第72話 社内にて

 さて、翌日、いつもの日常が戻ってきた。


 全員で朝食を取ってから、父上、兄上、俺、さっちゃんで会社へと向かう。

 おー、久々に見る会社の雰囲気は創業当時と比べ、足を踏み入れるのを躊躇する程に立派な雰囲気。


 兄上は、ジーンズにTシャツにフライトジャケットと言う出で立ち、俺は、真っ黒の戦闘服、さっちゃんは、ジーンズにシャツを着てその上にセーターと言う何ともミスマッチな集団。


「なあ、あつし、流石に会社に戦闘服は無いんじゃない?」

 と指摘を受けたが、


「兄上、すまない。他に服が無くて。一番地味なのを選んで見たんだが?」

 と俺が言うと、


「いやいや、色が地味とかってより、逆に真っ黒な戦闘服って目立つから。何処の忍だよ。」

 と苦笑い。


 何処のと言われると、佐野助だな。



「いらっしゃませ。今日はどう言ったご用件で?」

 と社屋ビルに入ると、受付嬢に呼び止められた。


「あれ、うちの会社にも、受付嬢居たの?」


「へ? ああ、そうか、お前全然出社してなかったもんな。」

 と兄上。


「佐藤さん、こいつ、この会社の取締役の1人で顧問でもあるんだよ。顔覚えておいてね。そしてこちらが、その奥さんで秘書も兼ねてるから。」

 と俺とさっちゃんを紹介した。


「え!? あ……聞いてます! そうですか、失礼致しました。 お噂はかねがね聞いております。佐藤京子です。宜しくお願い致します。」

 ときちんと挨拶をされた。


「いえ、こちらこそ、真面目に出社してなくて申し訳ないですね。どうしても外回りばかりになってしまいましてね。いつも兄がお世話になっております。」

「はじめまして、秘書兼妻の早苗(←さっちゃんの本名だよ!)です。」

「奥様お若いですね。とても可愛いと評判で、うん、確かにこれは噂通りです。良いなぁ、イケメンとカワイ子ちゃんのカップル。羨ましいです!!」

 と受付嬢の佐藤さん。


「佐藤さん、涎垂れてない?」

 と兄上が突っ込むと、


「はっ!」と手の甲で口元を拭く仕草をする佐藤さん。


「って、垂れてないですからね。」

 と笑ってた。


「(ねぇ、兄上、佐藤さん、美人だし、頭の回転早そうじゃん。)」

 って聞いたら、

「(バカ、あの人は、人妻だぞ! と言うか、先月結婚した新婚さんだよ。)」

 と言われ驚いた。


 えーー!? 受付嬢って独身女性のイメージが。 いやまあ、別に既婚でも問題ないか。


 しかし、凄いな、昼間の会社をこうして見るのは初めてかも知れないな。

 普段は、夜とか人気が無い時が多いし、直接ゲートでそのままゲートで帰るし。

 わぁ~、ドラマとかで見た様な会社の風景じゃん。

 俺とさっちゃんが、キョロキョロと辺りを見回していると、完全に不審者扱いで、結構な人数が怪訝そうに見て行き、後ろに社長である兄上を発見すると、慌てて挨拶していた。

 兄上は、それが面白いのか、クックックと小声で笑いながら、後ろを目立たない様に、付かず離れず着いて来ている。


 そうしていると、推定30歳ぐらいの男性が1人、俺の前に立ち塞がり、

「君、業者の人?ここは部外秘の場所。判るかな? 君みたいなのが、チョロチョロして良い場所じゃないの。判る?

 何処の業者だよ。取引停止にするぞ?」

 と通せんぼをされてしまった。


 あらあら、これまた高飛車な。


「えーと、受付で挨拶をして通ってますよ。

 と言うか、君は、そんな態度でいつも業者や社外の人に対応しているのかい?

 えっと、失礼だが、名前と所属教えて貰える?」

 とちょっと頭に来て聞くと、


「あー? 誰だって良いだろ? 俺の一声で、取引停止にぐらい出来るだよ。」

 と更に高圧的になった。


「うーん、これはちょっと人格的に問題あるんじゃないか?

 悪いが、俺はこう見えて、この会社の関係者と言うか創業時のメンバーの1人だよ?」

 と言うと、今までは、高圧的にニンマリと嫌らしい嫌味なドヤ顔で怒鳴っていたのが、目に見えて青くなって行く。


「なあ、兄上、幾らこんなご時世で、色んな人に仕事を!って気持ちは判るけど、これはちょっと見過ごせないんじゃない?」

 と俺が振り向いて兄上に話掛けると、


「あー、うん、俺もビックリだよ。我が社にはそんな偉そうな人材は要らないよな。

 これは、知らない間に、かなりの業者さんにご迷惑をお掛けしているかも知れないね。

 要調査だな。」

 と兄上が凄く怒りに満ちた笑顔で呟く。


「あ、いや、これは……。」と狼狽える男性。


「で、君は誰? ああ、良いよ答えなくても。 えーっと何何? ああ山田丈一郎さん32歳ですね。覚えたよ。」

 と鑑定して言うと、愕然として跪いていた。


 俺達は、そのまま横を通り過ぎて、上の階へと上がって行った。

 そして久々の俺の個室へと到着。


「へー、ここが旦那様の仕事の部屋か。何も仕事してないのがバレバレな部屋だね。」

 と爆笑するさっちゃん。


「うん、確かにね。でも会社の収益には、もの凄く貢献しているのは事実なんだけどね。」

 と俺が弁解すると、


「いやいや、会社レベルじゃなくて、割とマジで人類全体レベルでは貢献してると思うよ。」

 と頭を撫でてくれた。


「うん、まあ好きな人には貢献している自信はある。」

 と言うとさっちゃんが嬉しそうにしていた。



 さっちゃんには、秘書室の空いてる机を借りて、資料を纏めて貰う事にした。


 俺は、机の上のPCを起動して、早速自衛隊向けの戦力アップのテキストを作成し始める。


 途中、さっちゃんが、コーヒーと、纏めた資料を持って来てくれたりした。

 そして、秘書子ちゃんと親しく話しが出来る様になり、チョコチョコ情報を持って来てくれた。

 ナイスだ、さっちゃん!


 秘書子ちゃん、彼氏は現在居ないらしい。

 で、密かに兄上に憧れも持って居ると言う雰囲気も察知したらしい。

 所謂、ツンデレ?いや、クーデレか。そう言う感じらしい。


 なので、昼ご飯は4人で一緒に外に食べに行く約束をしたと。

 益々ナイスだぞ! さっちゃん。


 それに、逆に兄上の事をそれとなく聞かれたらしい。

 これは、芽があるんじゃないか?

 いやいや、兄上にそれを言うのは、暴走しそうだから、もうちょっと隠密作戦で攻めて行こう。




 一冊目の上巻の原稿が出来上がったので、データをさっちゃんに渡し、文章のおかしい所や、判りにくい所等、校閲をお願いした。

 二冊目の下巻は身近にある物を武器にして魔物と戦う方法についてとなる。

 これは、先日のダンジョンの一件もあり、付与の方法やイメージ、魔力の供給の方法等をメインにした。

 所謂サバイバルの方法である。

 魔鉄やその他の魔力を纏った物があれば良いが、無い場合には、これを読んでいるのといないのとで、生存率が変わって来るだろう。

 なので、特に分かり易く、イラスト付きで説明を書いた。


 うむ。我ながら、なかなか良いテキストを作れたのではないだろうか?

 これを自衛官の皆さんに無料配布する予定である。


 次に、魔物図鑑の作成に入る。

 今まで撮りだめした魔物の写真を元に名称や特徴、ランク、特記情報、戦い方等を纏めた図鑑である。

 一応、200種類ぐらいは書けたので、これもさっちゃんにデータを渡した。


 次は、スマホ用のアプリの作成だな。

 魔物図鑑のデータを検索出来るアプリを作成し、ネットに繋がってなくても使えるアプリにしてみた。


 と、ここまで完成させた所で、昼休みの10分前となったのだった。

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