第30話 偵察その2

 そして、俺は、別の棟の日本人を確認し、2人ともそれぞれリストに載っている事も確認した。

 1人の男性は、小さいワンルームの様な部屋に住んでいて、老人であった。

 寝ている様で、布団の上でジッと横たわっている。


 俺は、そっと部屋の内部にジャンプで飛び、申し訳無いと思いつつも、口を塞いで寝起きに騒がれない様にした。

 直ぐに目を覚ましたご老人は、驚きの為、「グゥーー」と声を出したが、俺がシーィと人差し指を立てて、ゼスチャーしつつ、


「(日本から救助にやってきました。まずは騒がないと約束して貰えますか? そうすれば手を離します。)」

 と小声で言うと、ウンウンと頷く。


 そっと手を離し、先程の2人と同様に説明をして、ヒールを掛けた事で、かなりボロボロになっていた身体も癒え、目に力が戻って来た。

 食事や米等を出して手渡すと、やはりご老人も、握り飯に涙していた。


「(そうか、ありがとう。本当にありがとう。長年日本を信じてまっておったよ。)」

 と両腕で手を握り締めて来た。


「(本当は、今直ぐにでも連れて帰る事は可能なんですが、まだまだ他にも所在不明の方が大勢いらっしゃいまして、大変申し訳ないのですが、あと最大2週間程お待ち頂けますか?)」

 と聞くと、


「(勿論だとも! ここまで薄い希望だけで、耐え忍んだんだ。

 それこそ、これだけ具体的で太い蜘蛛の糸を目前にしているんだから、あと2週間ぐらいは耐えてみせるさ。

 だから、1人でも多く一緒に連れ帰っておくれ。)」

 と泣き笑いしながらも、力強く言ってくれた。


 そして、他の日本人の情報を聞き、やはり同様に余り知らされてなかったが、もう1棟の日本人女性の情報は得る事が出来た。

 どうやら、現地の工作員と無理矢理結婚させられた女性の様で、時々顔に痣を作ってトボトボと歩いているのを見かけたが、最近は久しく見かけてないとの事だった。

 あれか、『女は三日殴らないと狐になる』だっけ? 本当に禄でもない奴らだな……。

 しかし、現地人のしかも工作員と夫婦か。かなり面倒なパターンだな。


 取りあえず、ご老人にまた近々に経過報告に来ますと堅く約束し、部屋を後にした。


 そして件の女性の部屋のベランダである。

 男性は、台所の床の上で、立て膝をついて、茶碗で酒を飲んでいた。

 隣の部屋では、女性が苦しそうに息をしている。

 鑑定すると、やはりリストにある名前で、しかも現在骨折と発病で熱も酷く、かなり危険な状態であった。


 うう……くそぅ~どうするよ、俺!?

 と瞬時に考えを纏め、男性に向かって『パラライズ』を発動し、完全に意識も飛ばした。

 ゴトンと男性が床の上に崩れ堕ち、死んだ様に動かなくなった。

 俺はその隙に、室内にジャンプして、女性にヒールを掛けた。

 すると、女性の息が穏やかになっていき、熱で赤くなっていた皮膚の色も収まって来た。

 ホッとしつつ、汗でグッショリと濡れているのでクリーンを掛け、アイテムボックスから取り出した、スタミナポーションを抱き起こしてユックリと飲ませた。


 1分ぐらいして、スーッと目を開けて、ボーッと見つめる女性に、

「(静かに聞いて下さい。大声を上げずに聞いて下さい。

 私は、日本から貴方方を救助にやってきた、佐野助と言います。)」

 と言うと、女性が涙を流しながら、抱きついて来た。


「(貴方は日本に帰る事を希望されますか?)」

 と聞くと、ウンウンと大きく頷いた。


「(判りました。

 では貴方を日本に連れて帰ります。

 その前に他の日本人の方の居場所を探す必要があるのですが、もう少しだけあと最大で2週間、耐えられますか?)」

 と聞くと、凄く悲しそうな顔をしてた。


 だよなぁ……。


 うーーん、どうしよう。

 隣の部屋に居るあいつ、邪魔だよな。あいつさえ居なければ、もっとスムーズだったんだがなぁ。

 いっその事、この収容施設の人だけ移動させちゃうか?

 と考え、


「(判りました。この家からは、貴方だけしか連れて行けません。

 隣の部屋の男性は置いて行きますが、問題ないですか?)」

 と聞くと、力強く頷いた。


 なるほど、やはり……だな。

 判りました。


「(ちょっとだけ、10分程、ここで静かに待って貰えますか?

 この施設に居る4人一緒に連れて帰りますから。では、今から消えますが、絶対に騒がず、外出する服装に着替えておいて下さい。)」

 と言うと、ウンと頷いた。


 俺は、ゲートで先程のご老人の部屋へと繋ぎ、部屋に戻ると、男性が声を押し殺しつつ、驚いていた。

 驚くご老人に、予定変更で今直ぐこの国を出て行くけど大丈夫かを確認すると、滅茶苦茶に喜んでいた。

 手早く着替えて貰い、渡した食料を全て回収し、俺の痕跡を全て消した。

 そして、最初の2人の部屋へとゲートを繋いで、2人で移動し、同様に予定変更を伝えると、静かに狂喜乱舞していた。

 だよな、そりゃあ嬉しいよな。


 そして、3人には、この部屋で待って貰い、先程の女性をこちらへゲートで連れて来た。

 4人は、何十年で、初めてお互いに言葉を交わし合い、泣きながら抱き合っていた。


 さて、何処に移動するべきか……。

 俺は、状況を一度考えつつ、ブレスレットを使い、清兄ぃに連絡を入れた。


 清兄ぃは二つ返事で、快く了承してくれたので、一気に道場へゲートを繋いだ。


「おお! お帰りなさい、日本へ。長い間ご苦労を……」

 と清兄ぃが涙を流しつつ、4人を出迎えてくれた。


「もう、声を出して大丈夫ですよ。皆様、お帰りなさい。

 ここは日本です。」

 と言うと、4人が大声を出して泣いていた。


 俺は清兄ぃに、これまでの状況を説明し、これからの計画を含め知らせた。


「なるほどのぉ。それじゃあ、置いて行くと言う選択肢は無いわなぁ。

 よし、まあどうせ2週間程だろ? 任せておけ!」

 と胸を叩いていた。


 再度先程パラライズを掛けた男の部屋へと戻った。

 そして、女性の寝ていた布団や、部屋の彼方此方に、アイテムボックスにあったカサンドラスの盗賊の死体の血を振りまいた。

 勿論、男性には大量に振りかけておいた。


 これで、偽装出来るかな? まあ混乱するだろう……ふふふ。

 とほくそ笑んで、次のエリアを探索した。



 ◇◇◇◇



 そして、この夜、夜中に2時まで粘り、先の4名の他に35名の居場所を確認し、同様に日本に帰る意思を確認した。

 2週間以内には、日本に連れ帰と堅く約束し、自宅へと戻ったのだった。


「ふふふ、お帰り。」

 と兄上が起きて待って居てくれた。


「あ、へへへ。ただいま。兄上、ちょっと話しても良いかな?」

 と言って、今日の出来事を報告すると、

「なるほど! それは素晴らしいじゃないか!! 流石はアッ君だ。」

 と褒めてくれた。

 兄上に、一番効果的な拉致被害者の『帰し方』について、相談してみた。


 ちなみに、兄上は昔から、こう言う作戦立案に関しては、かなりの才能を持っている。

 まあ、ステータスの頭脳の数値は俺の方が上になっては居るんだが、元来の頭の回転の速さや、色々な事への配慮等、色々加味した上で、一番効果的な方法を提示してくれるのだ。

 なので、昔から俺は、『兄上は参謀タイプ』と認識していた。


「まず、ポツリポツリと帰してしまうと、政権がマスコミにリークしそうだから、こちらの作戦が妨害を受ける可能性がある。

 まあ、これは気付いているだろうけど。

 でだよ、一気に全員が偶然『発見』されないといけない訳だよな。

 と言う事は、パッと思い浮かぶのは、3箇所ある。」

 と清兄ぃがニヤリと笑う。


「だな。で、場所は何処?」

 と答えを急かすと、


「まず、1つ目は、官邸かな。何名になるかは判らないけど、200~300名が現れると、完全にパニックになるよな。

 だから、第一候補は官邸だ。

 第二候補は、ちょっと畏れ多いんだけど、皇居。だけどこれは避けた方が良いと思うんだよね。

 第三候補は、国会議事堂かな。国会中とかだと、最高だよね。クックック」

 と笑っている。


「ふむ。なるほど! まあそれだけの人数が、入りきれる広さの場所で、注目を浴びる場所となると、一気に現れてやっぱりそんな感じだよな。

 うん、第一候補良いね。」

 と考えながら同意する。


 よし、第一候補をマーキングしておこう。

「クックック……お主も悪よのぉ~」

 と俺が言うと、


「何を仰いますやら。お代官様こそ。」


「「ハッハッハッハッハ」」

 と夜中にバカ笑いする兄弟2人であった。(翌朝軽く両親に怒られたけど)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る