第39話 ブートキャンプ
夏休みに入り4日後、俺達は今年から始めたばかりと言う、貸し切り無人島へ向かう為、電車を乗り継ぎ漁港へとやって来た。
漁港へ辿り着くと、島のオーナーである漁師のおじさんが、話掛けてきた。
「あんたらが、予約してくれた佐々木さん御一行様ね?」
「ええ、俺が佐々木です。この度は宜しくお願い致しますね。
いやぁ~、しかし写真で見る限り、素晴らしい島ですね。楽しみです。」
「あんたら、荷物少なかけど、大丈夫かい?
島には、トイレと飲み水はあるけっど、売店も、何もないとよ?」
と心配そうなおじさん。
「ええ、そこら辺はちゃんと準備してますし、大丈夫です。
何かの際に備え、非常食も用意しているので、ご安心下さい。
最悪、無線を入れれば翌日には来て貰えるんですよね?」
「おう、それは任せとき。ちゃんと迎えに行くから。」
と言う事で、漁船に乗り込み、漁港から2km程離れた無人島へとやって来た。
木製の桟橋(かなり老朽化)から上陸し、去って行く漁船に頭を下げながら手を振った。
「さあ、まずは、設営だな。」
と俺が言うと、
「なあ、佐々木、本当に俺達テントとか持って来てないけど、大丈夫なのか?
お前の荷物もそんなにデカく無いんだけど……。」
と心配そうな前田が聞いて来た。
「ああ、心配は要らないよ。ちゃんとこの中に2貼入ってるから。」
と言うと、ホッとした表情をしていた。
海岸の砂浜から島の奥に向かい、10分もしない場所には、トイレや湧き水の湧く炊事場がある。
どうせ後1ヵ月ぐらいで、この世の中の常識が激変するので、俺はマジックテントを使う事にしている。
そして、このブートキャンプの間で、この5人には魔力感知、魔力操作、身体強化ぐらいは身に着けて貰う予定なのである。
幼稚園時代から一緒に過ごした、気心知れているこの5人には、是非とも激動の時代を生き延びて欲しいと思っている。
「テントはこの辺りが日陰で、炊事場やトイレにも近いから良さそうだな。近くに小川もあるし。
で、だ。ちょっと今から全員にお願いと約束をして欲しいんだが、大丈夫か?」
と俺が切り出すと、
「「「「「何?」」」」」
と全員が少しビビっていた。
俺は、マジックテントを2つ、リュックから取り出した(実際はアイテムボックスから取り出したんだけどね)。
畳んだ状態でもリュックのサイズより、かなりのサイズのテントが出て来た事で、声無く驚く5人。
「あー、不思議だと思うだろうけど、こう言う物なんだよね。まあ、後で説明するから。」
と言って、サクッとテントを広げると、
「「「「「うわっ!!」」」」」
と瞬時に設営出来た事に驚く5人。
2貼りのテントを展開し終わって、1つの中に手招きすると、更に
「「「「「えーーーー!?」」」」」
と驚きの声を上げる5名。
前田なんか、
「え?マジで?」
とか言いながらホッペを抓っていた。
「まずは、始めにこれはお前達を友とした上でお願いしたい。
これからの4日間の内容で、知った事は暫くの間、黙って胸の内に収めて置いて欲しい。」
と俺が頭を下げると、全員が力強く頷いてくれた。
そこで、俺はこれから先に起こる事を説明し始めた。
~~~
「と言う訳で、このブートキャンプはただの遊びだけでなく、この夏が終わった後の君達全員の生存率を上げる為にと考えているんだ。
どうだろうか?」
と聞くと、全員が目をキラキラさせて、
「よっしゃー! 速攻でマスターするぜ!」
「信じるよ! アッ君の事、私信じてるから。」
とか声を上げていた。
「しかしよー、佐々木、これなら下手なホテルとか要らなくね?」
と凛太郎が呟く。
「確かに、これは凄いテントだわ。うちの家よりも快適かも。」
と奈津子……通称なっちゃんも同意してた。
その後、男女でテントを別けて、部屋割りをし、早速魔力感知の訓練を開始したのだった。
魔力感知の初歩として、俺が手を取り魔力を流す事で、強制的に魔力を感じ取れる様になったが、自分の中の魔力を感知するのには、かなり時間が掛かった。
「ここらで、ちょっと休憩入れようか。」
と言って、テントに備え付けの、冷蔵庫から、冷たい飲み物を出すと、
「わぁ!冷たい。何それ、凄い!!」
とさっちゃんが興味津々で冷蔵庫を開けて、中身を見て驚いていた。
「いやぁ~、初日ってのに、何か、うち、一生分驚いた気がするわ。」
と愛子ちゃん。
「しかし、本当にこの中って快適だよなぁ。
こんなのあるなら、俺、一生テント暮らしでも良いかな?って思っちゃうわ。」
と前田が笑ってる。
ははは、前田よ、これかなりヤバい素材で作られた、ワンオフ品だからな? 買うと……そうだな、こっちのお金にして、軽く1000億円は堅いぞ? 言わないけどね。
しかし、こいつら、かなり状況の理解が早くて、逆に驚いたんだけど、何か俺のしらない、こう言う小説なんかが巷で流行ってるらしいだわ。
主人公が、異世界に転生とか、勇者召喚される感じのがあるんだって。
え?何それ、俺の人生そのまんまじゃん! って内心驚いた。
仲間と一緒に魔王を倒して王女と結婚とかって、色々とバリエーションあるらしい。
「ふ、ふーーん、面白そうだな。今度読んでみるよ。」
一休みを終えて、俺は、一足お先に、夕食のBBQの準備を外に始めてたんだけど、テントの中から前田が飛び出して来た。
どうやら、魔力感知の1番手は前田らしい。
そして、2番手がさっちゃん。 少しホッとした顔をしてた。
残り3人も、夕食までに魔力感知を物にして、みんな笑顔でBBQを開始出来た。
「佐々木!! 何だよ、この肉、滅茶美味いんだけど!」
「だろ? 高級な肉だからな。 まだまだ沢山あるから、食っとけ!」
と言うと、嬉し気にバクバクと食っていた。
「ヤバいで、この肉! せっかく夏に向けてダイエットしたのにーー!」
と愛子ちゃんの悲痛な叫びで、全員大爆笑してた。
戦時中は、こんな心穏やかな時間無かったなぁ……と思わずシミジミとしていると、
「おいおい、なんだー、佐々木、何か暗い顔してないか?」
と勘の良い凛太郎が肩を組んで来た。
「いや、明日の朝食は何にしようかと、ちょっと考えてただけだよ。」
と言うと、
「ん? 肉で良いんじゃないか? みんな喜んでるし。」
「いやいや、朝から肉はないだろ?肉は。」
と言うと、爆笑してた。
「お前ら、まだまだ食えるなら、極上のステーキ焼いてやろうか?」
と言うと、男共は、ガッツリ食えるらしいが、流石に女性陣は1枚を3人で別けると言っていた。
俺は、ミノタウロスの美味しい部分のヒレ肉のブロックを取り出して、分厚いステーキを6枚切り出した。
塩胡椒で下味を付け、コンロの上に鉄板を置いて、油を溶かした。
油の良い匂いが漂い、火加減を調節しつつ、6枚のステーキをデンと置いた。
ジューーっと良い音がする。
蓋をして熱を浸透させつつ、裏返し更に蓋を閉めた、最後はブランデーで軽く香りを付け、スライスしたニンニクのをきつね色に焼いた物を乗せて皿へと盛り付けた。
「さ、冷めない内に。
良い肉だから、わさび醤油か、カラシ醤油か、塩だな。」
と小皿に3種類のつけダレを用意してやった。
肉はミディアムに火が通っていて、厚さ2cmの肉塊から何とも言えない香りがしてくる。
全員が、肉を切り、フォークで刺してタレを付けてパクりと食べ、絶叫していた。
「アッ君!!!! ヤバいよこれ!!」
「うっめーーー!」
「なんじゃーー、美味すぎる。」
「はぁ~、美味しいでぇーー!」
「佐々木!お前は天才だ!」
うん、いつも通り、良い感じに焼けたな。
しかし、これを一度食っちゃうと、和牛が物足りなく感じちゃうんだよね。ごめんな。
と心の中で手を合わせるのだった。
夕食後、5人はテントの中で、足を投げ出し、腹を圧迫しない様に後ろでで支え、フーフーと言っていた。
「あかんって、これはなんぼ何でも、食べ過ぎやっちゅーねん。
どないするの、結局ステーキ1枚食べてもうて……」
とは愛子ちゃんの悲痛な叫びである。
「ヤバいよね。私もここ数年で一番食べちゃったわ。
水着がヤバいかも。」
とさっちゃん。
「さっちゃん、こうなったら、もうアッ君に責任取ってもらえば?」
となっちゃんがフーフー言いながらも、不穏な事を口ずさみ、ニヤリと笑う。
その悪魔の囁きに、ハッとした顔で「その手があったか」と呟くさっちゃん。
無いからな?そんな手は。
「しかし、佐々木よぉ~、お前、本当に隙がねぇ~な。
頭良くて、スポーツ凄くて、おまけに料理までって、超人じゃん。」
とお腹を擦りながら、苦笑いする前田。
「さ、そろそろ、魔力操作の訓練始めるぞ!
出来るまで、今夜は寝かさないからな?」
と俺がニヤリと笑うと、みんなが、ビクッとしてた。
その後、魔力感知程は苦労せず、1時間程で全員が魔力操作を習得出来た。
ステータスの表示が出来る事を教えると、全員が驚いていた。
「これ、まんま、ラノベの世界じゃん。」と。
そして、お風呂タイムとなり、全員がテント内とは思えぬ広いお風呂に驚き、いや、そもそもテントに風呂自体が異常なのだが、既にそこは問題にすらなってなかった。
女性陣は別れた後、全員で長風呂を堪能したらしい。
「このテント、本当にヤバいわね。」
「でも、ええなぁ~、さっちゃんは。これはアッ君逃したらあかんで?」
と愛子ちゃんの煽りが入って、さっちゃんのヤル気が漲っていたのだった。
そんな女性陣のキャッキャウフフの声も、テントの遮音のお陰で、テントの外には全く聞こえない。
男性陣は、風呂に入った後、リビングで冷たい麦茶を飲みつつ、話をしていた。
「なあ、佐々木。このブートキャンプ、誘ってくれてありがとうな。」
「ああ、俺も。本当に来て良かった。ありがとう。」
とシミジミとお礼を言う、2人。
「ははは。何だよ急に。
まあ、前々から機会を設けて、いつものメンバーには教えたいと思ってたんだ。
しかし、やっぱり泊まりがけじゃないと厳しいし、人の目があると拙いからなぁ。
まあ、丁度良い機会があって良かったよ。」
「ところで、このレベルって、あのレベルだよな?
魔物とかを討伐したら、経験値で上がって行くんだろ?」
と前田が聞いて来る。
「そうそう、俺もそこを聞いて見たかった。」
と凛太郎。
「ああ、レベルは魔物の討伐とかで上がるな。
まあ、猛獣でも上がるけど。」
「なるほど、じゃあ、夏過ぎまでは、レベルは上げられない訳か。
ちょっと残念だな。」
と凛太郎が、残念そうに呟く。
「うむ……まあそうなのだが、手が無い事も無いぞ?
まあ、明日身体強化と、最低限、1つの攻撃魔法でも手に入れたら、教えるよ。」
と言うと、目を輝かせ、
「おう!約束な!! 絶対だぞ? よーし、面白くなってきたぞーー!」
と凛太郎が咆哮を上げていた。
ちなみに、凛太郎は小さい頃から、空手をやっていて、中学生になった頃、色々で辞めてしまった経歴を持っている。
前田は、どちらかと言うと、運動神経は悪くないが、格闘技等には興味が無く、小説やゲームやアニメを好むインドア派であった。
両極端な2人だが、幼稚園の頃から、仲良く遊んでいた。
実際の精神年齢で言うと、親子程の歳の差はあるのだが、しかし、そんな彼らを、同世代の掛け替えのないと認識する自分も居ると言う、何とも不思議な感覚であった。
もしかすると、身体に心が引っ張られ、又は同化して行き、最後には色々な感情の誤差が埋まって行くのかも知れない。
ふとそんな事を考えつつ、眠りに就くのであった。
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