している利益以上を確保して貰える様に調節する事になった。

これで、やっとスタッフに安堵の表情が浮かび、こちらも気兼ね無く食べられる状態になった。

尚、材料の心配が不要になり、更に通常使うよりも良い材料を提供された事で、厨房のシェフが喜び、普段はビュッフェに出さない様な料理まで、採算を考えなくて良くなったので、作り始めたらしい。

結局本来だと時間制限がある所を、特別に3時間にしてくれたらしく、最後に年越し蕎麦まで食べて、無事宴会が終了した。


部屋に帰る前に、マネージャーに聞いて見ると、概算で通常客の4倍食べているらしい。

「ハハハ。それじゃあ、通常料金だと、大赤字も良いところですね。

どうします?先に少し払っておきましょうか?」

と聞いた所、どうせ年末年始には仕入れは発生しないから、帰りで纏めてでも問題無いとの事だったので、


「じゃあ、年末年始お世話になるスタッフ皆さんへの心付け程度ですが、皆さんで別けて下さいね。」

と100万円封筒に入れて渡しておいた。


この『心付け』は、ちゃんとその夜、スタッフ全員に渡された様で、翌朝にはすれ違うスタッフ全員からお礼を言われたのであった。



 ◇◇◇◇



翌朝新年を迎え、宴会場でお雑煮付きの朝食を食べた。


「ねぇ、みんな初詣どうする?」

と言う話になり、マネージャーに近所の……と言っても船で本土に戻る必要があるのだが、神社を教えて貰った。


態々船を出して貰うのも気が引けたので、ゲートで本土側に戻り、神社へ初詣に向かう。

双葉や双葉の友達の女の子2名、聡君の妹の奈菜ちゃんとそのお友達の女の子2名は、振り袖姿に着飾り、さっちゃんがちょっと羨ましそうな顔で見て居る。


港の近所の神社の周辺には、出店も出ていて、賑わっている。

この港町にも若い子達は多いらしく、参道を歩く色とりどりの振り袖姿の女の子達が、正月気分を盛り上げてくれている。

まあ、専ら、うちの集団は食い気に走っているのだがな。


振り袖姿の女の子6名の周りに、厳つい如何にもなオジサンやゴリラ?と間違えられそうな外人まで混じっている異質な集団なので、さっきから、結構チラチラと視線が刺さっている。


敬護はお面と綿飴を買って貰って、くちの周りをベトベトにしながら、ご満悦である。


「おい、敬護、頼むから人様にぶつからないように歩いてくれよ?

振り袖とかに綿飴引っ付けないようにな!」

と注意すると、


「大丈夫だよ、お父さん。僕ももう大きくなったんだから。

心配性だなぁ。」

とこっちを見てニカッと笑っているが、言った傍から着物のお姉さんとニアミスしていた。


これはヤバいと、早速抱き上げて、確保した。



そして、神社の鳥居を潜り、手を清めて境内へと進んで行き、昨年のお礼を神様にして、今年の無事をお願いしておいた。


おみくじを引いた後、また参道の出店をみていると、銀杏を煎った物が売っていたので、購入した。

グリードは、肉串を5本程買って、エバと一緒に食べている。


「おい、グリード、その肉串美味そうだな。」

と声を掛けると、ニカッと笑って、買った場所を食い終わった串で指刺していた。


「さっちゃん、肉串食べない?」

と聞くと、


「うーん、食べたいけど、皐月を抱っこしてるから、難しいかな?」


「そうか、じゃあ、俺が横から食べさせてあげるよ。」

と言って、早速敬護とピートを連れて、列に並んだ。


順番になったので、30本を注文すると、


「え? そんなに食うのか!?」

と軽く驚かれてしまった。



焼き終わった肉串を次々とアイテムボックスに収納して行くと更に驚いていたが、説明が面倒なので華麗にスルーして、みんなと合流した。

兄上や聡君も同様に焼きそばやお好み焼きやたこ焼きを大量に仕入れて来ていて、参道の脇の空き地に椅子とテーブルを出して、全員で食べながら休憩したが、振り袖姿の6名は汚しそうだからと気にしていた。


「あ、でも肉汁が垂れても、クリーンで綺麗に出来るぞ?」

と言うと、


「あぁ~、そう言えばそうだわね。」

と今まで我慢していたのか、急に元気に食べていた。(主に双葉と奈菜ちゃんだけだけど)


更に土産物屋を1時間程散策してから宿に戻ったのだった。




宿に戻り、お茶を飲みながら一息ついていたら、スマホに着信。

番号をみると、どうやら首相かららしい。


「わぁ~……、何か凄い嫌な予感がする電話だ。

出るの止めようかな?」

と思わずボヤいていると、


「ダメよ? 元旦に掛かって来るなんて、余程の事じゃないの?

ちゃんと出てあげなよ。」

とさっちゃんに諭されて、嫌々電話に出て見た。


「どうも、明けましておめでとうございます。佐々木です。」


「どうも。佐々木さん、昨年中は年末ギリギリまでお世話になりまして。

ありがとうございました。」

と首相。


「なんか、もの凄く嫌な予感がしているのですが、元旦からお電話を頂くと言う事は、何かトラブルでもあったんですか?」

と単刀直入に聞いてみると、


「ええ、実はちょっと困った事態になっておりまして。

エルフの女王様と王女様らが、『エルフの英雄を呼べ!』とか、『佐々木殿の所へ連れて行け!』とか、ごねていましてね。

全然話が先に進まんのですよ。」

と。


知らんがな……。


「えーー? それは、ハッキリ言って俺らには、関係無い話ですよね。

それに、俺は既に結婚して可愛い奥さんと子供も居ますので、間に合ってますし。」

と言うと、それを横で聞いたさっちゃんが、嬉しそうに身を捩っている。


「それはそうなんですが……」


「それに、それ、絶対に俺達が行くと面倒な事になるのは確実なパターンですよ?

新年早々、そう言う手合いの面倒な事には、巻き込まれたくないです。

そんなのに割く時間があるのなら、俺は迷わず愛する妻と子に時間を割きたいですよ。

と言う事で、何とかそちらで上手くやって下さい。

では、今年もよろしくお願い致しますね。」

と言って、一方的に話しを終えて、電話を切ると、最後の台詞で、更に頬を染めて嬉し気にクネクネとしている、さっちゃんが居た。


「旦那様、好き! 大好きです。」

と子供が見てるのに抱きついて来て、胸に顔を埋めて来た。


フフフ、可愛い奴め。


まあ、エロフ……いやエルフの件は、最悪清兄ぃに投げてしまおう。





気分を変えるのも兼ねて、敬護とピートを連れて、凧揚げした。


「そう言えば、昔(前世で)、よく凧を自分で作ってどんな形が一番上に上がりやすいか、色々研究してたなぁ。」

と呟くと、


「へー! あつし兄ちゃん、凧も作れるの? 凄いね!」

と目を輝かせるピート。


「そうか、ピートは時代が時代だから、あまり凧とか知らないのか。

ピートに敬護、凧は色んな形があるんだけど、形によって、飛び方とか色々違うんだよ。

日本の一番オーソドックスな凧と言えば、やっぱり奴凧かな。」

と奴凧をスマホで検索して、見せると、


「おーー!サムライの凧なのか!」

とピートが驚いていた。


ちなみに、今飛ばしているのは、ゲイラカイトと言う三角形の海外製の凧である。

この凧の良い所は、奴凧とかよりも風を掴む効率が良い所かな。

この凧は、俺が小学生の頃、父上から買って貰った物なんだが、アイテムボックスの中に仕舞っておいたので、5回ぐらい飛ばしただけの綺麗な品なのである。


「じゃあ、自宅に帰ったら、自分たちで凧でも作ってみるか!」

と俺が提案すると、ピートも敬護も喜んでいた。


風のある日の凧揚げは、揚げるのは楽なのだが、凧糸を巻き取って降ろすまでが、実に大変なのである。

ピートと敬護が交代交代で糸を巻き取っているが、糸を巻き取るので疲れ果ててらっしゃる。

凧揚げのあるあるだな。



やっと凧を降ろし、旅館に戻って来たが、身体が冷え切ってしまったてピートも敬護もホッペと鼻の頭が赤くなっているので、温泉に入る事にした。

身体と頭を洗ってやって、湯船に入る時、身体が冷えている分、余計に熱く感じるらしく、キャーキャーを2人で騒いでいた。

そして、徐々に身体な慣れて来たのか、「「うぉー!」」とか声を上げながら2人仲良く並んで目を閉じて堪能していた。

俺も洗い終わって湯船につま先から入って行くと「ぁぁー堪らん!」と声を漏らしつつ、2人の横に並んで目を閉じたのだった。

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