第112話 佐々木様御一行

 そう、今日は大晦日。

 朝から全員で移動し、昼には目的地である浦島温泉へとやって来た。

 島1つが温泉という、パラダイスである。


 ご時世がご時世だったので、比較的スンナリと予約出来たらしい。

 旅館側も思わぬ団体様と言う事で、大喜びしてくれた。


 島へ渡る船に乗り、旅館のある島に上陸すると、出迎えのマイクロバスで旅館の入り口まで運んでくれた。


「「「「「いらっしゃません。」」」」」

 と並んだスタッフ達から丁寧な歓迎を受けつつ、チェックインの手続きを取って、各部屋へと案内された。


「フフフ、やっぱり家族のみんなで旅行って楽しいわね。

 ねぇ~敬護、皐月。」

 とさっちゃんもご機嫌である。


「そうだな。今年も年末ギリギリまでバタバタしたから、年末年始ぐらいはユックリしたいよな。

 すまないな、度々長期間家を空けて。さっちゃんだけに子供の面倒を見させてしまって。」

 と俺が1年の締めくくりも兼ねて謝ると、


「ウフフ。でも私は幸せよ?

 そりゃあ、旦那様が居ないと凄く寝てても寂しいし、子供達もシュンとしちゃうけど、でもこうしてちゃんといつも気に掛けてくれるし、必ず帰って来てくれるからね。

 エヘヘ。」

 と照れながら微笑んでいた。




 やっとユグドラシル大陸から戻って来て、報告も済ませ、年末の大掃除となったのだが、そこはほら、魔法のクリーン一発で家中をキッチリとピカピカにしてクリアした。

 大掃除を数秒で終わらせ、お茶を飲んでいると、実家に呼び出され、ついでにクリーンを掛けさせられた。

 やっと再度淹れ立てのコーヒーを飲もうとしていると、兄上から会社に呼ばれ、会社の大掃除を手伝う羽目になってしまった。


 理不尽だな。何故か便利屋扱いされている気がするんだが……。


「いや、ほら、ここって広いからさ、何人かで手分けしないと、魔力保たないし。」

 との事だった。

 まあ、結局はちょっとヤケ気味になって、マジックマイスターの本社全体を対象に、一気にクリーンを掛けてやったんだけど、流石に全魔力の半分程を持って行かれて、ソファーに座り込んでしまった。


「相変わらず、魔力の化け物ですな。ハハハハ」

 と見知った工作部のスタッフ達からお礼を言いつつも、酷い言われ様をされてしまった。


 一方、俺の仕業と言う事を知らない他の部署のスタッフ達は、

「あ、何か一気に綺麗になったな。ラッキー!」

「はぁ~良かった。雑巾掛けとかって、地味に手が荒れるのよねぇ。」

「しかし、これ、フロア全体だけでもかなりの広さなんだけど、一体誰がクリーンを掛けてくれたんだろう?」

「これで、このまま仕事納めに突入だな!」

 とかワイワイと騒いでいた。


 やっと急激な魔力放出の余波が落ち着いてきた頃、兄上の容赦無いオーダーが入った。


「あつし、これ終わったら、早めに、うちの家もお願いな!」と。


 いや、まあ秘書子改め、お義姉さんも赤ちゃん産まれてまだ小さいから、大掃除大変だし、それは良いんだが……まったく、人使いが荒いよな。



 ゲートでトンボ返りして、面倒なので、兄上の自宅と、ゲストハウスの方と、工房までを、一気にクリーンを掛けて終わらせたのだった。


 そして、自宅のリビングのソファーに沈み込み、今度こそやっとホッとしていると、実家からの内線が鳴った。

「お義母さんから、内線よ?」

 とさっちゃんに呼ばれ、嫌な予感をひしひしと感じつつ子機で出ると、

「大掃除終わったわよね? そう、じゃあちょっと悪いけど、一休みしたら、和歌山に飛んで、ゲートのポイントをチェックして来てね。

 ほら、明日だと当日だから、何かとバタバタしちゃうでしょ?」

 と……。


 本当に、容赦無いな……。


 結局、1時間程休憩を入れて、午後3時に、伊豆経由で和歌山県まで上空を飛び、浦島温泉の入り口となる港まで、年末の寒空を1人飛んだのだった。

 午後4時半に、ゲートで戻った頃には、マジでクタクタになってしまった。



 とまあ、そんな12月30日を経て、現在旅館の広い和室で、家族4人でマッタリとしている訳である。


「はぁ~、やっぱり旅館って何かテンション上がるわねぇ。

 一休みしたら、温泉に入りに行きたいわね。」

 とさっちゃん。


「そうだね。あ!皐月はまだ大浴場は無理だね。どうする?

 先に入って来るなら、皐月を見ておくよ?」

 と俺が言うと、さっちゃんが隣のご両親に内線を入れて、

「あ、パパ? ちょっと悪いんだけど、1時間程、皐月見ててくれない?」

 とお義父さんにお願いしていた。


「えーー!? それは幾ら何でも、悪いんじゃないか?」


「え? いや、凄く喜んでたけど?」


「え?そうなの?」


「ええ、孫ラブ全開だもん。全然オッケーよ?」

 と。


 そして、1分もせずに、部屋のドアがノックされ、お義父さんとお義母さんが、嬉し気にイソイソとやってきた。

「おー、皐月や、少しの間、爺ちゃんと婆ちゃんとお留守番しようねぇ~♪」

 と皐月に話掛けている。


「良いんですか? もしあれだったら、先にお風呂行って来られたらどうですか?

 俺達後でも良いので。」

 と聞いてみたが、


「あつし君、そんな寂しい事言うなよ。せっかくだから、ユックリ入って来なさい。

 ねぇ~皐月~♪」


 お義母さんもその傍らで、ニコニコしている。

 良いのか? とさっちゃんに目線で聞くと、ニコッと笑って、「ね?言ったでしょ?」と言っていた。

 まあ、本人達が良いなら、良いか。


「しかし、あつし君、いつも俺達まで呼んでくれて、ありがとうな。

 まさか、こんなご時世で、こうも楽しい旅行に行けるとは思ってもみなかったよ。」

「ホント、そうよねぇ~。娘も幸せそうだし、孫も可愛いし、その上、こんな手ぶらの旅行まで出来るなんて、思ってもみなかったわ。

 孫にも頻繁に逢えるし、本当に最高の老後だわぁ~。」

 と。


「いやいや、まだ老後ってお歳ではないですよね?」

 と笑うと、


「うむ。確かに言われてみれば、まだ40代だし、老後ではないか。」

 と笑っていた。



 と言う事で、ピートも誘って、俺と敬護とピートの3人で洞窟風呂へとやって来た。

「あつし兄ちゃん、これ凄いね! 完全に洞窟だよ?」

 と興奮するピート。


 逆に敬護は洞窟が若干怖いらしく、俺の足に絡みついている。

 まだ昼間だし、外の景色も見えるから、そんなに怖い感じはしないと思うんだがなぁ。


 2人の身体も頭も洗ってやり、自分の身体を洗う頃には、敬護も慣れたらしく、ピートと仲良く湯船に突入していた。

 俺も素早く洗い終わり、湯船に入る。


「あぁ~。堪らん。」



 まったりと、湯に浸かっていると、グリードと父上、叔父上、清兄ぃの騒々しいグループが突入して来た。


「お! お前達も最初にここを攻めたのか。」


「ははは、みんな考える事は一緒かな? 夕暮れ時には、展望風呂に行こうかと考えてるんだ。」

 と答えると、どうやら全員同じらしい。


 グリードや叔父上、父上は、もっぱら清兄ぃのユグドラシル大陸の話で盛り上がっていた。

「本物のメイドは素晴らしかったぞ!

 エルフの女王が、滅茶滅茶綺麗でのぉ~。

 あと、サキュバスのメイドも素晴らしいぞい!

 あ、あと忘れてはならんのは、ケモ耳の女性じゃ。あれも良い物を持っておる。」

 と手で色々と再現しつつ(何を)、力説していた。


「あー、日本では法律で重婚は犯罪だからね?」

 と釘を刺して置いたけど、ニマニマしてるから、あれは全く聞いてねぇ~な。



 そして、子供の教育上、大変よろしくないので、ダメな大人達を残し、先に風呂から上がったのであった。


 まあ、そう言う俺も前世のカサンドラスでは、割と適当にやってたんだけど、家族が出来た今は、良き夫であり、良き父でありたいと思っている。

 何よりも、他の女性に現を抜かす暇があるんだったら、その分をさっちゃんや子供達に回したいと思う訳だ。

 さっちゃんは兎も角、子供達が、俺の事を「お父さん、お父さん!!」と構ってくれるのは、せいぜい良くて13~15歳ぐらいまでだろうしな。

 あ、でも皐月が大きくなって、「お父さんと同じ洗濯機で、私の服を洗わないで!」なんて言われたら、俺、泣いちゃうよな。


 部屋に戻り、皐月と嬉し気に遊んでいるお義父さんを見てて、ふと聞いてみた。


「お義父さん、やっぱり女の子って、大きくなったら、俗世間で聞く様に、『お父さんと同じ洗濯機で洗わないで!』とか、『臭いからこっちに来ないで!』とか言われちゃうんでしょうか?

 さっちゃんはどうでしたか?」


 すると、お義父さんは、凄く悲し気な顔をして、何か言いたそうに口を開きかけたが、何も教えてくれなかった。

 が、代わりにお義母さんが、大笑いしながら教えてくれた。


「あの子はそう言うのは無かったわねぇ。と言うより、幼稚園の頃から、あつし君、あつし君って五月蠅くってねぇ~。

 もう、他は眼中に無いって感じで、お父さんそっちのけだったわね。」と。


 マジか。やるなさっちゃん!!


「あぁ~、それは何か色々すみませんでしたね。」

 と一応謝っておいたのだった。

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