第34話 追い込み
時間は遡り、首相官邸の庭に槍が届いた後の話。
光魔法の照明弾に気付いた警備の物が、槍と手紙を回収し、総理の下へと運び込む。
宛名は首相宛で、差出人には『チーム佐野助』とある。
首相は生唾を飲み込み、封筒を開封する。
中から出て来た手紙と言うより、正確には、指示書には下記の内容が書いてあった。
・政府の緊急発表記者会見を手紙を受け取り次第、可及的速やかに執り行うべし。
・緊急発表の会場へは、お届けした槍を片手に持ち、鎧兜で身を固め、終始厳粛な雰囲気で行うべし。
・槍を見せつけつつ、○○○国に対し、下記を要求する事。
1)未帰還の拉致被害者全員を帰す事。
2)拉致被害者と日本人全体へ、国ぐるみの違法行為に対する謝罪をする事。
3)日本国内で暗躍する工作員や学校と言う隠れ蓑を使った団体、施設等を
撤去し、帰国させる事。
4)日本政府内や国会議員等になりすました工作員の名前を公表し、
全て帰国させる事。
・△国に対し、下記を要求する事。
1)自国民に対し、ねつ造教育を止め、建国の真実と歴史を公表する事。
2)日本国民に対し、謂われの無い言い掛かり行為や国際法等に反する行為を、
直ちに止め、日本に対し謝罪する事。
3)▽・▽▽▽▽大統領による国際法無視した▽・▽▽▽▽ラインを撤回し、
その過程で殺害した日本人漁師に対し謝罪する事。
と言う至極当たり前の事ばかりであったが、実際に日本政府はこれらの事を大々的には表に出してないので、その後に緊急招集して行った閣僚会議では、紛糾した。
結果、その一部のみを公の緊急発表とし、その他の要望事項は、別途別ルートで各国へと文章にて知らせたのであった。
○○○国は、槍による脅……説得が効いた様で、直ぐに反応があったのだが、△国はこれまでの反日教育が効き過ぎていて、とても国民には言えない状況となっており、そのまま黙り状態で時間だけが過ぎている状況だった。
俺は、それらの閣僚会議の内容を、全て官邸に送り込んだ槍に付けた魔動映像通信装置から情報を得ていた。
「さて、兄上、膠着状態ですね。
どうしますかねぇ。
この局面では、『善意の第三者』作戦は無意味かもしれませんね。」
「そうだな。別の第三幕を用意する必要があるかな。
まあ、仕込みに時間掛かるけど、そこら辺はあつしに頑張って貰って……ふふふ。」
とまた悪い笑みを浮かべる兄上。
笑顔が眩しすぎる。
それから数週間、夜な夜な俺は霞ヶ関周辺や、日本各地を飛び回って、仕込みをしたり、証拠を押さえたりと暗躍していた。
お陰で、スッカリ寝不足が板についてしまい、昼間の学校の授業中がヤバかった。
既に習得済みの内容ばかりなので、元々退屈していた上に、日々の野外活動(夜外活動)の所為で、単調な授業が子守歌に聞こえてならない。
そんな数週間を過ごしつつ、俺達は、2回程、首相官邸へ手紙付きの槍を送り、日本政府から△国へ圧力を掛ける様に促していた。
最初の1回だけは、指定したが、何故か首相は本件に関わる緊急発表の際、鎧兜と槍のセットで登場し、海外からは、サムライ大臣と呼ばれ、何故か人気となっていた。
△国の大統領は、最初この姿の意味が判らなかったのだが、最初の日本政府の緊急発表から4日後、○○○国に潜り込ませていた情報局員からの報告で、本当の意味を知り、ガクブルとしていた。
そして、日本政府が秘密裏に通達してきた要求に対し、本気で考え始めたのだった。
しかし、幾ら考えても自国の非を認める様な事を許容出来ず、打つ手無しで時間だけが過ぎていく。
日に日に日本政府からの圧力が増して行くが、これまでの日本と違い、高飛車に話し合いの場を持とうと提案しても乗って来ない。
更に、日本の国会議員として元自国籍を有していた者達へ、以前の様に動く様に打診するが、ヤンワリ断られる事態が続いている。
そして、最後に日本政府から来た際に区切られた期限の日付が迫って来ていたのだった。
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