第33話 第二幕

 第二幕開始からの7日間、俺は元凶である独裁者一家(但し国外に居る人物を除く)を完全に魔力マーキングした。

 新しく作った追跡魔法……『マーキング・トレース』でマーキングした人物や物に対し、方向や距離等を追跡出来る魔法である。


 ちなみに、この独裁者を限定するのが非常に大変であった。

 何故かというと、影武者が多過ぎて、1人1人を目視しつつ鑑定して廻る必要があったからだ。

 どれも一見は本物に見えると言う、驚きの似せ方であったし、周囲の接し方も、同じであったので、困難を要した。

 やはり、独裁者だけに、反逆による暗殺に神経を尖らせている様だった。

 まあ、一度マーキングしてしまえば、無駄なのだがな。



 第二幕は、大きく2つの作戦、『ロンギヌスの槍』作戦と『善意の第三者』作戦に別れている。

 最初は『善意の第三者』作戦だけを考えていたのだが、兄上が、

「なあ、あつし、『ロンギヌスの槍』作戦ってのもあるんだが、どうだ?」

 と黒い笑みを浮かべながら提案してきたのである。


『ロンギヌスの槍』作戦とは……俺がマーキングしたターゲットの真ん前を狙い、上空から槍をフルパワーで、1m先へ投げ込むと言う簡単な作戦である。

 勿論、建物内に居る時を狙い、強靱な建物を貫通させ、柄の部分にメッセージを入れた槍を投げ込むのである。

 メッセージには、『警告 次は1m手前だ By チーム佐野助』と言う簡素な内容だ。


「おおおお!! それエグいね! 流石は兄上。」

 とそのヤバい作戦を絶賛してしまった。

 今や、それだけチーム佐野助のネームバリューには、それだけの意味があるのだ。

 この物言わぬメッセージを一族全員に送り届ける事で、事態の深刻さを理解出来ない独裁者は居ないだろうと言う事である。


「え?でも、もし間違って当たっちゃったら、どうするの?」

 と聞くと、


「いやぁ~、その場合は、ドンマイって事で。」

 と笑っていた。


 ははは…………。


 それで、『マーキング・トレース』を作り、訓練する事になったのだが、訓練用のターゲットとして、兄上を随時追跡すると、


「ねぇ、お願いだよ、あつし。なんかストーキングされてる様で怖いから。」

 と4日間で根を上げられたのだが。



 そして、『善意の第三者』作戦はもっとシンプル。

 まずは、北側から国境を越えた人気の無い軍事施設へ向かって攻撃を仕掛ける……それも派手に。

 出来れば、遠距離で首都近辺の空き地とかに着弾しても面白い事になるだろう。

 そして、更に、今度は国境を越え、北側へも無人のエリアに攻撃を仕掛ける。

 あとは、放置。


 ただ、これは今の所、どうするか状況次第になってしまった。

 兄上曰く、

「そうすると、在留している米軍にまで被害が出ちゃう可能性あるし、出来れば巻き込まない方が良いよね。」

 との事だった。

 まあ、あれだけ日本に迷惑を掛け続けている奴らがどうなろうと、知ったこっちゃないんだが、そこに本件と関係無い他国の青年の命を巻き込むのは、本意では無い。

 それに、あまりにも第一幕が効き過ぎたみたいで、世界のパワーバランス的に不安定な気もするのでね。



 ◇◇◇◇



 と言う事で、第二幕の『ロンギヌスの槍』作戦の本番当日である。

 槍の数は5本。

 独裁者、その息子3人、娘1人の計5人へお見舞いする事になっている。

 まあ、正確には、親類もマーキング対象にしているが、軍部や文官や親類って、完全にトップの顔色しか見てないから、脅しの対象としては微妙なので、今回は対象に入れてない。


 夕食後、子供部屋で兄上と最後の作戦確認を行う。


「いよいよだな。手順は万全だし、まあ出来るだけ、当てない方が効果が高いから。」


「そうだね、ははは。当てない様に正確に1m先を狙うよ。」


「所で、槍だけど、本当に建物のコンクリートとかを貫通出来るの?

 それで槍自体が潰れたり壊れると、意味無いし、床下の地下深くに埋まってしまっても、メッセージが見えないから効果が薄くなるけど。」

 と兄上が心配そうにしている。


「うん、そこら辺は、大丈夫。まず槍に付与してるから、問題なく貫通するよ。破損もしない。

 で、対象となるマーキングと同じ高さで速度を減衰させる様にしているから、地下に埋まって見えないって事もないよ。」

 と俺が自信満々に言うと、


「うん、頼んだよ。そこがこの作戦の一番のポイントだから。

 2番目は、首相だな。ハハハ……本当に首相には同情しちゃうなぁ。こんな時に首相やっているなんて、何て運の悪い。」

 と急にニヤニヤする兄上。


「ハハハ。まあ確かに。」

 と2人で暫し笑う。




「お! ソロソロ時間だね。じゃあ知らせを楽しみに待っているよ。気を付けて!」

 と兄上が時計を見て声を掛けて来た。


「じゃあ、いってきます。」



 ◇◇◇◇



 そして、ここは、最近頻繁にお邪魔している、某独裁者の国の官邸? と言うか住み処の上空。

 マーキングした独裁者本人(影武者ではない)が、地下3階ぐらいに居るらしい。

 アイテムボックスから、槍を取り出し、入念に付与を掛けて、自身にも、身体強化、身体加速を発動する。

 何度も練習し、貫通力も確認したので、間違い無い。


 槍を片手に、大きく振りかぶり、深呼吸しながら、魔力と集中力を高めて行き、息を止める。


 そして、一気に振り投げた。


「ドッカン」

「ドッゴーーーーンドドドン」


 音速を超えた衝撃波が鳴り響き、殆ど動じに、建物の屋根を貫通し、地下深くまで貫通して行く破壊音が、静寂に包まれた豪華な官邸に鳴り響く。


 俺は、瞬時に適切な位置に移動し、2本目の槍をターゲットである娘の1m前に向けて発射する。


「ドッカン」

「ドッゴーーーーンドドドン」


 悲鳴や警報音と共に慌ただしい雰囲気が地上でしていたが、ゲートで次のターゲットの住み処まで移動した。


 先程と同様に長男の1m前を狙い投擲した。

 移動と投擲を繰り返し、次男、三男へも槍を届け終わった。


 その頃には、サーチライトが地上から夜空を照らし、不審な物が無いかを確認しているが、俺は既に、かなり離れた所に居るので、全く発見されていない。


「ふふふ、何処を探しているだよ。」


 そして、仕込みの仕上げである。


 俺は、日本の首相官邸の真上にゲートで出て、官邸の庭の上から、手紙を巻き付けた、メッセージ入りの槍を落下させて、庭に突き立てた。

 そして、光魔法の照明弾を庭に撃ち込んでから、自宅へと戻って来たのだった。


 時刻は、夜の9時5分。

 作戦開始からまだ5分しか経過していなかった。



「たっだいまーー。無事作戦成功です。」

 と兄上に敬礼する俺。


「ふむ。作戦成功おめでとう!」

 と兄上も敬礼して返してくれた。


 それから、兄貴をネットのニュースやTVニュース等を確認していたが、11時前の速報で政府からの緊急記者会見が入った。


 記者会見会場に現れた若干顔色の悪い首相の姿をみて、兄上と俺は思わず爆笑してしまった。


 そんな首相の姿を見て、緊急招集された記者達がザワザワとしている。


 首相官邸の庭に送った槍を片手に鎧兜に身を固めた首相は、1分程押し黙って記者を見渡し、槍の柄を一回床にドンと振り下ろし、一拍置いて静かに喋り始めた。


「遅い時間に記者の皆様に集まって頂いたのは、他でもありません。

 ○○○国への要望を全世界へ発信する為であります。


 ○○○国は直ちに日本人の拉致被害者の帰国準備を行って下さい。

 また、日本人へ対し、国際法にも人道にも反した行為を謝罪して下さい。


 我々日本は、こうした行為を許しません。


 また、△国へも伝えたい事があります。

 歴史や自分達が行った行為を歪曲したり、更には何でも日本の所為にするのを止めなさい。

 全ての証拠は揃っています。

 日本に対し、謂われの無い侮辱行為も挑発行為も慎み、己自信を振り返り、猛省して下さい。

 そして、全世界への今までの日本に対する言動の訂正をし、日本と日本国民に対し、速やかに謝罪する様に。


 報道各社の皆さんは、この発表内容を、寸分違わず、正確に報道する様に。

 以前の様な発言の一部を切り取った、歪曲や印象操作は行わない様にしてください。

 本日の緊急発表は以上です。

 ご静聴ありがとうございました。」

 と言って、厳かに一礼し、国旗へ一礼して会場を去って行った。


 何の質問も受け付けず、一方的に終わった緊急発表に、報道各社はあらゆる意味で沸きに沸いた。

 翌日の朝のニュースでも、ワイドショーでも、首相の格好と発言内容で、色んな憶測が飛んでいた。

 一部には、選挙用のパフォーマンスとか言う野党やコメンテーターも居たが、そう言う輩は数ヶ月前と違い、殆ど出演する事が無くなっていた。


 政府の緊急発表から2日後、突如○○○国からの謝罪と、残った拉致被害者の一時帰国が発表されたのだった。

 この劇的な展開に、世界が沸いた。


 海外からは、首相の鎧兜を見て、

「やはり侍の子孫はひと味違うな。」

「日本、すげー!」

 と絶賛する声が多かったが、一部の方からは、


「戦犯国が何を言ってやがる。」

 とかの批判もあったにはあったが、8:2ぐらいの割合で賞賛する声の方が多かった。


 そして、最後に付け加えられた△国であるが、今の所、△国政府から日本に対する動きは無く、ただ国民の間では、異常なまでに世論が紛糾していた。

 日本統治時代を知る老人達は、日本寄りの発言をするが、本来『親日罪』と言う日本を敵視する法律がある国である。

 しかも、事後法で幾らでも罪に問えると言う、法治国家とは言えない事がまかり通るお国柄である為、反日教育を受けて育った老人以外の世代は、

「日本へ宣戦布告だ!」

 と唾を飛ばしながら息巻いていた。

 中には、日本に対して、肯定的な意見を述べた老人を、青年が殴り殺したと言う事件まで起きた程であった。

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