第58話 浜松町ダンジョン

 日本各地のダンジョン攻略を開始する事にした。

 兎に角、何階層まであるかは不明だが、どのダンジョンも、最低20階層ぐらいまでは進んでおかないと、他に冒険者達にダンジョンの有用性が示せないからね。

 それに、マッピングした地図もお金になるし、まあ、お金は島を買うぐらい余裕な程は持って居るけど、年間の生活費ぐらいはキープしとかないとな。


 カサンドラスで長年生きて来た俺にすれば、ある意味稼ぎやすい時代になった訳だ。

 まあ、従来の日本では、冒険者なんて3Kの代表みたいな物だもんなぁ。



 1人で黙々とダンジョン巡りの計画を立てて居ると、さっちゃんがやって来て、

「ねぇ、旦那様~、1人で何地図とにらめっこしてるの?

 もしかして、どっか連れて行ってくれる予定?」

 とさっちゃんが嬉し気に撓垂れ掛かって来た。


 あ、そうか。さっちゃん、どうするかな?


「なあ、そう言えば、さっちゃん、冒険者パーティーどうする予定?

 前田達と組んでるよね。

 これから、俺が本格始動し始めると、俺と一緒に行動するなら、あっちのパーティー抜ける事になるし、そうでなければ、暫くバラバラに行動する感じにはなるけど。」

 と聞いてみると、


「え? 何言ってるの? 私は、アッ君の『奥様』よ? 『お嫁さん』なのよ?

 一緒にパーティー活動するに決まってるのよ?」

 と何を今更?と言う感じで返事された。

 結婚時に、円満的にパーティーを抜けたそうだ。

 知らんかったよ。


 それなら、話は早いし、一気にさっちゃんのランクとレベルを上げるか。

 俺とさっちゃんの2人は、冒険者ギルドに行き、俺とさっちゃんのサブ・パーティー申請を行った。

 サブ・パーティー名は『カサンドラスの夢』とした。


 一応、今回の予定を知らせて、兄上も同行するかを聞いたんだけど、

「いやいや、それ完全に虐めだよ? 何で新婚バカップルのイチャラブを目の前で見せつけられないといけないの?」

 と速攻で拒否され、「リア充爆ぜろ!」と言われてしまった。

 いや、そんなに兄上達の前でイチャイチャなんてしてないんだけどなぁ。


 しかし、そんな兄上も、最近お付き合いしている子が居るらしい。

 もしかすると、俺達の披露宴パーティーに来てた元クラスメイトかも知れない。

 だって、その少し前までは、

「だぁーーー! いかん、いかんぞ! 何か仕事ばっかりで、出会いが無いぞ!!」

 と叫んでたからな。


 そもそもだけど、兄上って、かなりカッコイイと思うんだよね。

 顔も整ってて、優し気だし、イケメンと言っても過言では無い。

 身体は締まってて、細マッチョ。

 頭脳明晰で、腹黒さ……いや、作戦立案能力もあって、非常に優秀。

 おまけに、今をときめく、株式会社マジック・マイスターのCEOだし。

 だから、ヤル気にさえなれば、バンバンいけると思うんだけどね。



 ◇◇◇◇



「じゃあ、行こうか。」

「はい、旦那様!」


 ふっふっふ…… 初奴め……。



 ----


 ここ、東京の浜松町ダンジョン横に併設されてるギルド支部に、ダンジョン攻略には似つかわしくない、バカップル風の男女が1組やって来た。

 男性の方は、ある種のオーラを身に纏っている雰囲気ある出で立ちだが、その端正な顔は少しデレっと緩んでいる。

 年の頃は、17歳か18歳ぐらいで、身長が高く、イケメンの部類である。

 女性の方はと言うと、男性の腕に腕を絡め、もう羽が生えてそのまま浮き上がるんじゃないの? と言う程に満面の笑み。

 女性から見ても、美人と言うか、美少女と言うか、あどけなさと、妙な色っぽさを兼ね備えた長身美少女である。

 端から見ても、ウキウキ気分が丸分かりで、スキップしながらギルドに入って来た。


「っち……、リア充バカップルが!」

 と受付嬢のお姉さんの顔が一瞬険しくなり、小さく舌打ちする。



「いらっしゃいませ、今日はどのようなご用件でしょうか?」

 とプロの顔に戻り、マニュアル通りの挨拶を熟す受付嬢。


「あー、今日はこちらのダンジョンに入る予定なんですが、現在の最深到達階層と、出て来る魔物の情報があればと思って。」

 と男性の方が言って来た。


 女性の方は、相変わらず、ニコニコ顔で男性の横側を見上げている。


「はい、到達階層ですが、今の所、まだ第1階層だけです。

 まだマッピングも完了してませんので、第2階層への階段も発見されてません。

 一応、今の所、トラップ等の報告はないです。

 第1階層で出て来る魔物ですが、主にゴブリンの報告だけですね。」

 とそつなく返事をする受付嬢。


「なるほど、じゃあマッピングデータを起こして提出すれば、ギルドの常設依頼もクリア出来る訳ですね。」

 と男性が言って来た。


「ええ、是非ともご協力お願い致しますね。」

 と受付嬢が営業スマイルを返すと、


「判りました。情報、ありがとう。」

 と礼儀正しく頭を下げて、依頼の掲示板を軽く確認してから、出て行った。


 すると、隣の受付カウンターに居る同僚の受付嬢が、

「けっ……暢気に遊園地代わりにダンジョンデートかよ。爆ぜろ!」

 と毒突いていた。

 思わず、同意してしまい、苦笑する受付嬢だった。


 ----


 ここ、浜松町ダンジョンだが、JR浜松町駅前の国道をぶち破る様な形で出現した。

 その為、当初は国道を閉鎖する形でバリケードを組み、国道が寸断されたが、現在では、丸いバリケードを迂回する様に国道が、上りと下りで左右に別れている。

 当然、ギルド本部と自衛隊の詰め所もあって、国道はバリケードから10mぐらいオフセットしている。


 地域の住民は一時期避難していたが、バリケードが機能しており、魔物の心配が無い事が判ると、徐々に戻り始め、ギルドの開設と冒険者による需要を見越し、多くの店や、古くからあるホテルも営業を再開したのだ。

 しかし、地域住民の見込み程はダンジョン攻略が進行せず、微妙に肩透かしを食らった感じであった。


 ダンジョンのバリケードに作られたゲートには、非常時用の分厚い扉があり、何時でも容赦無く閉じられる様になっている。

 ゲートの脇には、自衛官が小銃や、タガーナイフ等を装備して待機しており、駅にある自動改札の様な機械にギルドカードを翳して冒険者の出入りを管理している。


 ピッ♪ ピッ♪


 2人がギルドカードを翳し、バリケードのゲートを潜ると、浜松町ダンジョンの入り口が見えて来る。

「さあ、さっちゃん、ここからは真剣モードだぞ。

 まあ、無いとは思うけど、油断は禁物だからな。

 身体強化、身体加速を使って、一気に第5階層ぐらいまで進もう。」

 と俺が言うと、


「了解しました旦那様!」

 と絡めた腕を解いて、敬礼して来た。


 旧国道のアスファルトから飛び出した大きな岩に開いた入り口から中に1歩踏み、階段を降りた。


 階段を降りた第1階層は、曲がりくねった洞窟が続いている。

「そう言えば何だかんだで忙しくて、月ダンジョン以外は、始めてだな。」

 と呟きつつ、合図をして、第1階層の洞窟をガンガン進み始める。


 5分ぐらい進むと、ゴブリンが出て来て、さっちゃんが刀で瞬殺。

 一見すると、ポワッとしてるさっちゃんだが、こう見えても、俺のブートキャンプ以降、佐々木流斬刀術を学び、俺に近付きたい一心で、清兄ぃからの手解きを受け、かなりの使い手となっている。

 更に一緒に暮らす様になってから、夜の魔王による鍛錬と共に、時間があれば、俺や兄上や父上と訓練しているので、かなり『出来る子』なのだ。

 こう見えてもな。


 しかし、カサンドラスであれば、第1階層~第3階層ぐらいまでは、冒険者がワラワラと潜っているので、あまりこう言う雑魚はお目に掛からないのだが、ここでは、最初に遭遇したゴブリンから、曲がり角の度に1,2匹のゴブリンが湧き出て来る。

 如何にこのダンジョンに潜る冒険者が少ないかが窺えるな。


「ちょい、ストップ。そこの右に、隠し部屋あるから。」

 と快調に飛ばすさっちゃんと呼び止め、隠し扉を開けて、『モンスターハウス』へと入ると、扉が閉まり、20畳ぐらいのスペースにワラワラとゴブリン30匹余りが湧いて出た。


 さっちゃんは、サンダー・アローを30発を発動して、一気に殲滅し、残る3匹を刀で倒した。

「いやぁ~、お見事! この階層だと、敵無しだな。」

 と俺が褒めると、頭を突き出して来た。

 幼稚園の時と同じく、優しく撫でてやると、「エヘヘ」とデレるさっちゃん。

 さっちゃんは、褒めて伸びる子なのである。


 ゴブリンのドロップアウトと同時に宝箱が出現した。

 中身は上級ポーションである。(時価100万円相当)


「おお、結構当たりじゃん。」

 と手に取ってポーションを見せるとさっちゃんが微笑む。


 モンスターハウスの扉が開き、また探索を再開する。


 別れ道が出ると右優先で進んで行く。

 第1階層は、思った以上に広く、曲がりくねっていて、マッピングスキルが無い、一般の冒険者達だと、地図無しでは厳しいかもしれない。

 まあ、ゴブリンしか居ないんだけどね。

 第1階層をハイペースで廻り、第2階層への階段を発見したが、途中の分岐の先のマッピングが終了していないので、先に第1階層のマッピングを優先した。

 結果、駆け抜けつつも1時間半ぐらいで、第1階層を完全に制覇した。


 先程発見した階段に戻り、第2階層へと降りて行く。

 第2階層も同じく洞窟エリアで、初っ端から道が3本に分かれていた。

 また右側優先で先へと進む。


 第2階層では、ゴブリンが3~5匹の集団で出て来る、奥に進むと、ゴブリン・アーチャーやゴブリン・メイジ、ゴブリン・ナイト等の進化種や、珍しい所ではレッド・ゴブリン等の亜種が出て来た。

 隠し部屋やモンスターハウスで宝箱をゲットしつつ、ドンドンと先へ先へと進んで行く。

 行き止まりになると、最後の分岐へゲートで戻り、時間短縮しつつ、全ての枝道を走破してマッピングする。


「ゴブリン、飽きたーーー!」

 とさっちゃんがボヤきつつ、瞬時に殲滅し、俺がドロップ品を回収して回る。


 第2階層は、第1階層に比べ、より複雑な分岐が多く、行き止まりやモンスターハウス等が多かった。

 初回特典なのか、宝箱の中身は良く、『鈴の結界』と言う設置すると、半径5mに魔物避けの結界が10時間張れる魔道具が出て来たり、上級ポーション、中級ポーション、魔鉄の剣等、色々出て来た。

 ゴブリン自体の魔石はショボいが、これらの宝箱からのアイテムだけで、ザッと見積もっても、下手な中堅サラリーマンの年収は稼いだ計算になる。

 カサンドラスでもだが、やはりある程度実力がある冒険者は稼げるな。


 しかし、あの支部の受付嬢、結構俺達の事を見くびっていたけど、帰って報告すると、滅茶滅茶驚くだろうなぁ……クックックと内心笑いがこみ上げる。


 そして、約2時間強で第2階層を走破完了した。

 第3階層への階段の横にセーフエリアで、一旦昼食を取る事にする。


「ここのセーフエリアは結構広いな。50畳ぐらいありそうだぞ。」


「ふふふ、そうね。一般の冒険者だと、ここで一泊したりする事になるのかな?

 ここに自動販売機置くと、儲かりそうね。」

 とさっちゃんが呟く。


「おお、それは面白いかもしれないね。今度提案してみようか。」

 とさっちゃんが作った愛妻弁当を2人で食べながらたわいの無い会話を楽しむ。


「さっちゃん、この肉じゃが、美味しいね。腕上げたね!」

 と褒めると、

「エヘヘ。ありがとーー。でも旦那様の胃袋を掴むのは、ハードルが高くて大変だよ。」

 と照れながら言っていた。


 食事の後、コーヒーを飲んで一服し、第3階層へと降りるのだった。

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