第38話 最後の平和な夏の始まり

 終業式も終わり、最後の平和な夏休みが始まった。

 ホームルームが終わり、一斉に歓声を上げるクラスメイト達だが、彼らにはこれから高校受験の苦行が待っているのだ。

 俺? 俺は志望校を兄上と同じ県下一の進学校に決めている。

 私立だが、学業優秀な兄上は、特待生として授業料免除となっているのだ。

 なので、俺も同じく特待生狙いである。


 俺の志望校を聞いた時、さっちゃんは、絶望的な顔をしつつも、「絶対に同じ高校に行く!!」と拳を握り絞めていた。


「でさぁ、アッ君! 夏休みに遊びに行く件だけど、どうする?

 何処行こうっか? うふふ。」

 とピョンピョンと飛び跳ねながら、嬉しそうに聞いて来た。


「ああ、夏休みのブートキャンプの件か。

 どうしようか? やっぱり海? それとも山が良いかな?

 何名ぐらい参加予定なんだ?」


「はい、はーい! 俺を忘れるなよ? そんな愉しげなイベ。」

 と前の席に座る前田智也が振り向きながら参加を希望した。


「あ、じゃあ、俺もな。」

 と佐藤凛太郎も寄って来た。


 うん、男性陣は勉強会したメンバーだな。


 あ、さっちゃんの顔が引き攣ってる。


「え? 何、何? 前に言ってた夏休みの企画?

 私も参加するー!」

「うちも参加するで!」

 と北島奈津子と西田愛子が加わった。


 ああ、女性陣も勉強会メンバーか。


「ふむ。じゃあこの6名で行くか! ブートキャンプ。」

 と俺が言うと、わーい!と愉しげに喜ぶ4名とは対象的に若干暗い影を浮かべつつ、


「ああ…私の一夏の体験が……」と小さく呟くさっちゃん。


 しかし、立ち直りは早く、

「よし、気持ちを切り替えて、詰めるわ!!」

 と両拳を握り絞めて居た。


「まあ、とは言え、家に帰って、ちゃんとご両親の承諾を取るんだぞ?

 4泊5日ぐらいの予定だから。あと、基本、キャンプだからな?

 計画書を作って後で、メールするから。」

 と言うと、全員が頷いていた。



 いや、本当はこれが無ければ、俺、北海道に行く予定だったんだよなぁ。

 まあ、終わってからでも良いか。

 よし、今夜の内に宿題終わらせて置こうっと。




 自宅に帰り、早速夏休みの宿題を2時間掛けて、工作物等以外は、全て終わらせた。

 まあ、小学校の頃の様な絵日記等が無いだけ全然気が楽である。

 面倒なので、もうトットと先生に提出したいぐらいの勢いなのだが、まあ我慢だな。


「さて、ブートキャンプの候補地でも選別するか。どうせなら、無人島とか最高だよなぁ……」

 と俺は鼻歌を歌いながら、PCで色々と検索を始めたのだった。



「あれ? あつし、何かご機嫌だね?」

 と兄上が聞いて来たので、ブートキャンプの話をすると、


「え?何?その愉しそうな企画!!

 良いなぁ~。俺も行きたいなぁ~。

 でもさ、中学生で無人島は流石に厳しいんじゃないの? あつしは良いけど、他の子達の親とか駄目だろうし。

 あと、無人島と言っても、所有者居たりするからね。

 それに、他の子達居ると、ゲートとか使えないから、船で渡る事になるし、保護監督者の問題とかあると思うよ?」

 と兄上が教えてくれた。


「そうか……。所有者が居たりするのか。うーん、保護監督者までは考えて無かったな。

 まあ、じゃあ無難などっか船で渡れる島でキャンプするかなぁ。」




「フフフ……見つけたー! 兄上、あったよ!無人島!!

 しかも、上陸する為の船もチャーターで出してくれるんだってさ。

 一応、キャンプ施設として最低限のシャワーや、湧き水もあるらしい。これ良いじゃん。

 早速予約しようっと。


 そして、ブートキャンプの計画書を作成して、全員にメールで送信した。

 早速全員から、興奮したチャットが返って来た。

 どうやらお気に召したらしい。


 費用は、交通費が往復で2万円掛からないぐらいだし、宿泊費と言うか、島の借り賃は4泊で人数関係無く20万円と激安だし、一人頭約34000円ぐらい。

 食費は、各自米を持参する様に言ったぐらいで、後は俺のアイテムボックスの中に腐る程の肉や魚も入ってるしね。

 テントは、俺の持ってる奴を使うので、問題無し。


 あ……兄上が、凄く羨ましそうに俺を見てる……。


「兄上は、夏休みどうするの?

 何か計画立ててる?」

 と聞くと、


「ああ、ほら俺、高2の夏じゃん。 だからみんな大学受験に入っててさ、目の色変わっちゃってるんだよね。

 まあ、俺はあんまり関係無いから、バイクの免許取って、バイクでツーリングでも行こうかとは思ってるんだよね。」

 と仰っておられました。


「え? 何それ。それ羨ましいぞ! 俺も北海道に連れてけーー!」

 と言ったんだが、


「ああ、あつし、バイク免許取り立てだと、1年間は2人乗り禁止だから、無理っ!」

 と連れないお言葉。


「良いもん……俺、空から付いて行ってストーキングしてやるもん!!」

 と言うと、爆笑された。

 いや、俺、結構マジだからね?




 さて、ブートキャンプ参加者の5名だが、何故か俺の立案した計画書を見たご両親が、

「ああ、佐々木君の企画なの? じゃあ、楽しんでらっしゃい。」

 と満面の笑みで一発OKが出たらしい。 不思議だな。



 ちなみに、余談だが、何故俺達兄弟が、ポンポンと無人島を予約したり、バイク購入を決めたりしているか?と言うと、実はそれなりに収入があるからだ。

 個人名義の口座には、この歳にしてかなりの桁の現金がプールされている。


 理由は、簡単で月ダンジョンである。

 流石に、魔石とか魔道具等は販売出来ないが、金やプラチナ等の稀少金属はそれなりに売れる訳で。

 ただ、あまり一気に大量に流す事は出来ないので、偽装の魔道具を使って、日本全国の質屋等に少量ずつ流し、現金収入を得ている。

 そして、時々全国の孤児院等の施設へランドセルであったり、洋服であったり、現金であったりを寄付したりもしている。

 まあ、あまり手広くは出来ないんだけどね。


 両親は、そんな俺らを信用してくれているので、ある程度自由にさせて貰っている訳だ。

 やっぱり、信用って大事だよね。



 夕食の時、ブートキャンプの話をすると、両親は了承しつつも、羨ましそうにしていた。


「良いなぁ~。青春だなぁ~。」

 と父上が遠い目をしていた。



 そして、夕食後、俺と兄上は、日本政府への分厚い警告書を作成し、首相官邸へ届ける事にした。

 内容は、夏休みの終わり頃に、全世界レベルで魔物が発生する事に対する日本の在り方についてだ。


 その資料の中には、スライムやゴブリン、オーク等々、代表的な魔物に関する写真や情報も入れている。

 そして、最後に、決して核兵器を使わない事と太字で大きく書いておいた。


 だって、核兵器を使っても滅びるのは都市と人間だけだからね。

 魔物相手には、通常の弾丸もミサイルも、核兵器も効果が無い事を知らせた。


 対抗可能な武器は、魔力を込められた武器による攻撃か、魔法のみである。

 一部の刀鍛冶が鍛えた日本刀の中には、その効果がある事が判っている事も記載した。

 余り威力は無いが、対抗しうる武器の作成の為に魔石の粉を配合した金属の作り方を書いて、魔石も数個おまけして同封しておいた。


 さあ、これをどの程度真剣に受け止めてくれるか?だな。

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