第88話 起死回生の切り札
伊豆高原ダンジョンを終えて、数日ノンビリとしていたのだが、首相から相談のご連絡が来てしまった。
原油にかんする問題は、この先10年ぐらいは何とかなる量となったらしいのだが、鉄鉱石やその他の鉱物は輸入の目処すら立っていない。
現存の資源のリサイクルで賄える物はまだ良いが、レアメタルや、元々あまり備蓄が無かった物等が近い将来ヤバいとの事だった。
「色々とこちらでも策を練っているのですが、何か良いアイディアは在りませんか?」
と俺に振られたのだが。
「レアメタルは詳しくは無いですが、それぞれの産地に行けば採掘とか採取は可能なんでしょうか?」
と聞くと、
「うむ……やはりそれしか無いですかねぇ。いや、もしやダンジョンとかで出て来たりしないかとも考えたんですが。
そうですか。やはり元の産出国へ出向くしか無いでしょうかねぇ。」
と沈んだ声になって来ていた。
原油に関してもだが、旧他国の領土となると、まず輸送する前に人力とかで採掘する必要がある。レアメタルに関しては、主に旧★国となる為、現在どの様な状況かも判らない訳で。
しかも、レアと言う存在だけあって、莫大な量を採取した中のほんの一握りしか含まれない成分を抽出する必要があるので、設備や人材の確保、それにそれらの安全性の確保と、課題が大過ぎると言う事であった。
まあ、確かに人口が多く、人海戦術でやっていた作業を、現在の日本から、出向して作業するにはかなり無理があるのは納得である。
更に、鉄鉱石をはじめ、モリブデンやクローム等、様々な金属製品を作る上で重要な素材を人力で採掘するのは、かなり厳しい。
「ふむ……。人力に頼らない方法なら、多少は改善の余地ありますかね?
例えば、ゴーレムを作って、採掘作業をさせるとか?」
と俺が提案してみると、首相が大乗り気になっていた。
「まあ、ゴーレムって基本バカなんで、あまり複雑な作業はさせられないんですよ。
だから、やるとしたら、現在のロボット工学と魔動のゴーレムの融合した、ハイブリッド・ゴーレムの開発が必要ですね。」
と課題を挙げると、早速大学のロボット工学の研究室や、旧財閥系のロボット開発部門に居た選りすぐりのメンバーが集められ、マジック・マイスターとの合弁会社……『株式会社ハイブリッド・ゴーレム技研』が設立されたのだった。
ゴーレムの本体は、耐久性を備えたチタンやミスリルを用いた最新の物とし、主に俺が製作し、俺とその頭脳集団とが現代のロボット制御やAIを駆使した人工知能を作成し、その頭脳とボディーのインターフェースを作る事になった。
結果、これまでは、自立型ロボットの最大のネックとなっていた、エネルギー問題は、魔石を使った魔動発電機と魔動駆動によって解決され、稼働時間の問題や、稼働環境、メンテナンス性、連続運用時間の問題から、完全に切り離される事になり、試作1号機は3週間で完成したのだった。
「いやぁ~、こんなに早く1号機が仕上がるとは思いませんでした。」
とロボット工学の頭脳集団が満面の笑みで、1号機が元気に縄跳びしたり、ツルハシで岩を砕いたり、砕いた石を分類したりしているのを眺めている。
パワーも強力で、石でも握り潰す程の握力や200kgぐらいの物なら持ち上げる事も可能である。まあ、但し大きいサイズだとバランス的に無理だが、持ち易い物なら可能である。
更に、複数台での魔動波リンクを使い、電波状況の悪い所でも、魔動波による相互情報共有が可能で、1人……いや1機?では無理な作業も、連携を取って作業が可能。
その後、試作機のデータを取って、各部の修正を行いつつ、更に10機増やし、連携のテストを繰り返し行った。
そして、1ヵ月半程で、量産に取り掛かる事となった。
製造ラインを作成し、まずは日産50機で製造を開始する。
但し、量産品は、原料材料のチタンは既に枯渇気味なので、ダンジョンから採れるミスリルとアダマンタイト、カーボンファイバー等で作る事になったのだった。
更に、レアメタルの抽出に関しては、俺が必要成分のみを抽出する魔道具を開発し、必要な成分のみを持ち帰れる様にした。
運搬の自動化の為に、日本航空機工業とコラボして、運搬ドローンの開発も行った。
このドローンがかなり優秀で、マジックバッグを格納し、GPSで現在位置を株式会社ハイブリッド・ゴーレム技研で開発した自立型の頭脳を使って、定期的に行き来する様にした。
と、ここまでで早2ヵ月半を要したが、内容を考えれば、本来の1/20ぐらいの期間で準備が出来たのではないだろうか。
◇◇◇◇
「えーーー!? 佐々木さん、今回はご一緒じゃないんですか?」
設置部隊の第一陣となる、オスプレーの門出を見送りに空港へと出向いた先で、顔見知りの自衛官パイロットの第一声がこれであった。
「ああ、お久しぶりですね。ええ。今回はそんな大した事でも無いと思うので、俺は随行しないんですよ。」
と言うと、実に分かり易く「マジですかぁ……」と項垂れていた。
その代わり、今回は国からの指名依頼を受け、前田達4人が随行している。
これから連日、各国の該当地域へと、10機でピストン輸送を繰り返す事になっている。
「まあ、何か不測の事態が起きれば、駆けつけますが、奴らも十分過ぎるぐらい強いので、全く心配には及ばないと思いますよ。」
と俺がフォローしたのだが、目的は『強さ』ではなく、『飯』なので、立ち直ってはくれなかった。
「あ、そうそう、長丁場になるでしょうから、弁当の差し入れを前田達に渡してありますんで、後で食べて下さいね!」
と俺が言うと、いきなり目に輝きが戻ったのだった。
そして、飛び立つオスプレーに手を振りつつ、自宅に戻って可愛い敬護とさっちゃんとマッタリ過ごすのであった。
◇◇◇◇
さて、ここまで順調に資源の回収計画は進んでいるが、これ以外でも大きな問題は多々ある。
電子部品の枯渇問題である。
特にCPUの枯渇はかなり深刻で、早々に代替え品の作成が必要となっている。
まあ、これに関しては、俺は役に立たないので、その道の専門家達に期待するしかないのだがな。
政府主導で、旧財閥系やその他の研究機関でその道に頭脳集団を集め、株式会社CPUジャパンと言う会社を設立したらしい。
ちゃっかりしている兄上は、これにも1枚噛んでいて出資しているらしい。
流石である。
この会社では、CPUやその他の電子素子の開発と製造を行うらしい。
CPUの設計だが、そのノウハウを0から作るのでは、枯渇に間に合わないとの事で、InXelやAXDといった既存企業の情報を収集しに行くと言っていた。
まあ、本当は輸入出来れば一番楽なんだけど、既に政府すら存在しない状況では、無理と言うものだ。
うーん、しかし上手く行くのだろうか? そもそもだが、そんな企業の極秘情報を電源消失で止まっているサーバーから収集出来るのかが、一番の課題である。
是非とも、選抜チームと頭脳集団の活躍に期待したい。
弾劾の日以降、スマホもパソコンもだが、1台の新製品も発売されていない。
特にスマホに関しては、致命的で、需要があっても、部品が揃わない状況である。
バッテリーに関しては、かなり供給が偏っており、補修部品の欠品で使えなくなるスマホが多発している状況であった。
バッテリーを作る為にも、結局はレアメタルが必要なのだが、それの供給源が無かった事にも起因している。
兎に角、日本は文明を維持する為に、必死に動いていた。
文明の利器を失う事は、これからの世界規模の奪還戦において、マイナス要因でしかないからである。
一つ希望の光があるとしたら、台湾である。
古くから日本に対して非常に友好的な国であり、更に多くの電子機器やコンピューターを作る工場のあった国である。
台湾のコミュニティだが、日本からの支援もあり、確実にその生存域を拡大し、更に人口も増えつつあった。
おそらく、一番復興に近いのではないかと思っている。
え?○○○国や△国はどうなったって? 知らんがな。 自滅した後は、俺は一切足を踏み入れていない。
特に何かがある訳でもないし、救った所で、また逆恨みされるだけ。拘わるだけ損だ。
現在の日本は、奴ら縁の不法入国者の子孫共が強制送還された事で、実に平和である。
政治に口出しして、足を引っ張る帰化議員も居なくなった事で、政府の運営が実にスムーズとなった。
更に、余計な奴らへの支援が不要となり、本来保護されるべき日本国民に対して、必要な手を差し伸べる事が出来ている。
逆に、どれだけ奴らが日本に食い込み、邪魔をしていたのかが、今の日本を見ていると、凄く分かり易い。
同じ日本人なのに、『少数民族』とか言って変に権利と金をせびっていた制度も一切無くなり、他の日本人と同様の『平等』な扱いになった。
言い掛かりを国連の人権委員会に訴えて、また日本政府に圧力を掛けようにも、訴えるステージは存在しない。正に『ざまぁ!』である。
一時期は落ち込んだ日本の人口だが、少子化と悩んでいたのが不思議な程に、出生率が後転している。
成人年齢が18歳に引き下げられ、若くして結婚する夫婦が増え、真剣に生きる事を考える若い世代が増えた事も要因だろう。
勿論、『ゆとり』なんて無いから、現在の教育制度は、ガッツリと詰め込み、叱り、正しく導く方向にシフトしている。
◇◇◇◇
更に3ヵ月が過ぎ、資源回収ドローンが日本へと原料を運び込んで来る事で、原料の枯渇で廃業した企業や会社が徐々に名前を変えて復興したりし始めている。
もっとも、輸出が無いので、市場は日本国内だけだが、それでもこの流れは悪く無い。
新型のスマホやPCが発売されるのも近いかも知れない。
俺は、俺で、バッテリーの代わりとなる、極薄の魔動電源ユニットを開発し、製造ラインも稼働し始めた。
マジック・マイスターへ、かなりの引き合いが入っているらしい。
これは、バッテリーより省スペースで長持ちするのだが、『充電』ではなく、魔力を電気エネルギーに変える物なので、乾電池の様に交換式となる。
もっとも、トナーの様な魔石の粉を使っているので、補充する事で、再利用が可能なのである。
これを使えば、約3ヵ月間、連続使用可能なスマホも作れる。
と言う事で、製品1号は、どうやらスマホになるらしい。
まあ、スマホにしろPCにしろ、OSは古いままなのだけどね。
流石にそこまで手を広げる余力は、残念ながら今の日本には無いらしい。
PCのOSにしても、インストール後の認証に関しては、裏技による認証スキップで逃れているのが現状である。
やはり、早く他の国にも復活して貰いたい物だが、また過去の様に腐敗しきった国際組織にならない様に、世界最古の国である日本が上手くリードして行かねばならないだろう。
兎に角、文明の火を絶やさぬ様に、唯一火を灯し続けている日本が踏ん張らねばならない。
そうそう、採掘用ハイブリッド・ゴーレムに持たせた自衛及び保安機能を更に進化させ、対魔物戦闘特化したバージョンの生産も始まった。
これらには、武器を持たせ、小銃とショートソードによる攻撃が可能となっている。
対魔物レーダーを装備しており、魔物を発見すると、自動的に殲滅行動を取る様になっている。
武器を持たせ、小銃とショートソードによる攻撃が可能となっている。
そして、このバージョンの一番の特徴は、俺が苦心して追加した、ブースト機能である。
人間で言う所の、身体強化と身体加速に相当するこの機能の搭載で、最大30分冒険者のAランク+の戦闘能力を発揮するのだ。
この対魔物戦闘特化バージョンの採用によって、超ブラックな勤務体系を続けて来て居た自衛官達も、ある程度の休暇が取れる程まで改善された。
ある程度部品に余力が出来たら、海外の各コミュニティに供与する事も視野にいれているらしい。
ハイブリッド・ゴーレム製造上の問題であったCPUの生産だが、試作品のテストは良好らしいので、その日は近いと踏んでいる。
これが人類の反撃の切り札になると嬉しいのだがな。
ピートや敬護が成人する頃までには、ある程度の世界状況を作り出して置きたい物だ。
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