第74話 ディナー・デート

 昨夜は、午後5時半には4人とも退社して、あんまりな俺の服を見繕って購入し、サクッと着替えてから、夕食を食べに行った。

「おーー! ナウなヤングはこう言う所でご飯食べるんですね?

 いやぁ~、勉強になるなぁ。ごめんね、さっちゃん。あんまりこう言うのに疎い男で。」

 と思わず申し訳無くなり、謝る俺。


「ウフフ、そんな気にしなくて良いよ。私も知らなかったし。」

 と腕にグイグイ顔を引っ付けるさっちゃん。


「フフフフフ、お二人は本当に仲が良いと言うか、見てると、爆ぜろ!と叫びたくなりますね。」

 と笑顔で黒いオーラを放つ秘書子ちゃん。


「わぁ……何か、呪いのオーラが出てるよ?」

 と言うと笑ってた。



 ここはとある高層ビルにあるレストラン。

 夜景を見ながら食事を楽しめるスポットである。

 色んな物を注文して、全員でシェアする事にした。

 しかし、余りにも注文数が多くて、オーダーを取りに来たお姉さんにドン引きされてしまった。

 昼食で慣れたのか、秘書子ちゃんは、腹を抱えて笑ってた。


「兄上、俺達が居ない間、寂しかった?」

 とニンマリしながら聞くと、


「ハハハ」と渇いた笑いをしながら、

「いや、マジで、最悪だったよ。山本(←秘書子ちゃんの本名)さんが、居なかったら、寂しさで死んでしまったかも知れないな。」

 と言うと、秘書子ちゃんが笑いながら、


「そんな大袈裟な。でも、食事ちゃんと取って無かったでしょ? 駄目ですよ? これからは、もう少し食事には拘らないと。」

 と注意する秘書子ちゃん。


「だよな。別にマザコンでも何でもないんだけど、今まで食事にはあまり拘り無かったし、帰ればちゃんと飯あったから、気にもしてなかったな。

 だけどさ、あんなに広い家で一人で飯なんて食えないって。マジで。」

 と嘆く兄上。


「ん?そう言えば、山本さんって、実家住まいなんでしたっけ?」

 と俺が振ると、


「いえ、私は一人暮らしですよ。 両親は、例の弾劾の日に亡くなってしまいまして、それ以降はズッと一人で暮らしてます。

 だから、もう帰る実家も何も無いんですよ。」

 とヘビーな話になってしまった。


「そ、そうだったんだ。何かごめんね。そうか……あの日に。」

 と言葉を詰まらせてしまった。


「だから、社長の言う、広い家に1人でって話は何となく気持ち分かりますよ。

 それが嫌で、実家を手放して、小さいマンションに引っ越しして、暮らしているぐらいですし。

 私も、こうして人とお食事するのは、実は久しぶりなんですよ。」

 と言われ、少し胸が締め付けられた。


「そうだったんだ? もっと早く言ってくれれば、誘ったのに。」

 と兄上が、少し焦った様に言う。


「ハハハ、いやそんな話態々自分で言うのって、何か狙ってるみたいで嫌じゃありませんか?」

 と秘書子ちゃん。


「ああ、あるわね。そう言うの。 うん、なるほど。そう言われてみれば、ある意味王道っぽいわね。」

 とさっちゃんも同意する。


「それに、私、どうしてもあの日以来、感情を表に出すのが辛くなってしまって、極力そう言うのから離れて暮らしてましたから。」

 と言う秘書子ちゃん。


「じゃあ、もし迷惑でなかったら、仕事関係無く、時々でも良いから一緒にご飯食べに行かない?

 あ、迷惑だったら、本当に仕事関係無く断ってくれて、全然良いから。ああ、あの、これセクハラにならないよね?」

 と焦りつつ、お伺いする兄上。


「アハハ、セクハラって。あー、でも人によってはセクハラになるのかもですね。ふむ。興味深い発想です。

 ええ、是非また誘って下さい。嬉しいですよ。仕事の営業トークではなく、本心で。」

 と笑いながら答える秘書子ちゃん。


「そ、そう? 良かった。

 いやさ、女性に何かを言うと、ほら直ぐにセクハラとか言われるって、コンプライアンス室からの話もあったし、結構ビビってたんだよね。」

 とホッとした表情で暴露する兄上。


「なるほど! でもあのセクハラって言う人と受け取る人の相性ってありますよね。 誰でも普遍って訳じゃないみたい。少し変ですよね。」

 と秘書子ちゃん。


「じゃあ、またランチでもディナーでも迷惑でなければ、一緒に食べに行こうよ。」

 と言うと、


「はい、喜んでご一緒させて頂きます。」

 と言われ、大喜びする兄上は、ヤンワリと次回のお誘いに成功?したのであった。


 そうして話をしている内に、次々とオーダー品が届き始める。

 全員で乾杯した後、バクバク食べ始める俺とさっちゃん。

 まあ、兄上も食べて居るが、終始ニコニコ顔で、チラチラ秘書子ちゃんを盗みみて、またニコニコしている。


 ああ、ちょっとポンコツじゃないかと思ったけど、やっぱりポンコツっぽいね。



 夜景自慢のレストランなんだが、ハッキリ言って、この4人はほぼ夜景を見ていない。

 俺とさっちゃんは、欠食児童の様にガツガツ食べているし、兄上は秘書子ちゃん見てるし、秘書子ちゃんは俺らの食いっぷりに驚いているし。


 皿が空くと、次のオーダー品が程よい頃合いで運ばれて来るので、非常に良いペースである。


「昼間も驚きましたが、本当に良く食べますね。お二人共……。」


「何か草津温泉のダンジョンでレベル上がって、更に食欲が出ちゃって。」

 とさっちゃん。


「ああ、確かにそう言うのはあるよね。でもレベル上がると、身体がベストな状態を保とうとするから、若返り効果もあるみたいだし。」

 と俺が言うと、


「ああ、そう言えば社長のお父様って、お若いですよね。」

 と秘書子ちゃんが納得する。


「フフフ、お義母さんとか見ると、もっと驚くわよ?

 私、時々一緒に買い物とかにも行くけど、マジでご姉妹でお買い物ですか? って言われるし。」

 と言うと更に驚いていた。


「社長、本当に今度、レベル上げお願いしても良いでしょうか?」

 とデレっとしている兄上に向き直り、お願いする秘書子ちゃん。


「ああ、勿論。」

 と急にキリッっとした表情に戻って即答する兄上。


「あつし達って、次に行くダンジョン決めたの?」

 と兄上が聞いて来たので、


「そうそう、今日アプリ作ったの、見てくれる? と言うか、ダウンロードしてみてよ。」

 と早速2本のアプリをスマホにインストールさせて、説明すると、


「え?この2つのアプリって今日作ったんですか? 何か異常に早くないですか?

 だって、午前中、執筆されてましたよね?」

 と驚いてくれる秘書子ちゃん。


「ああ、それさ、レベル上がると、頭の回転とかも早くなるし、指の動きも速く出来るから、全体的に作業効率も上がるだよ。

 今日は、原稿3冊分上げて、その2本のアプリ作って、最後に暇だったから工作部で、『魔効付与ゲート』も作ったし。」

 と言うと、「凄すぎる。」と呟いていた。


「あ、で、まあ本題に戻るけど、このダンジョン検索アプリの方を見て貰って良いかな?

 これで、温泉をフィルターキーにすると、温泉のある場所のダンジョンが絞れるんだよね。

 で、今検討中なのが、銀山温泉と城崎温泉ね。 どっちもお薦めらしいから。」

 と俺が言うと、


「温泉目的?」

 と言われ、ハハハと笑って誤魔化す。


「どっちかにしようと思ってるんだけど、どっちが良い?」

 と聞くと、銀山温泉の雪景色の写真見て、「わぁ~綺麗」とため息を漏らしていた。


 そして、城崎温泉の方を見て、「ああ、こっちも綺麗。あこっちは海の幸もあるのか。」と呟いていた。


 フフフ、この流れなら、4人で行けそうだな。

 これで今回の任務の70%は達成したんじゃなかろうか?



「今日はおご馳走様でした。久しぶりに沢山の人とお話しながらご飯を食べる事が出来ました。

 とても楽しかったです。本当に社交辞令でなく、また次回もお誘い頂けるんでしょうか?」

 と聞いて来る秘書子ちゃん。


「社交辞令だなんて、いや本気で普通にお誘いするし、勿論今週末のBBQも来てね。」

 とさりげなく、週末を確保する兄上。


「ええ、もうスケジュール帳に入力済みですから。フフフ」


「あ、兄上、俺達ちょっとこの後、寄るところあるんで、ちゃんと山本さん、送って行くんだよ? 危ないから。」

 と言って、ゴチになりつつ、帰ってきた。自宅に。


「ハッハッハッハ! 兄上デレデレじゃん。 何か脈もありそうだし、ここから寧ろ失敗する方が難しいよな?」

 とさっちゃんい大笑いしながら聞く俺。


「フフフ、まったくどんな物かと思えば、結構両想いだし、楽な仕事だったわね。

 でも、良かった。上手く行きそうな雰囲気で。」


「だな。」


 と言う事で、二人で風呂に入って、早々に寝室に直行した。

 食べた分のカロリーはちゃんと消費しないとね。



 後日談になるが、この日リリースしたダンジョン検索アプリは、その後更なる進化を遂げ、口コミグルメサイトとタイアップし、食べ物での検索キーも充実した。

 そして、冒険者達のマストアイテムの1つとなったのである。

 無料アプリであったが、その広告収入は、驚く程の金額になって行き、知らぬ間に貯蓄額が増えて行くのであった。

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