第31話 作戦発動

 翌朝になり、父上と母上に昨夜の行動の説明をし、清兄ぃの下に現在4名を保護して貰っている事を伝えた。

 両親は、軽く驚いていたが、


「ふむ。そうか。俺に何か手伝える事はあるか?」

 と嬉しい返しをしてくれた。

 流石は、我が父上である。


「ありがとう。そう言って貰えると、本当に気持ちが楽になるけど、今の所は特にないかな。

 何か出来たら、直ぐに相談するので、その時は宜しくお願い致します。」

 と頭を下げたら、


「まあ、そう言いながら、多分サクッと何事も無く完遂しそうだけどな。」

 と笑っていた。



 ◇◇◇◇



 放課後、一度自宅に戻って着替え、清兄ぃの所へとゲートで移動し、4人の状況を確認した。

 4名は昨日とは打って変わって、終始満面の笑みで、本当に安心したていた。

 叔父上にも、お礼を言いつつ、ソッと金の延べ棒を1つ渡そうとしたが、受け取って貰えなかった。



 尚、懸念していた日本人4名が消えた施設の方だが、俺が仕掛けて置いた魔動映像通信装置の記録内容を見ると、あの血だらけの男は、本日の昼前に目覚め、血だらけの状態に驚愕しつつ、隣の部屋を見て絶句していた。

 そして、ガタガタ震えつつ、「アイゴー」とか叫んでいたが、ハッとして、必死になって、血の跡を掃除しまくっていた。


「なるほど、証拠隠滅に走るのか。これは参考になるなぁ。」


 つまり、独裁者の恐怖政治が、身に染みついていて、素直に報告して、処刑されるぐらいなら、何とか隠して、1日でも生き延びようとしているらしい。


 兄上がそれを見て、

「分かり易い奴らだな。これなら各収容所毎に一斉に連れ出せば、暫くはバレない可能性が高いな。」

 とニヤリと笑っていた。


「うん、俺もその可能性は考えた。ただ問題は、そうした場合の一時的な預かり場所なんだよなぁ。」

 と言うと、


「だよなぁ~。月ダンジョンで実体事移動出来るんだったら、何とかなるんだろうけどなぁ。」

 と兄上が同意しつつ、呟く。


「ん? 月ダンジョン? いや、行けるんじゃないか? ゲートで。」

 と俺もハッとする。


「行ける?」


「ちょっと、試すかな。」



 ◇◇◇◇



 結果から言うと、実体を伴っても行けた。

 夜寝てる間に居るのと同じ間隔だったんだけど、流石に1/6の重力の場所に暫く放置もキツいし、ダンジョン内のセーフエリア放置もキツいだろうな。

 特に全員お年を召している方ばかりだし。


 と言う事で、せっかく月ダンジョンに実体を伴って行ける事は判明したが、却下となった。


「そもそも問題は、例えば第一陣、第二陣、第三陣……となった場合、先に第一陣の段階で、政府がマスコミにリークしてしまうと、作戦遂行が難しくなると言う事だよね?」

 と兄上が聞いて来た。


「そうなんだよね。だから出来るだけ纏めて……と考えたんだけど、最大だと400名近い筈だから、100名100名で行ったとしても最大4回必要なんだよね。」


「例えばさ、最初の第一陣を官邸に連れて行く時に、政府が黙ってくれそうな何かを持参させておくってのはどうよ?」

 と兄上。


「ほう! そんな素晴らしい方法何かある?」

 と身を乗り出して聞くと、


「やっぱ、そうなると、弱みと飴玉かな。」

 と悪い顔で微笑む頼もしい兄上。


「ふっふっふ、お主も悪よのぉ~。」


「何を仰いますやら。お代官様こそ。」


「「ハッハッハッハッハ」」

 とまたバカ笑いする兄弟2人であった。



 ◇◇◇◇



 そして、夕食後、地図を見ながら、捜索済みのエリアと未捜索のエリアとに切り分けて、本日の予定エリアをチェックした。

 昨夜は39名しかチェック出来ていないので、今夜は100名を目指したい所である。

 既に、ゲートで大半の移動を熟せるので、数時間は捜索時間を増やせるのが嬉しい所だ。


「じゃあ、兄上、行ってきます!」

 と敬礼しつつ、ゲートで暗い国へと飛んだ。


 まずは、昨日置いて行った魔動映像通信装置を回収し、それから本日の目標エリアへ鼻歌交じりでバビューンと飛んで行き、該当エリアに入ると、随時アクティブ・ソナーで探りまくる。


 結果から言うと、この日27箇所のエリアで合計78名を発見した。

 発見はしたが、取りあえず、すんなりと面と向かって話が出来たのは、59名までだった。

 残りの19名は、日本人以外の配偶者と思しき同居人や、子供(と言ってもかなり大人)が居たりして、非常に接触し辛い状況である。

 さてと、どうした物か……。


 思い付いたのは、昨夜と似た方法だが、まず本人以外にパラライズを掛けて、部屋の中に入った。

 最悪、俺と話した事を忘れて貰えば良い訳だし。


 そして、本人を起こし、静かに会話を始めた。

 俺が日本人である事、救助に来た事を伝えると、大変驚くと共に喜んでは居たが、ちょっと複雑そうな顔も垣間見えた。

「(もし、日本に帰るとなると、ご主人やお子さんは置いて行く事になると思います。どうされますか?)」

 と真剣な顔で聞くと、深々と頭を下げて、

「(ありがとうございます。祖国に見捨てられたと思い、悲しみに暮れておりましたが、こうして迎えに来てくれただけで、満足しました。

 まあ、欲を言えば、もう一度この足で日本の地を踏みしめ、家族と再会したかったのですが、もうこの歳ですし、こちらで出来た家族と共にします。

 お気遣い、本当にありがとうございます。」

 と言いながら、涙を零していた。


 そこで、

「(では、ご家族へお手紙でも届けましょうか? 出来れば一緒に毛髪を入れて頂ければ、本人確認が出来るかと思います。)」

 と言うと、目が輝き、

「(直ぐに書きます。)」

 と急いで手紙を書き始めたのだった。


 俺は、毛髪を入れた手紙を受け取り、部屋を後にした。

 結局、この人の記憶は消さなかった……。



 同様に残りの18名にも接触し、本人の意思を確認したが、やはり18名も同様に残ると言う事で、家族へ宛てた毛髪入りの手紙を受け取った。

 せめてもう少し早ければ、状況が違ったかも知れないな……。

 配偶者への情がある場合もあったが、多くは子供の事が頭に引っかかり、立ち去った後の事を考えて、諦めた様だった。



 ◇◇◇◇



 その後の7日間で、合計279名を探し当て、その内の197名を連れて帰る事になった。

 最初の39名(内4名は清兄ぃが保護中)を含めると、236名が帰還する事になる。


 そして、翌日の夜、清兄ぃと兄上、それに先の4名を連れて、日本のとある山奥の広っぱに移動した。

 4名には帰還を諦めた82名から預かった、毛髪入りの手紙を託した。


「では、いよいよ本番です。大変恐縮ですが、こちらで受け入れのお手伝いをお願い致します。」

 と頭を下げると、


「はい、任せて下さい。少しでもお役に立てて、本当に嬉しい限りです。」

 とご老人も頭を下げた。


 清兄ぃと兄上は、寸胴で豚汁を温め、大量の握り飯をテーブルの上に並べて用意していた。


「じゃあ、行ってきます!」

 と声を掛け、ゲートで次々と飛び回り、ピックアップして行く。

 10名になると、一時中継地点へと送り、また移動してピックアップを繰り返した。

 100名を超えた段階で、一旦一緒に中継地点へと戻り、一休みする。


 豚汁と握り飯を頬張り、最後に魔力ポーションで気合いを入れ、またピックアップを繰り返した。

 そして、最後の7名と一緒に中継地点へと戻って来た。


「ふぅ~。やっと全員戻せた。」


「お疲れさん。一休みしたら、最後のポイントだな。」

 と兄上が、お茶を持って来てくれた。


「あと一踏ん張りだな。」


 30分程休憩し、全員に俺達の事は、絶対に口外しない様にお願いした。

 勿論政府関係者にもである。

 全員、恩を仇で返す様な事はしませんと堅く誓ってくれたので、そこら辺は信用している。


 まあ、何か不都合が起きたら、力業を発動すれば何とでもなるか。


 兄上は、最初の4名に託す、首相へ宛てた手紙を用意していた。

 内容は……本来日本国が救い出すべき日本国民を代わりに救助した。

 まだ生存が確認されている残留者が82名居るが、彼らは既に家族を持っていて、残す事による家族の不利益や報復を恐れ、帰る事を躊躇した事を書いてあった。

 救助された事は、公にして良いし、国民に拉致被害者の状況を正しく伝えろとも書かれてあった。

 そして、一方的な不利益を被った拉致被害者を速やかに家族の下へ送り届け、援助する様にも書いてあった。

 更に、最後の〆は、死ぬ気の本気で日本の憲法と法改正を促す内容をヤンワリと書いていた。

 署名は、『チーム佐野助 一同』となっていた。


「では、皆様、これから、日本国の首相官邸の庭へと送り届けます。

 おそらく、警備のSPとかが飛んで来ますので、申し訳ないですが、上手く対処して下さい。」

 と言うと、全員が強く頷いていた。


 そして、俺は首相官邸の庭へゲートを繋ぎ、全員を送り込んだのだった。


 勿論、ちょっと不安だったので、別途上空にゲートを繋げて、上空から動きを確認し、何かあれば直ぐに助けに入る予定であったが、余りにも人数が多いので、首相官邸内が一時パニック状態になり、寝ていた首相が叩き起こされ、事態が正しく伝わった。


 安心した俺は、清兄ぃ達の待つ中継地点へと戻り、後始末をして、清兄ぃを送り届け、兄上と帰宅したのだった。

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