第87話 伊豆高原ダンジョン支部の受難

ダンジョン組は、早朝から準備をして、朝食を食べると、ダンジョンへと向かう。

何と、宿のマイクロバスで送って頂けるとの事。

今回は、場所を事前にはリサーチしてなかったので、助かる。


俺達ダンジョン組は、宿のスタッフに見送られつつ、バスに乗って出発したのだった。





事前に通告も何もしていなかったので、突然ドヤドヤと俺達が入って来ると、早朝からダレて居たギルドスタッフがギョッとして驚いていた。

眠そうに頬杖をついていた受付嬢が、もの凄く焦って涎を拭いていたのは、ご愛敬。


「おはようございます。今日から暫く伊豆高原ダンジョンにお邪魔しますんで。」

とギルドカードを見せて、挨拶すると、支部長が飛んで来た。


そして、俺達が何者かを確認すると、嬉しそうに

「そうでしたか。いや、お噂はかねがね聞いております。

どうぞ宜しくお願い致します。」

と笑顔で送り出してくれた。

ふふふ、いつまでその笑顔で居られるか……若干心苦しく感じつつダンジョンの自動改札を守る自衛官に挨拶しつつ、ダンジョン内部に入っていった。



今回のダンジョン組のメンバーであるが、俺、兄上、秘書子ちゃん(義姉上か)、聡君、父上、叔父上、清兄ぃ、前田達4名、グリードと言う、過剰な戦力。

それが故に、まるでタイムアタックかの如くに、小走りでサクサクと進んで行く。

俺はと言うと、ただのマッピング要員と成り果てていて、実に退屈している状態。

そんな感じで2時間程で第1階層を抜け、第2階層に突入する。

第2階層も洞窟エリアで、全ての分岐を廻って行くのだが、寧ろ第1階層の時よりも進むペースは上がっており、これまた2時間程で第2階層を廻りきった。

うん、全くここまで俺は戦っても居ないね。マジでマッピングとアイテム回収しかしていない。


セーフエリアで昼食を取ると、すぐに第3階層のジャングルエリアをくまなく荒らし始める。

第3階層に入ってから、俺は単独で上空から、マッピングだけ先に完了させた。

まあ、ジャングルエリア等の空間では、これが一番手っ取り早いからねぇ。

予め、何処に何があるか判れば、変な寄り道も不要だし、宝箱の取り忘れも無いからね。


更に、ジャングルエリアで美味しいのは、フルーツや薬草、茸などの採取である。

これもちゃんとある程度マッピング出来ているので、採取と狩りとの班に別けて、乱獲する事にした。

兎に角、ダンジョン産の果物は、滅茶滅茶美味いから、さっちゃんのお土産に張り切って採取しなければならない。

一般的に、ダンジョン産のフルーツ類や薬草、茸類だが、階層が深ければ深い程、美味しかったり、効能が大きかったりする。

ダンジョンから湧き出る水も然りで、元々魔素を多く含んでいるダンジョンの水だが、深ければ深い程、その含有する魔素量が多いのだ。

錬金術で使用する水(ポーションやその他の精製時にも利用)は、魔素を含んだダンジョンの水が基本性能が高いとされている。

普通の水に自力で魔素を込める事も、魔道具を使って魔素を含ませる事も可能ではあるが、完成品の性能差が大きく現れる。

まあ、そう言う意味では、護国寺ダンジョンの68階層のジャングルエリアは、非常に美味しい場所であった。

水に関してで言えば、84階層の湧き水が素晴らしかったな。


夕方近くまで、第3階層で各々採取や狩りを行い、大量のお土産と共にダンジョンを後にしたのだった。

ドヤドヤと自衛官の守る改札を抜け、隣のギルドへと入って行くと、支部長以下ギルドスタッフが、揉み手状態で飛んで来た。


「おお、皆様、ご無事で何よりです。」


「ども。では、成果の報告と買取の方、お願いしますね。」


そして、いつもの様に、箱を用意して貰い、ドンドンとドロップ品を投げ入れていく。

最初こそは、ニコニコ顔で、「ほー!」とか、「なんと、これは!」とか合いの手を入れていた支部長やスタッフ達も、7箱目を過ぎる頃には、顔色に変化が出て来た。

段々無口になり、12箱を超える辺りで、スタッフは若干涙目になって来て、18箱辺りで死んだ目に変わって逝った。

ちょっと可哀想になったが、更にここから、第3階層で採取した、果物や薬草、茸を全種類半分ずつ出して行くと、「ハハハハ」と渇いた笑いをする者も現れた。

次に、宝箱からでた魔道具や、ポーション類を種類別に箱に詰めて行く。


「と、まあ、こんな所ですかね。あ、後は第3階層までのマッピングデータがこちらです。」

と締め括ると、


「「「「「………」」」」」

と無言になるギルドの面々。


やっと復活した支部長が、顔を盛大に引き攣らせながら、


「あのぉ~……大変恐縮なのですが、これ査定だけでもかなりの時間を要してしまう量でして……、お時間を頂きたいのですが。」

としどろもどろに言って来た。


「ああ、そこら辺は、判ってますよ。明日もこちらに潜りますので、明日の夕方までに上がっていれば大丈夫ですよ。」

と言うと、


「あ……明日の夕方……ですね。了解致しました。」

と悲痛そうな顔で頷いていた。


そんな様子を見て、なっちゃんと愛子ちゃんは、クックックと声を出さずに、腹を抱えていた。

ギルドを出て、ゲートで宿まで戻ると、すぐに宿の女将さんや、スタッフ達がお出迎えしてくれた。


「お帰りなさい。皆様ご無事そうで、何よりです。」と。


俺は、女将さんに言って、箱を数箱用意して貰い、食材となる魔物の肉や、果物や、茸を出して


「また明日もお裾分け出来ると思うので、スタッフ皆さんで別けて下さいね。」

と告げると、全員に大喜びされた。



そして、全員で風呂に入り、湯船に浸かって、ノンビリと一日の成果を話していた。


「しかし、このメンツだと、マジで過剰戦力だから、進み具合も半端無いね。」

と俺が言うと、


「確かになぁ。 これなら、ステージにもよるけど、明日には第6階層ぐらいは行けるんじゃないかの。」

と清兄ぃも同意する。


「ハハハ、やっぱ佐々木達と一緒だと、滅茶滅茶なペースだな。」

と前田と凛太郎も笑ってる。


「今回の予定遠征期間で第10階層ぐらいまで軽く行けそうだね。」

と兄上も笑っていた。



「良いなぁ~。僕も早く兄ちゃん達とダンジョン行きたいな~。」

とピートが流暢な日本語で呟いていた。


「ハハハ、ピートは焦らなくても、ちゃんと時が来たら、一緒に連れて行くから、今は日々の鍛錬頑張れよ!」

と頭を撫でてやると、「うん!」とヤル気を漲らせていた。



風呂から上がって、1時間程すると、夕食の時間となり、宴会場へ集まると、昨日に増して豪勢な夕食が所狭しととテーブルに並んでいた。

全員で、「頂きます」をして、宴が始まる。

早速差し入れした食材も使ってくれた様で、昨日から格段に食材の味が上がっていた。

結局、やはり仲居さんもドン引きする程に食べ尽くし、最後の〆のデザートには、俺が採取したフルーツのシャーベットが出て来て、大好評だった。

女将さん曰く、

「これらの食材って、ダンジョンから獲れるですよね? 本当に味見してみましたが、素晴らしい物でした。

これが安定供給されるのであれば、これらの食材を特色にした集客も可能なんじゃないかと、板場とも話していたんですよ。

特に、このフルーツは、凄いですね!」と。


うん、是非とも頑張って盛り返して欲しいもんだな。

まあ、今までの他のダンジョンでの流れを見れば、おそらくここ伊豆高原ダンジョンも冒険者が殺到するだろうから、それで食材は潤沢に流れて来るんじゃないかな。

地元の冒険者には街の復活の為にも、頑張って欲しい。



 ◇◇◇◇



翌日、俺達は、第4階層、第5階層、第6階層を制覇し、その翌日には第7階層、第8階層を制覇した。

冒険者ギルドは、連日の様に持ち込まれる買取品の査定に追われ、日々窶れて行くスタッフ達の姿があった。

そこには、初日に見せた様な、媚びる様な大歓迎振りは無く、死んだ様な目で引き攣った作り笑顔だった。

ふふふ、まだまだ彼ら彼女らの受難は続くんだけどね。


当初の予定では5~6泊ぐらいの予定だったので、その間は潜り続けるんだよね。


そして、4日目、第10階層までを制覇し、10階層のボスも瞬殺で終えた。

余りにも時間が余ってしまったので、そのまま第11階層に入り、夕方までに第11階層も制覇し終えたのだった。


更に5日目には、第13階層までを終えた。


「なあ、みんな、どうする? キリが悪いから、もう1泊増やして第15階層まで行っちゃう?」

と提案してみると、全員一致で同意し、ギルドスタッフの受難延長が決定したのだった。


更にその頃になると、ダンジョン食材を用いた宿泊プランが花を開き始め、景気の悪かった宿やホテルにも宿泊の予約が入り始めた。

俺の作ったダンジョン検索アプリの方でも、確実に伊豆高原ダンジョンの検索数が増えており、冒険者からの宿泊予約が確実に伸び始めているらしい。


宿泊を1日延長する事を打診すると、女将さんは大喜びで、問題無いと、寧ろこのまま居続けて欲しいぐらいの勢いではあった。


そして、6日目には、第15階層のボスも倒し、午後一でダンジョンからギルドへと戻り、買取の査定の品々を渡して、今回の遠征の終了を告げたのだった。

すると、死んだ様な目のスタッフ達の目に、生気が戻って来た。

後ろの方では、「「やったーー!」」と泣きながら抱き合っている女性スタッフ達まで居た。

確かに自覚は有るが、なんか、失敬だよな……。


これまでの収益を全員の政府銀行の口座へ均等割で振り込んで貰う様にとお願いし、ギルドを後にした。

最後にはなったが、改札を守る自衛官の方々に、お礼とご挨拶をして、上級ポーションをお礼代わりに手渡して、伊豆高原ダンジョン終えたのだった。


最後の夜の晩餐は、更に豪華で、仲居さんや板さんも代わる代わるお礼や挨拶に来たりと、色々と凄かった。

最後には街の助役?だか商店街の長だかまで来て、お礼を言われた。



そうそう、今回の遠征で得た一人当たりの配当金であるが、税引き後で4382万円(端数切り捨て)となった。

いやぁ~、本当に冒険者って辞められないよね。


翌朝、宿のスタッフ総出でお見送りされ、ゲートで帰って来たが、その後、大笑いしたのは、伊豆高原ダンジョンのギルドの話。

俺達が帰った翌々日辺りから、ポツポツと冒険者がダンジョンに潜り始め、結局連日フル稼働になってしまったらしい。

まあ、俺に言わせれば、それでこそギルドの風景なのだがな。

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