第69話 ダンジョンの異変 その5

 予告通り日曜はお休みして、ノンビリと過ごし、英気を養った。

 そして、月曜の朝、双葉と母上とピートを家に送り届け、草津へとトンボ返りする。

 一応、夕方には、再度迎えに行って、今晩も草津に泊まる事にしている。



 さっちゃん、父上、グリードと合流し、ギルドに寄ると、先日の買取金額詳細を教えてくれた。

 筋力1.5倍の指輪は、ほぼ予想通りだったが、火魔法(上級)のスキルカードだが、上級と言うのが良かったのか、予想よりも高額になっていた。

 あと、ポイズン・フロッグは駄目だな。

 あれは、魔石しか金にならない。

 意外にも金額を上げてくれたのが、シルクスパイダー、糸の値段が凄かった。

 どうやらシルクスパイダーの糸の単価が上がっている様である。 まあ、シルクスパイダーの糸で作ったシャツ等は本当に素晴らしいからな。


 結果、

 ポーション類2850万円+魔石621万円+スキルカード装備魔道具で11520万円+肉その他652万円+マッピングデータ1階層分300万円

 合計、1億5943万円、税金10%を引いて1億4348.7万円……一人頭、35,871,750円だ。


 これには、正直全員が驚いた。

 もっとも、市場価格ではもっと高値で売り出すのだろうけど、需要と供給のバランスで成り立っているとは言え、凄い金額である。




 ダンジョンの入り口を入って、第1階層に入った所から、ゲートで昨日の第5階層の位置へと戻った。

 どれ位の広さかは不明だけど、1/3すら到達してないと思う。


 昨日の続きで進み始めると、マッド・リザードマンの群れが泥のなから続々と這い出して来て、「キシャー」と威嚇してきた。


「さあ、張り切って行こうか。」


 各自が刀を手にして、ザクザクとマッド・リザードマンを袈裟斬りにして行く。

 引っ切りなしに出て来る群は、15分ぐらいで、やっと途切れた。


 初っ端から、多かったな。

 大量に落ちたドロップ品を集めて周り、先へと進んでいった。


 それからも、何度か魔物と遭遇し、3時間程の間に、マッド・スパイダー、ポイズン・フロッグ、マッド・ワーム等の群を殲滅して廻った。

 後は、デカくて凶悪な顔をした、デス・フラミンゴと言う、水鳥も居た。

 大きさは、3mぐらいで、空も飛べて、羽を広げると、7mぐらいになる。

 足が長く爪も鋭い。

 更に、鋭くて長い嘴はツルハシの様に尖っていて、岩でも何でも砕く程。

 魔力を帯びてカミソリの刃みたいに硬化した、矢羽根攻撃を空から仕掛けて来る。

 こいつらが、100羽程居て、アッと言う間に周りを取り囲まれて、一斉に攻撃して来た。


 結局、昨日に引き続き、禁断の『スタン・グレネード』を使って、麻痺させて、その間にザクザクと首を刎ねて廻った。

『スタン・グレネード』を使う際には、事前に遮音の結界を張ったので、こちら側は無被害である。

 俺が同じ過ちは繰り返さない、出来る男なのだ。


 で、このデス・フラミンゴのドロップ品だが、これがなかなかに美味しかった。

 魔石は勿論だが、鳥肉のブロックや、水鳥だけにダウンが入った袋が落ちていた。

 ダウンは判るが、袋付きとはちょっとウケたけどね。

 あとは、ピンク色の羽のカミソリで、これは切れ味が落ちないらしい。

 回収時に指を切らない様に気を付けないと、切れ味が凄くて、気付かない程だった。


 丁度、時間も良い頃合いだったので、昼食タイムにして、フラミンゴの肉で焼き鳥を作ってみたが、これが絶品。

 肉は、半分ストックする事に決定し、後日みんなで焼き鳥&BBQをする事に決定した。


 昼食を終えると、また進み始める。

 1時間程、討伐をしながら、進んだ所で……



「おーー、これはまた見事にデカい蓮の花。」


 辿り着いた場所には、直径600mぐらいの大きな池があり、辺り一面に、蓮の葉が浮かんでいて、デッカい花がニョキニョキと生えている。

 葉の大きさは、直径5mはありそうで、これなら人が乗っても全然問題無さそうである。


 池の真ん中には島があり、岩で出来た構造物が見受けられる。


「蓮の花があると言う事は、レンコンもあるって事かな?」


「ですよね?」


「美味いのかな?」


 と話していると、水の中から、大きな魔物の気配が漂って来る。


「居るな。デカいのが。」

 と俺が注意を促すと同時ぐらいに、水面が大きく盛り上がって、直径2m程のドレイク・サーペントが顔を出した。

「キシャーー!」

 と赤い舌をチロチロ伸ばしながら、サーペントが威嚇する。


 一瞬息を吸い込んだドレイク・サーペントから、緑色の液体が広がりながら、放たれた。


「ブレス!」


 慌てて、全員回避すると、緑色の液体がかかった場所が、見る見る岩に変わっていった。


「わぁー、厄介な。石化のブレス攻撃だな。 みんな、注意してよ!

 あれは、厄介だからね!」

 と叫びつつ、俺はファイヤー・ランスで攻撃を開始した。

 まあ、この手合いの魔物は、遠方からチクチクと魔法や弓で、攻撃して倒すのが一番安全である。


 しかし、予想はしていたが、耐魔法攻撃があるらしく、全く効かない。

 おまけに、捨て槍で思いっきり投げつけて見たが、滑らかな鱗で芯を外すと刺さらない。

 耐物理攻撃の方もかなり強力な様子。


「旦那様、何か、ヤケに防御強すぎませんか? あれ。」

 とさっちゃんが、半分呆れた感じで、サーペントを睨んでいる。


「うーん、表面が駄目なら、体内……口の中を狙うか?

 それとも蛇だから、寒さに弱そうだし、凍らせる? ああ、それ良いな。」


 と言う事で、一斉にアイス・ニードルやアイス・ランス等をドレイク・サーペント周辺にぶちかました。

「バシュバシュバシュ」

 とそれまで魔法攻撃に関しては避ける素振りが無かった、蛇野郎は、イキナリ焦った様に身をくねらせる。


 俺は、範囲魔法でブリザードを蛇中心に半径10mで発動した。


「キシャーーー……」

 と弱々しい鳴き声が響き、何とか池から這い出して逃れようとしている。

 更に追い打ちの、フローズンを掛けて、ピキピキピキッと一瞬にしてドレイク・サーペントが凍って行く。

 やがて10秒もすると、光の粒子になって消えていったのであった。




「おー、やっとか。

 あれー、宝箱も出てるよ。

 第5階層に出て来るにしてはかなり階層主程度に強かったけど、やっぱり中ボス的な存在だったのかな?」

 と言いつつ、ドロップ品を回収しに行く。

 かなり大きな魔石はBランクぐらい。そして、大きいサーペントの鱗、皮、肉がドロップ品だった。


「お、肉もあるのか!」

 とグリードが興味津々。


 取りあえず、ドロップ品の山を収納し、宝箱を開けると、中から、真っ白に輝く、ドレイク・サーペントの皮と鱗を使った、装備一式、更に石化無効が付与されたブレスレット、上級ポーション5本が出て来た。


「取りあえず、一服したら、あの真ん中の島の建造物を調べよう。

 まあ、ボス部屋って事は無い気もするけど、隠し部屋かモンスターハウスぐらいはありそうだよね。」



 お茶を飲んで、水分補給した後、蓮の葉の上を渡って真ん中の島へと到着した。

 島自体は半径20mぐらいの小さい島なんだが、島の中央には、岩で出来た、神殿っぽい建物がある。

 真ん中には、祭壇っぽい物があって、その上には、宝箱が普通に置いてあった。

 建物の中に入ると、そこが空間拡張された部屋で、かなり広い部屋に変わった。

 そして、建物が封鎖され、リザードマンの亜種の群れちリザードマン・キングが現れた。


「あー、モンスターハウスか。」


 空間拡張された部屋に100匹程のリザードマン・ウォーリアー。

 手には、槍や剣やラウンド・シールドを持っていて、なかなかに雰囲気がある。

 リザードマン・キングはなかなか立派な長剣を持ってた。


「これ、普通のリザードマンより強いから、みんな気を付けてね。」


 斯くして、戦いの火蓋が切られる。

 身体強化と身体加速を使えば、むざむざ剣や槍の攻撃を受ける事は無いのだが、奴らの皮膚は鱗に覆われていて、これがかなり堅い。


 早速と言うか、開始早々にグリードの刀が折れた。


「あーー、グリード一旦下がれ!」


 さっちゃんも、苦戦している。

 俺は素早くグリードに新しい刀を出してやり、鋭利強化と強度アップの付与を掛けて渡した。

 そして、全員の刀に同じく、鋭利強化と強度アップの付与を掛けて廻り、反撃を開始した。


 付与したお陰で、サクサクと首や胴体を刎ねて行く。

 半分ぐらいリザードマン・ウォーリアーを倒した所で、リザードマン・キングが戦闘に加わって来た。

 リザードマン・キングが炎のブレスを吐き出し、俺の警告で全員が、瞬時に回避する。

 俺は、リザードマン・キングを引きつけ、他の人にはリザードマン・ウォーリアーを担当して貰う。


 リザードマン・キングは、ラウンド・シールドを巧みに使い、俺の剣戟を流して行く。

 流石はキング種と言った所か、おそらくこいつは、Aランクより上かも知れない。


 俺は、一段ギアを上げて、更に加速して、攻撃を仕掛け、長剣を持つ右腕を切り落とした。

「グギャーーー」

 と悲痛な雄叫びを上げるキングだが、続く首を狙った横薙ぎの一太刀は、左腕のラウンド・シールドでいなされてしまった。

 そして、カウンターとばかりに、再度ブレス攻撃が来た。


「ブレス!」


 と叫び回避しようとしたが、射線上の真後ろにさっちゃんが居た。

 俺は回避を諦めて、咄嗟にシールドを張った。

 1枚目のシールドがパキンと音がして突破され、2枚目もすぐに突破された。

 3枚目で何とか、ブレスを防ぎ切れた。


 ブレス後の硬直が入ったキングの首を難なく刎ね、リザードマン・キングは光の粒子となった。


 残る、リザードマン・ウォーリアーをサクサク殲滅し、やっと戦闘が終了した。


「徳士、こいつら、第5階層にしては、かなり強くなかったか?」

 と父上が聞いてくる。


「ああ、スピードこそ、それ程早くはなかったけど、堅さだけだとダンジョンの第40階層辺りに居ても不思議じゃないよね。

 おそらく、キング種は、Sランク程度の強さに入ってたと思うし。」

 と感想を述べると、


「ここのダンジョンって、他より強いのが上層に居るダンジョンなのか? 全体的に強い?」

 とグリードが聞いて来る。


「うん、一概には言えないけど、ダンジョン全体がハードモードって訳じゃないと思うよ。

 おそらく、今回の異常事態でハードモードになってるけど、その内終息する感じじゃないかな?」


「ガハハ。まあ、気にしてもしょうが無いか。」

 と豪快に笑い飛ばしていた。


 その後、念の為、全員に鋭利強化と強度アップの付与の仕方をレクチャーし、何度か練習をさせた。


「特に、グリード、刀の扱いが悪いから、折れるだよ。」

 と言うと、


「うーん、どうも俺には刀の繊細さが合わないみたいだな。

 元々タガーナイフとか、ジャングルナイフとかは使ってたから、それを大きくした様な感じのが性に合ってるだよな。」

 とグリード。

 なるほど、じゃあ、ショートソードで良いか。

 と言う事で、ご要望に合いそうな、ショートソードを見繕って出してやると、その内の2本を選択した。


「うむ。リーチは若干短くなるが、これなら、扱いやすいぜ!」


 そして、探索を再開したのであった。



 泥濘む足下にも慣れ、徐々にではあるが、最初の頃に比べると、格段にペースが上がった。

 その後の2時間で、4回程魔物の集団を撃破したが、先のドレイク・サーペントやリザードマン・ウォーリアー程苦労する相手は無かった。

 一番多かったのは、旨味の少ないポイズン・フロッグで、魔石だけは沢山貯まっていったのだった。


「もう午後5時か。母上を迎えに行かないといけないから、今日はこの辺で終わりにするか。」


 これで、やっと50%ぐらいまでは、探索が終了した事になる。



 ギルドに大量のドロップ品の買取をお願いした後、母上に連絡して、母屋へと迎えに行ったのだった。


「どう? ダンジョンの方は、明日ぐらいで終わりそう?」

 と母上から聞かれ、


「うーん、多分ギリギリ明日で終わるとは思う。」

 と答えると、


「じゃあ、今夜で最後かな。」

 とちょっと名残惜しそうな母上だった。


 連泊していた宿の方だが、明日の朝でチェックアウトすると言うと、非常に残念がられた。


 草津だけではなく、現在かなり良くなったとは言え、温泉街は何処も客足が減っていて大変だったりする。

 まあこれでも鉄道の再開で活気が戻った方だろう。


 世間は、会社が再開したり、新しい分野の会社が起業したりと、少しずつではあるが、盛り返している。

 それに伴い、温泉街へも客足は戻りつつあるが、まだまだ先は遠い。



 その夜の夕食は、いつもよりも一際豪勢だった。

 どうやら、宿の方で、長期の宿泊に対するお礼らしい。ありがとう。

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