第73話 ランチ・デートと工作部のレジェンド

 一応、お洒落な店に行くかも知れないので、一応目立たない様にと気を遣って選んだ黒の戦闘服ではあったが、他の服に着替える事にした。

 ズボンは、これか? うーん、これで良いのか? シャツはこれで、洒落たジャケットは無いから、これで良いか。

 うん……何か似合っているのか似合ってないのか判らんな。

 前に買ったジーンズは、パンパンで入らないし、普通っぽく見えるズボンはこれ位だよな。

 今度、さっちゃんと服買いに行かなきゃな。

 素早くコーディネートし、さっちゃんを呼んで、確認して貰ったら、腹を抱えて笑い転げられた。

 解せぬ。そんなに変か?


「旦那様、面白過ぎる。 いや、それなら朝の戦闘服の方が自然だから。」

 と言われ、急遽1分で元に戻した。


 そして、秘書子ちゃんと兄上を呼んで、急遽秘書子ちゃんのお薦めの店へランチに出掛けるのであった。


「ほー! 結構ランチタイムは店も沢山あるんだね。」

 と感心すると、


「ええ、うちの本社があそこに出来てから、徐々にここら辺一帯にも会社が増え、その従業員達目当てで、美味しいお店が増えたんですよ。」

 と秘書子ちゃん。


「さっちゃん、俺達もたまには、外に食べに行こうか。」

 と俺が言うと、


「そう言えば、外で食べるって言うと、気が付くと、旦那様の手料理が多いよね?」

 とさっちゃんが呟く。


「ん? うーん、そう言えば外=野外活動になってて、自然と俺が作ってる気もするね。」

 とよくよく考えてみる俺。


「へー! 徳士さんは、料理上手なんですか。 それはまた凄いですね。」

 と秘書子ちゃん。


「まあ、昔からキャンプとか色々やって外で作る機会多かったからね。食うのだけが楽しみな所もあって、気付いたら外だと自然と俺が作ってる気がするね。

 言われるまで余り自覚がなかったけど。」


「家のキッチンとかなら自炊しますけど、野外で作るとなると、やっぱり色々大変そうですよね。」


「いや、それがそうでもないないんだよ。あれ?兄上に聞いて無い? マジックテント持ってるから、そこらのホテルに泊まるのとあんまり変わらないよ?」

 と俺が言うと、


「あれ? マジックテントって公開して良いの?」

 と兄上が聞いて来た。


「ん? ああ、あんまり態々言う必要は無いけど、兄上の信頼している人になら問題ないよ。それにほら、草津のダンジョンから2つも手に入ったし。」

 と言うと、


「そっか。何だ、じゃあ、もっと早くに話しておけば良かったよ。ほらオスプレーの部品調達の時の話とかもあったし。」


「そうそう、あの時もそのテント使ってたんですか? 結構夜の宿泊の件で、心配してたんですが。」


「ねえ、そう言えば今度うちの庭でBBQするんでしょ? その時良かったら来ない?」


「ああ、良いね。その時見せてあげるよ。きっと驚くと思うよ。それにそのBBQはとっておきの肉も焼くし。多分他ではなかなか食べられない肉だよ。」

 と言うと、秘書子ちゃんが目を輝かせ「是非!」と言っていた。

 ナイスアシストだ、さっちゃん。



 店はイタリアンの店で、パスタやピザをシェアしながら、店の人は引く程食べてしまい、秘書子ちゃんが驚いていた。


「ねえ、さっちゃん、ちょっと驚きなんだけど、あなたっていつもそんなに食べてるの?」

 と聞かれ、


「うん、そうだね、夏のブートキャンプ以来、結構食べる様になったけど、レベルが上がったから代謝が良くなって、悪く言えば燃費が悪くなったから、これだけ食べても太る事は無いよ?」

 と答えると、実に羨ましそうであった。


「私も食べるのは好きだけど、ちょっと油断すると直ぐに太っちゃうから、なかなかね……」

 と。


「えっと、兄上に習って、レベル上げしたら? 少し上がるだけで、かなり体調が改善されるよ? 兄上と一緒なら、そこらのダンジョン潜っても、危険は無いし。」

 と俺が提案すると、


「レベル上げると、そんなに違うもんなんですか!」

 と驚きつつ、


「社長!是非今度ご指導お願いします!!」

 とお願いされて、嬉し気に兄上が即断でOKしていた。

 そして、昼食は兄上の奢りとなり、おご馳走様しておいたのだった。


 午後は、また社の部屋に戻って、今度はダンジョン用のスマホアプリを開発し、検索キーワードや条件で全国のダンジョンから絞り込めるアプリを完成させた。

 これがなかなかに良くて、地図上のダンジョンのピンをクリックすると、冒険者ギルドのサイトの該当ページから情報を収集して概略がポップアップして表示される。

 まあ、よくあるサービスアプリであるが、観光とダンジョンをミックスした物は無い。


「うーん、出来れば、もっと詳細情報が取れる様にしたいな。

 冒険者ギルドに掛け合って、API作って貰うか。」


 思い付いたら吉日と言う事で、冒険者ギルドの本部のトップの更に上の上へと電話した。


「あ、首相、ご無沙汰しております。チーム佐野助の佐々木です。

 はい、今日はちょっとお願いがあって、連絡させてもらいました。

 冒険者ギルドの管理するDBのにAPIを作って頂きたくて。

 ええ、それが出来れば、かなり冒険者の活動に有利になります。

 ええ、はい。じゃあ10分後にその番号に掛ければ良いんですね。

 了解しました。ありがとうございます。」

 と3分程で話が着いた。

 うん、交渉ってやっぱ上に話を持って行くと早いよね。


 そして、きっかり10分後に、指定された番号に電話すると、ワンコールで電話が繋がり、実にスムーズに話が通った。

 冒険者ギルドのシステムエンジニアのチーフに電話を転送して貰い、仕様等を決め、その日の内にWebAPIを実装して貰えた。

 これにより、今までは表示されていなかった、階層別の魔物の種類や再考到達階層、階層別のステージの情報等、事細かな情報にアクセス出来る様になった。

 後は、そのWebAPI経由で情報を常時するだけである。


 素晴らしい!


 斯くして、完成したアプリ2つをサーバにアップし、公開を開始した。

 冒険者ギルドのページにもリンクやQRコードを張って貰ったので、アッと言う間に凄いダウンロード数になった。

 まあ、無料公開しているし。

 とは言え、俺もバカじゃないので、広告バナーを表示する様にセットしたから、閲覧数によって、微々たる広告料金を貰える予定である。



 午後3時過ぎには、予定していた仕事が全て終了し、滅茶滅茶暇になってしまった。

 さっちゃんの方は、まだ校閲が終わらないらしい。

 秘書子ちゃんも手伝ってくれていて、一応ダブるチェックしてくれているのだが、特に今の所問題点は無いとの事。


 そこで、暇潰し……いや、付与に関して思い付いた事を試しに、久々に社内の工作部へと、お邪魔してみる事にした。



 工作部のドアを開けて、中に入ると、旋盤やNC等の切削音と機械油の匂いが漂っている。

 若いスタッフは、「あんた、誰?」って顔でチラチラ見ていたが、奥から、

「あああ! 徳士さんじゃないですか! お久しぶりです!」

 と工作部の部長が飛んで来た。


「ああ、部長、お久しぶりです。その後如何ですか?」

 と聞くと、


「ええ、お陰様で、魔道具製作ラインも順調に動いてまして、ホクホクですよ。

 また何か新しい物を作るんですか?」

 とワクワク顔で聞いて来る。


 この部長の対応で、若いスタッフ達は、え?偉い人?って感じの目に変わり始める。


「おーい、みんな! ちょっと集まってくれ!」

 と大声で声をかけて、集まった全員に俺の事を紹介してくれた。

 勿論、創業時のメンバーは俺の事……と言うか俺がやった仕事を良く知っているので、ニコニコ顔で会釈してくれる。


「「「えーー!! この人があの伝説の!」」」

 と部長の紹介スピーチを聞いた若いスタッフ達が驚いていた。

 俺もビックリだよ。何だよ伝説って?

 おいおい、どんな風に俺を美化した?


 と言う思いを込めた目で部長を睨むと、

「ああ、いえ、別に大袈裟に言った訳ではなく、現在我が社で販売している魔道具の100%は、徳士さんが全て作った物って事を言っただけですよ。

 あの魔道具の生産ラインもね。」

 と言う事だった。うん、それは嘘でも何でも無いな。


 なんか最初と打って変わって、若いスタッフ達がキラキラした目で見つめてきて、ちょっとこっ恥ずかしい。



「おっと、そうそう、来たのは用事があったんだった。

 えっと、今ですが、魔鉄の方の生産ってどれ位のペースですか?」

 と聞くと、そもそも原料となる鉄鉱石自体があまり無くて、鉄を魔鉄に変えるのも一苦労と言う事だった。


「あー、やっぱり。本当に資源の少ない国土って悲しいですね。

 で、先日ちょっと自衛隊の人達と話しをする機会あったんですが、ふと思い付いた物があったので、それを供給すると、自衛官達にとってはかなり楽になるんじゃないかとおもいまして。」

 と言って、既製品の一般的な銃弾やナイフに魔力を付与する機械(魔道具)のプランを話した。


「おお!それは。なるほど、そう言う手もあるんですね。」

 と驚く部長。


「ただ、やはり威力と言う面では、素材自身の持つ又は保持できる魔力量次第なんですが、せっかくの在庫品が使えなくなるよりも良いかな?とね。」

 と言うと、

「是非やりましょう! 国の守護神の為、そしてひいては我々自身の為でもありますから。」

 と即決していた。


 そこで、1人の若いスタッフが、手を上げて質問してきた。

「あの、ちょっと質問なんですが、それを作る事で、我が社の収益が落ちるんじゃないでしょうか?」と。


「ああ、収益って面だけで考えると、一時的に落ちる事は落ちるさ。

 でもな、長い目でみなくても、それだけの価値は十分にあるし、大体、我が社って滅茶滅茶儲かってるだろ?

 俺は、例えトントンぐらいにしかならなくても、ヤルべきだと思うぞ。

 だって、自衛官達は、自分達の命を掛けて、俺達を守ってくれているんだからな?

 もしたかだか1億円の儲けがでるか出ないかの差で彼らが助かり我々が助かるなら、助かる方を選ぶのは当たり前だろ?

 元々日本は人口比率で、兵士1人が守るべき国民の数が他国に比べ多いんだよ。つまり彼ら1人の命には、それだけ多くの国民の命が掛かっているのと同じ。

 だったら、答えは簡単だろ?」

 と言うと、

「確かに……。申し訳ありませんでした。」

 と言って謝って来た。


「別に、謝る話でも無いし、そこは判って貰えば良いのできにしないで。」




 そして、作業開始から1時間程で、1つ試作品が完成した。


「うん、一応完成したな。題して、『魔効付与ゲート』かな。」


 早速、動作確認のため、ステンレス製のナイフを2本用意して、1つはこの魔攻付与ゲートを通し、魔力を付加した物にしてみた。

 確認すると、やはり薄ら魔力でコーティングされているのが判る。


 ナイフ2本を持って、ゲートでダンジョンの草津ダンジョンの第2階層へ移動し、出て来た魔物にそれぞれ投げて見た。

 結果は予想通りで、魔効付与ゲートを通したナイフは刺さり、ノーマル品は弾かれた。

 弾かれたナイフに魔力を付与して投げると、やはり刺さった。


「うむ。間違いないな。」


 工作部に戻ったおれは、部長に効果があった事を報告し、魔効付与ゲートを沢山作る様に兄上を通して、お願いした。

 俺の工作過程を生で見ていた工作部のスタッフは、えらく士気が高くなっていて、キラキラした目で見られてしまった。



 そして、思い付きで作った『魔効付与ゲート』は、今後の 人類vs魔物 の戦いに於いて、鍵を握る物の1つとなったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る