第86話 高級旅館で至福の一時

「グリード、先に言っておくけど、明後日から5日間、お前達も旅行だからな!」

 と俺がグリード宅(ゲストハウス)に言いに行くと、


「え? マジ? 判った。 おやつ用意しとくわ。ガハハ。バナナはおやつに入らないんだよな?」

 と笑ってた。


 ハッハッハ! くそー! 動じなかったか。

 しかし、何処で仕入れたんだよ、そのバナナネタは。


 最近、グリードは怪しげな日本語を片言で話す様になっていて、反応が面白い。

 日本語の習得と言う意味では、ピート、エバ、グリードの順だな。

 エバの日本語は、本当に流暢で、そこらの日本人と会話している気になってしまう程。


 逆に、グリードの日本語は、「あなた~は、神をしんじま~すかぁ?」ぐらいの怪しい雰囲気。しかも、ゴツいし。

 思わず暗い公園で声を掛けられたら、叫ばれて、お巡りさんを呼ばれてしまうレベルである。

 本人は微笑んでいるらしいが、笑顔が邪悪だし、うん、確実に呼ばれるな。



 そんなグリード弄りを終え、自宅に戻り、敬護の旅の準備で買い出しに行った。

 主に厚手のジャケットや、肌着なんかを追加である。

 ついでに、エバに連絡したら、マリーのも欲しいと言う事で、女の子用も購入した。


 マリーもこちらに来てから、スクスクと成長して、現在1歳半になった。

 既にチョコチョコと話するんだよ。これがまた可愛いのなんの。



 ◇◇◇◇



 旅行の朝になった。

 清兄ぃ達御一行をゲートで呼んで来て、全員が庭に集合した。


 清兄ぃが彼女連れだったよ。驚いたのなんのって。


 俺が目を見開いてポカーンとしているのを見た叔父上が、苦笑いしてたし。

 いや、まあ良いんだけどさ。


 聡君は、彼女と一緒に仲良く並んでいた。

 聡君の妹……奈菜ちゃんは、今年高校を卒業である。

 お友達の女の子2名と卒業旅行を兼ねて参加らしい。


「この度は、お招き頂き、ありがとうございます。」

 とお友達の女の子からも挨拶された。


「ああ、こんにちは。楽しんで行ってね。

 美味しい物も沢山あると思うし。」



「さあ、全員準備OKかな?」

 と言う事で、一気に昨日下見に行った伊豆へとゲートで移動した。

 奈菜ちゃんとお友達はこれで2回目のゲート体験なので、キャッキャと姦しい。


 駅の裏手の路地に出て、そこから徒歩で駅前まで行くと、魔動バスを用意した旅館の人が待っていてくれた。

「こんにちは。予約した佐々木です。」

 と声を掛けると、駅の改札以外からゾロゾロやって来たので、驚かれてしまった。


 25名+幼児1名+乳児1名の団体である。

 バスに乗り込むと、

「あれ?手荷物は?」

 と不思議そうに聞かれ、


「ああ、俺達、冒険者やってまして、マジックアイテムに入れてるんで、手ぶらです。」

 と言うと、これまた驚かれた。

 そして、バスに揺られる事、10分、豪勢な日本旅館の玄関に到着した。


 すると、もう凄い歓迎っぷりで、全スタッフじゃないの? と言う勢いでズラッと整列してお出迎えだった。

 そして、貸し切りとなった、別館へと案内された。


「やっぱり、旅館は畳だな。さっちゃん、落ち着くね。」

 と仲居さんに入れて頂いたお茶を飲みつつ寛ぐ。

 別館の各部屋は、各部屋に総檜の露天風呂が付いてる豪華な部屋である。


 さっちゃんは、コタツに足を入れ、お茶と茶菓子をモグモグしている。

 敬護は、ハイハイで、広い部屋を鋭意探索中である。


「あうーー! とうと、チャプチャプ!」(とうさん、お風呂 の意味らしい)

 と外の風呂を発見したらしく、指刺して興奮している。


「あらあら、お風呂発見したの? ウフフ、お父さんに似てお風呂好きねぇ。」

 とさっちゃん。


「ふっふっふ。よーし、敬護、じゃあお父さんと一緒に先にひとっ風呂入るか!」

 と俺が言うと、


 満面の笑顔で「だーー!るーー!!」と俺の方に両手を広げて来た。


 すると、さっちゃんが、

「えーー!? 2人共ずるいよーー! お母さんも一緒に入るんだからね?」

 と言って、ソソクサと準備を始めたのであった。


 流石に貸し切りとは言え、大浴場に連れて行く訳にはいかないので、部屋に付属の風呂となるが、これもまた気持ちが良い。

 綺麗に洗った後、3人でお湯に浸かると、蕩けそうな気分になる。

「「「あぁーー」」」と3人揃って声を漏らして、3人で大笑い。


 ああ、転生出来て良かった。

 まさかこの俺が、こんな家族の団欒を味わえるとは、思いもしなかった。



「さっちゃん、ありがとうな!」

 と思わず感謝の言葉を述べると、


「え? 何?何?急に。」

 と慌てるさっちゃん。


「フフフ、いやまぁ、何だ……。家族になってくれて。家族を作ってくれて。ありがとうって意味だよ。」

 と言うと、さっちゃんがデレデレになっていた。


 まあ、その後、敬護がプルプルし始め、「しーしー」とか言い出すもんだから、慌てて上がって、トイレに連れて行ったけどな。

 でも、そのドタバタ感が、また良いな。



 そうそう、驚いた事に、わざわざ、女将さんが、大きな木桶を用意してくれて、大浴場にセットしてくれていた。

「これなら、トイレトレーニング中の赤ちゃんも皆様さえ良ければ、大丈夫ですよ?」と。


「わぁ~、何から何までありがとうございます。感謝します!」


「よし、後でもう1回大浴場に入ろうな。」

 と敬護に言うと、「だーー!」と喜んでいた。


 と言う事で、夕食前に、ピートと敬護を連れて、大浴場を満喫出来たのは、幸いだった。




 ちなみに、これは笑い話なのだが、細マッチョな兄上や聡君を除き、我々一族の男性陣はゴツい。

 まあ、若くから鍛えられてしまった、前田や凛太郎もだが、全員が厳つい筋肉で武装している為、浴衣を着ていても、それはそれは、厳つい集団である。

 グリードなんて、厳ついオッサンだしな。


 夕食の宴会場に浴衣姿で現れた我々を見て、若干引き攣る仲居さんや、ポッと頬を赤らめる仲居さんとに別れた。

 そして、その食いっぷりにまたまたドン引きしていた。


 聡子ちゃんのお友達なんか、目が点になってたね。


 舟盛りを、1人1船用意してくれたが、アッと言う間に食べてしまい、ガンガンお替わりするもんだから、女将さんも驚いていた。

 多分、これ程とは思わなかったんだろうな。

 ちゃんと、女将さんには、追加で払う事は言ってあるので、そこら辺は大丈夫だろうけど……。

 板場はきっと戦争状態だったのではないかと。



「女将さん、これだけ食うと、仕入れもあるだろうから、1日毎に追加分、精算しておきますよ。」

 と言うと、喜んでいた。

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