第70話 ダンジョンの異変 その6
早めに朝食を取り、宿の人達に見送られ、一旦母上達を送り届けた。
そして、ギルドへと移動し、昨日の集計額の報告を受けた。
討伐した魔物の数も多かったので、一人頭8,218,528円となっていた。
いやぁ~、毎日凄いねぇ。
とは言え、このままだと、貯まる一方なので、使い道を考えないと拙いだろうな。
さあ、昨日の続きの開始である。
ゲートで昨日の池の畔まで飛んで、残りの空白エリアを埋めて行く。
それなりに、魔物の集団は殲滅して廻っているが、明らかに通常の第5階層に出る様なレベルの魔物ばかりで、楽ではある。
まあ、しかし、相変わらず旨味の無いポイズン・フロッグは多数出て来て居るが。
3つの隠し部屋や、地面にポツンと置いてある宝箱を収穫しつつ、進む事3時間、ようやくフロアの3/4が埋まった。
今の所、まだ階層の階段も、ボス部屋も発見出来て居ない。
ちなみに、グリードは、レベル21まで上がって身体が一層軽く感じると、意気揚々としている。
渇いた場所を見つけたので、一旦休憩を兼ねて昼食を取る事にしたのだった。
「この分なら、午後一杯で、何とかこの階層も制覇出来そうだな。
やっぱり、幾ら体力あっても、湿地帯は鬱陶しいね。」
「本当に、湿地帯は何かジメジメしてるし、髪の毛に変な匂い染みつきそうで嫌。」
とさっちゃんも、同意する。
「徳士、このダンジョン終わったら、次は何処に行く予定なんだ?」
と父上が聞いて来た。
「うーん、そうだね。本当なら、北海道とかも考えたんだけど、もうすぐ冬本番だからなぁ。
南と言うか、西の方に行こうかな……。
城崎温泉とかにも行きたいし。」
と言うと、父上が、
「ああ、城崎温泉か! あそこは若い頃行った事があるが、実に鄙びた良い感じの所だったな。
おお、そうだ! 冬の雪景色が似合うと言えば、銀山温泉も素晴らしいぞ!」
とお薦めの温泉を教えてくれたが、
「まあ、温泉は良いけど、ダンジョンが無いと、目的の趣旨が旅行になっちゃうからね。
取りあえず、帰ったら、ダンジョンマップを一度チェックして計画立てるよ。」
と締め括った。
「なあ、アツシ、日本って何処でも掘れば、温泉出るのか?」
とグリード。
「いや、流石に掘ったら何処でも温泉って訳にはいかないだろ?
一応、温泉の定義ってのがあるから、ただの地下水って事もあるだろうし。」
と言うと、判った様な判らない様な顔をしていた。
でも、そう言えば、麻布にも温泉あったな。
深く掘っちゃえば、暖かい水出そうではあるけど、どうなんだろう?
「もしかして、うちも、庭を深く掘ったら、温泉出たりするんだろうか?」
とボソリと呟くと、
「「「おーー!」」」
と3人が唸る。
「その発想は無かったな。帰って相談してみよう。」
と父上が呟きつつ、深く頷いていた。
なんか、本当に掘りそうだよな。
「あ、でもそうか、土魔法で真っ直ぐ穴を掘るだけか。
でも、場所によって、地下水抜きすぎると、地盤沈下とかあるから、気を付けてね。」
と一応釘を刺しておいた。
残り1/4だが、満場一致で、先に俺が空からマッピングする事になった。
時刻はまだ午後1時だが、余計な所で躓かないとも限らないし、サクサクっと終わらせる方向にチェンジする。
そして、20分後、マッピングを終えて、戻って来た。
「おそらく、この先、4箇所に隠し部屋又はモンスターハウスがあるっぽい。
ちょっと寄り道にはなるけど、全部寄って、それからボス部屋に行こう。」
とルートを地面に書いて説明した。
「なあ、グリード、ワニの肉って美味しいのか?」
と俺が聞くと、
「いや、俺は蛇とかしか食った事ねぇな。アリゾナ辺りだとワニが居るが、どうなんだろう?」と。
目の前には、キラー・アリゲーターと言う、まんまワニ……しかも全長5m~7mと言う巨大なのがドロドロの池に浮かんでいる。
「うーん、取りあえず、全部殲滅しよう。
皮がドロップしたら、ベルトかハンドバッグにするかな?
みんな、丸呑みされない様に気を付けてね。」
と、突っ込もうとしたら、
「チョイ待ち! ワニって、寒さに弱いんじゃないか?」
とグリード。
ふむ、確かに。
「じゃあ、また凍らせる方向で行こう。」
俺達に気付いて、岸へと向かって一斉に集まったキラー・アリゲーターへ容赦の無いアイス系の魔法で封殺して行き、最後に俺がフローズンを掛けて完全に凍らせた。
「あれ? 光の粒子にならないね? 冬眠?」
とさっちゃんが首を傾げる。
あれ?ワニって冬眠するんだっけ?
と言うやり取りをしている間に、徐々に光の粒子となって消えていった。
ああ、なるほど。結構タフだっただけか。
まあ、案の定、肉のブロックもドロップしたので、今度人が集まった時に、試食してみようと言う事になった。
その後も何回か、魔物を討伐し、最初の隠し部屋らしき所にやって来た。
上空から見ると判るのだが、思いっきりいしの開き戸が地面にあるんだよね。
デカいから、上空からじゃないと、見つからない感じ。
怪しい穴にボタンっぽい物があって、それを押すと、岩の扉が ゴゴゴゴゴゴと地響きと共にスライドして行き、地下室に降りる階段があった。
「アツシ、第6階層とかボス部屋じゃないよな?」
とグリードが聞いて来たが、うーーん、どうだろう?
「第6階層への階段も、ボス部屋も確認はしてないけど、別の所に怪しい場所あったからなぁ。まあ行ってみれば判るだろ?」
と言うと、「まあそれもそうか。」と言う事で、地下への階段を降りると、上の扉が閉まった。
中は、かなり広く巨大なワニ……ジャイアント・キリング・アリゲーターが居た。10匹も。
そして、大きくて金色に輝く、ヒュドラが居た。
ヒュドラには、首が5つあり、高さが8mぐらいある。
全身が金色の鱗に覆われていて、見るからに堅そうである。
と言うか、これ、隠し部屋の域を超えてる。
下手すると、あのヒュドラはSランクかも知れない。
「あれ? ボス部屋?」
と俺が呟くと一斉にジャイアント・キリング・アリゲーター……長いからワニが俺達目掛けて突っ込んで来た。
ヒュドラも、5つの首が大きく息を吸い込み始めている。
「ヤバい、ブレスも来るぞ! 後ろに隠れて!!」
と咄嗟に先頭に出て最大限でシールドを10枚展開した。
シールドが展開した瞬間にヒュドラの5本の口からそれぞれ、火、水、風、土、光のブレスが飛んで来た。
「ドドドドドッコーン」
と一気にシールド5枚が突破され、慌てて、更に5枚を追加で張り、それを突破されて、更に5枚追加した所で、ブレスを防ぎ切った。
それと同時にワニも尻尾や牙、口をシールドに突っ込んで来て、シールドが割られた。
刀を抜いて、付与を掛けてワニの1匹に突き刺すが、ガッキーンと音がして、鱗が堅くて刃や滑る。
「ヤバい、堅いぞ。」
ヒュドラもブレス直後の硬直から復帰して、こちらへとユックリ近付いて来る。
どうやら、ブレスには貯めが必要な様で、ブレスの連発は無さそうである。
兎に角、邪魔なワニを排除しないと、動きが取れない。
「口を開けたワニに火魔法でも何でも良いからぶち込め!」
と叫び、ギュウギュウに圧縮した真っ白な炎のファイヤーランスを5発、身近なワニの口にぶっ込むと、
シュッドーーーーン
と轟音と共にワニが弾けて光の粒子となった。
他の者も、同じ様に、噛みついて来るワニに高速回転するアイスニードルを撃ったりファイヤーボールを3発入れたりしているが、ダメージを受けて動きが鈍ったものの、倒すまでには居てってない。
俺は、他のワニ2匹の口に、ファイヤーランスを5発を各々撃ち込む。
シュッドーーーーン
シュッドーーーーン
と2匹が光の粒子になって消える。
グッシャーンと、さっちゃんのアイスランスで1匹。
ドッカーーーンと、父上のファイヤーランスで1匹。
グリードはまだ苦闘している。
更に続けて3匹のワニを俺が倒し、残りの2匹は父上とさっちゃんで1匹ずつ倒した。
残るはヤバそうなヒュドラである。
ワニに手こずっている間に、直接攻撃出来そうなぐらいに近づいていて、尻尾を横薙ぎに振って来た。
「くぅっ……避けろ!」
と俺が叫ぶが、グリードの回避が遅れ、防具の上から腹にヒットし、10m程飛ばされた。
「グリード!」
俺は、付与を更に重ね掛けした刀で首の1本に斬り掛かるが、首の半分まで刃が入った所で、止まってしまい、援護に入った首に頭突きされ、飛ばされた。
飛ばされる際、慌てて、シールドを展開し、ダメージは軽減したが、刀は首に残ったままとなった。
空中で勢いを殺して、瞬時に刀の所へ戻り、刀を抜き様に、置き土産でファイヤーランスを傷口にぶっ込んでやると、傷口から爆発し、首が1本ぶっ飛んだ。
「「「「グギャー」」」」
と残りの4本の首が悲痛な叫び声を上げる。
ヒュドラは、非常に高い再生能力を持つ魔物で、首を刎ねても、胴体を切っても、尻尾を刎ねても、生えて来る。
ヒュドラを倒す方法は、全部の首を刎ねて、その切り口を焼いてしまえば、再生されない。
もしくは、魔石を破壊するか。
しかし、魔石は胴体の一番分厚い奥にある為、殆どの場合、首を刎ねて焼く事になる。
先程の首はファイヤーランスで焼いたので、再生されない。
残り4本。
グリードの所へは、さっちゃんが駆けつけて、上級ポーションを飲ませて居た。
意識はある様なので、大丈夫だろう。
父上はそんな2人の盾役をしている。
俺は、刀を一旦鞘に収め、アイテムボックスから、秘蔵っ子の一振りを取り出した。
ふふふ、これぞ、俺の自信作。
雷光石と言う石を砕き、白竜の爪と魔鉄とミスリル、オリハルコンを配合して、ドワーフのおっちゃんと5日間ぶっ通しで叩き上げた、その名も雷光竜剣。
しかも、ドラゴン種の魔石を圧縮して作った魔結晶を柄の部分に埋め込む事で、永続的な超強化を付与された魔剣。
ドワーフのおっちゃん曰く、
「これで切れない物は無い。多分な!」
と酔い潰れながら、寝言で呟いていた程の一本である。
これで、一気に始末してやるぜ!
「ふっふっふ、とうとう俺にこの刀を抜かせたな。
目に物を見せてやるぜ!」
と叫びながら、一瞬にして首の下へ接近して、居合いで一太刀。
首がスッパーーーンと飛んだ。
「「「グギャーーー」」」
そのまま横に飛んでシュンシュンと目にも止まらない程の斬撃を浴びせて残りの首を切断して行く。
「「グギャーー」」
「グギャー」
そして、更に傷口にファイヤーボールと押しつけて焼いて廻る。
首を全て無くし、動きの止まったヒュドラの巨体が音も無く倒れ込み、
ドッターーン……
と地響きを上げた後、目映い程の光の粒子が身体や首から出て消えて行った。
「ふぅ~ なかなかの敵だったが、俺の相手にはまだまだ1000年程届かなかったな。」
と言いながら、刀を一振りして、鞘に収めた。
「「「おぉーー!」」」
パチパチパチパチ。
「旦那様すっごーーい!」
とさっちゃんが飛びついて来た。
「ははは、もっと褒めてくれて良いんだぞ?」
と言うと、ホッペにチュッとされた。
「徳士、いきなり、厨二臭い台詞を吐いたと思ったら、凄いな、その刀! ちょっと見せてくれよ。」
と父上。
あれ? 厨二臭かった? あれれ?
俺は無言になって刀を差し出すと、父上が引ったくる様にして、受け取り、ソッと抜いて、刀をシゲシゲと眺めていた。
そして、ヒュドラの後には、大量のドロップ品が落ちていた。
それと同時に、奥に宝箱が2つ、その隣には、第6階層への扉と転移の魔方陣が現れた。
「あれれ? やっぱりボス部屋だったのか。」
まずは、手分けして散乱しているワニのドロップ品を収納し、更にヒュドラのドロップ品、そして2つの宝箱を開き、中身をチェックした。
「おおお、これは凄いな。」
とはしゃぐ俺。
「「「…………」」」
余りの豪華さに、言葉を失う3人。
1つの宝箱からは、マジックテントが1つ、スキルカードが10枚、上級ポーション10本、ストレージが付与された腕輪が5個。
もう1つの宝箱からは、ミスリルのインゴットが10本、魔鉄のインゴット10本、オリハルコンのインゴットが5本、アダマンタイトのインゴットが3本、高純度の魔結晶が1つ出て来た。
先のスキルカードは、鍛冶1枚、錬金1枚、鑑定1枚、水魔法(上級)1枚、火魔法(上級)1枚、土魔法(上級)1枚、風魔法(上級)1枚、光魔法(上級)1枚、闇魔法(上級)1枚、時空間魔法(上級)1枚だった。
「うっほーー、凄いな、大盤振る舞いだな。」
と喜ぶ俺。
「ねぇねぇ、旦那様、この階層のボスって、かなりヤバい奴だったんじゃないの?」
とさっちゃんが聞いて来た。
「だね。普通にSランクぐらいの魔物だったと思うよ。
普通にダンジョン最下層の最終ボスのレベルだね。
まあ、普通はこんな浅い階層に出て来ないよね。運が良かったよ。ハッハッハ!」
と俺が笑うと、ガーーンって顔をしていた。
父上とグリードは、今更ながら、少し顔色が悪かった。
一応、念の為、全員にハイヒールを掛けたが、顔色は戻らなかった。
一旦、第6層に入り、様子を見ると、ジャングルステージになっていた。
そして、一旦第5階層に戻り、ゲートでショートカットして、隠し部屋やモンスターハウスを潰し、宝箱をそれぞれ収穫した。
せっかくだから、ボス部屋の転移魔方陣で、第1階層の初回起動時に作られる小部屋に戻り、そこで少し打ち合わせをしてから、ギルドへと向かったのだった。
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