第71話 草津温泉ダンジョン支部の騒動

「「「「「「…………」」」」」」


 あれれ、ギルドのお姉さんを含め、支部長まで黙り込んでしまった。


 今、ギルドの応接室で、売る品々を箱にドンドンと詰めて行き、箱が一杯になって行く度に悪くなる顔色を窺いつつも、遠慮無く積み上げて行くと、最後のボス部屋のドロップ品や宝箱の品々で、固まってしまった。

 実際の所、ボス部屋のドロップ品は極一部しか出していないんだけどね。

 そして、忘れ無い内に、第5階層のマッピングデータの冊子も出した。


 黙って固まっている皆さんに、

「まあ、一応多分、今回の異変の原因は取り除いたので、当面問題は無いと思います。

 おそらく、原因は第5階層のボスがヒュドラになった影響でしょう。

 その為、階層内の魔物がドンドンと上に上がって行って、スタンピード直前になったんだと思います。

 今みれば、第1階層~第4階層なんて、普通のダンジョンのソレですからね。

 まあ、あんな浅い階層に、ダンジョンのラスボスクラス……Sランク越えの魔物が出れば、そんな事もありますよ。

 ハハハ、まあお陰で大量でした。やったね!」

 と締め括った。


 やっと、復活した影の薄そうな支部長が口を開いた。

「あのぉ……誠に申し訳ないのですが、これだけの品の査定はかなりのお時間を要してしまいまして。」

 と悲しげな目をして、部屋の隅に積み上げられた箱の山と溢れて無造作に置かれた魔道具を見上げている。


 受付嬢のお姉さんは、少し涙目になっていた。


「ああ、そこら辺は、多少時間掛かってもしょうが無い量だと自覚してますから。

 価格が決まったら、四等分して、振り込んで置いて貰えば大丈夫ですよ。」

 と言うと、少しホッとした表情になっていた。


 今回のスキルカードだが、出た物自体の報告と写真は撮ってあるけど、売るのを止め、仲間内で使う事にした。

 ストレージの付与のされた腕輪だけど、実際必要としているのは、グリードぐらい。

 なので、グリードにも大神様の腕輪を渡して、ストレージの腕輪は5個共売る事にしたのである。

 テントは、今回出た分はそのまま売る事になっている。

 各インゴットもそのまま売るが、魔結晶だけは俺が貰う事になった。


 ヒュドラのドロップ品だが、ギルドに出したのは、1/4だけ。

 後は、俺がストックしている。

 理由は、色々と後々使い道がある物が多く、市場に出しすぎるのも勿体無い。

 ヒュドラの鱗や牙や諸々で、今の防具より、断然凄いのを全員に作る予定にしている。


 あとは、肉だな。

 ドラゴン種の肉は別格の美味さで、ヒュドラの肉も然り。


 せっかくなら、みんなでBBQとかで食べようぜ!っと事。


 しかし、今日の売り上げは、恐らく俺の予想では、1人1億は確実に超えると踏んでいる。


 そして、ギルドのスタッフに別れを告げ、自衛隊の皆さんにも、別れを告げて、お土産にフラミンゴの肉10kgぐらいと、オークの肉20kgぐらい置いて来た。

 すると、早速詰め所に駆けていって、上官が飛んで来て、お礼を言われた。


 聞くと、このダンジョンの警備は20名ぐらいの自衛官でローテーションしているらしい。

 5名を1セットで、1日3チームで8時間交代だそうで。


 上官曰く、それでも以前よりは給料面や待遇面、それに何よりも、『人殺し集団』とか言うバカな連中が日本から居なくなったお陰で、かなり精神面で違うと言っていた。


「まあ、そんなバカな事を言う奴は、そもそも助ける必要なんてないですよ。」

 と俺が言うと、


「まあ、心情的にはそうも思ってしまいますが、しかし我々は国に誓いを立ててますからね。そう言う訳にはいかないんですよ。」

 と笑ってた。


 レベルの話を聞くと、隊員達の平均はレベル10らしい。

 ふむ、だと言う事は、オークぐらいまでは、1対1で何とかなるか。


「しかし、魔鉄の銃弾やナイフが支給される様になったので、本当に楽になりました。」

 と言っていた。


 しかしながら、勿体無い事に、身体強化や身体加速は、まだ浸透していないらしく、軽くやり方を伝授してやると、直ぐに使える様になった。

 更に、魔力の増やし方等も教えてやり、各属性の魔法についても、少し教えて回った。


「但し、魔力が枯渇すると、戦闘不能どころか、意識を失うので、魔法の使いすぎには気を付けて下さいね。」

 と厳重に注意しておいた。


 一応、魔力ポーションと中級ポーションを人数分置いて来たので、最悪の場合でも大丈夫……と思いたい。


「兎に角、絶対に無茶せず、少しずつでもレベルを上げる様にして下さい。」


 と言う事で、非常に感謝されつつ、この地を後にしたのだった。



 ◇◇◇◇



 久々に自宅に戻り、みんな揃って食事を取った。


 ダンジョン遠征の話を色々しながら、自宅(とは言え実家の方だが)でワイワイと食べる食事は、なかなかに嬉しい物だ。


「そうそう、あつし、知ってる? 今、毎日ギルド本部で、今日のダンジョン成果ってページがあってね、結構話題になっているんだよ。」

 と兄上。


 ん? 何それ?


 聞けば、毎日の俺達の成果を公表してて、ザックリとした売上金額を公表しているページがあるんだって。

 しかも、出て来るダンジョンの情報は、俺達や身内の潜ったダンジョンだけって話だった。


 しかし、今日あたりから、ポツリポツリと、他のダンジョンの第1階層辺りの物も増えだしているらしい。

 それは、つまり、ダンジョンアタックする冒険者が増えたって事だな。

 うんうん、予定通りだ。


「ハハハ、じゃあ明日辺り、ネットが大騒ぎになると思うよ。」

 と言うと、


「だよな。ヒュドラだもんな。」

 と兄上も笑ってた。


「ところで、兄上、俺達が居ない間、飯どうしてたの? 誰と食べてたの?」

 と聞くと、見る見る真っ赤になる兄上。


 ん? って事は女か。


「フフフ、何処の誰子さんかなぁ?」

 と聞くと、


「え? いや……そんなんじゃなくて、友達としてだから。」

 とか、しどろもどろになって弁解してる。


 やっと口を割って……いや、素直に話してくれた所によると、余りにも貧相な食事(カップラーメン)を食べているのを見かねた秘書の女性が、食事に付き合ってくれたそうで。

 うーん、これは判断に困るな。

 見るに見かねる状況なら、同情や仕事に穴を開けられるのを嫌って、ってパターンもあるし。


「ちなみに、それは夕食だけ?」

 と聞くと、朝飯は、出勤途中でサンドイッチとかを余分に買って来てくれたりしたらしい。


「うーん、微妙。」

 と素直な感想が思わず出る。


「え? そうなの? 俺脈ない?」

 と兄上が焦る。


「え? だってお握りとかサンドイッチでも良いけど、手作りを貰った訳でもないんだよね?

 お昼はどうなの?」

 と聞くと、お昼は出前をいつも取ってるって……。


 うーん、兄上って、女性関係に関してはどうやら、ポンコツらしい。


「丸っきり、芽が無いとは言わないけど、ハッキリ言って、レジの横の募金箱に余ったお釣りを入れるぐらいの感覚だと思おう。」

 と言うと、ガーーーンって顔で跪いていた。


「兄上って、妙な事には、抜群の腹黒参謀の力を発揮するのに、事、女性に関しては、全然ポンコツなんだね。」

 と優しく肩を叩くと、泣いていた。



 ちなみに、どんな女性が好きなのか? そもそも好きな子は居ないのか? 気になる子は居ないのか? を聞くと、


「そうだな、タイプとしては、シッカリとして、頭の回転が早くて、料理もシッカリできる女性かな。まあ出来れば綺麗な子が嬉しい。

 好きな子ってのは難しいよね。家と仕事の往復だけだし。

 廻りに居るのは、ほぼ社員だけだよ。

 気になる子ねぇ、そりゃあ秘書子ちゃんだよ。」

 と。


 うーん、元々好きな子は秘書子ちゃんで、つまり秘書子ちゃんは、料理出来る綺麗な子なのか。

「その秘書子ちゃんは、彼氏居るんだっけ?」

 と聞くと、知らないそうな。

 だよな。今の時代、下手に聞くと、セクハラだもんな。 怖い怖い。


 と言う事で、明日は、久々にさっちゃん連れて、会社に顔を出す事にした。

 名目は、自衛隊用の戦力強化テキストを作成すると言う体で。


 そして、さっちゃんにそれとなく、探りを入れて貰う事にした。


 ちなみに、現在の株式会社マジック・マイスターだが、総社員数は、2000人を超える。

 本社には、総務と研究部門の一部と、営業部の一部、それに工作部である。

 女性はザックリ半数の1000人ぐらいかな。

 更に未婚となると、人数がガックリ減って、200人ぐらい。

 でもこれには、理由があって、なるべくシングルで子供を育ててる死別した女性を多めに取っているからなんだよね。

 少しでも安定した生活が出来る様にって、俺達の気持ちなんだけど。

 だから、本社には割と若い子は少なかったりする。


 いやぁ、もしそう言う兄上の方針を知れば、結構プラスのポイントだと思うんだけどなぁ。

 顔はイケメンで、頭も良くて、背も高く、ソコソコの戦力を持っていて、金も持ってる。

 こうして列挙すると、男からしてみると、嫌な奴(条件が揃い過ぎてて嫌味と言う意味)だな。 はっはっは。


 そして、スィートホームへと戻り、さっちゃんとゆったりと寛ぐのであった。

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