第23話 ダンジョン効果?

 初ダンジョンの翌日の母上は、早朝から異常にご機嫌だった。

「アッ君! 見て見て!! お肌の艶! 何か若返ったみたいよぉ~」

 と鼻歌交じりで子供部屋に突入して来たのだ。


 うーん、おそらくレベルアップが関係しているのかと思うけど、そんな効果あったっけ?

 と考えてみたが、思い当たる節は無く、まあご機嫌の様だし、微笑んでおいた。


 朝食の際、父上も、「朝から調子が良いんだよな。何か、20代前半に戻ったようだ」とこれまたご機嫌。

 多分、レベルアップに伴って、体力やその他のステータスが上がった事で、身体が活性化したのかもな。




 まあ、そう言うメリットも後押しとなって、我が家の週末ダンジョンは、恒例となった。

 ダンジョンから出て来るドロップ品の食材は、我が家の食卓を、より豪華にした。

 料理上手な母上が、美味しい素材を使い、色々な料理を食べさせてくれる。

 その代わり、外食の回数は激減したが、週末になると、近所の河原へBBQに行く事が多くなった。


 で、我が家がBBQを始めると、周りに漂う肉汁の焦げる匂いに釣られ、視線が集まる事が多く、


「すみません、そのお肉、メッチャ良い匂いしているんですが、どちらで購入されたんですか?」

 と聞かれる事も多々あった。


 そう言う場合、決まって両親は、

「ああこれ、田舎から送って貰ったんですよ。実家で飼ってる牛ですから、市販はないですよ。」

 と答えていた。

 すると、非常に残念そうな顔で去って行くのだが、段々とその頻度が多くなってきたので、結果BBQをする所を点々と変える様になった。

 遠方に行く際には、キャンプになる場合も多く、俺も兄上も喜んでいた。

 勿論、キャンプの際のテントは、俺がカサンドラスで使っていた、マジック・テントを使っている。

 一見普通のモノポール型のテントなのだが、空間拡張が付与されていて、内部はビックリする程に広い。

 10畳ぐらいのリビングと、6畳程のベッドルームが5個あり、勿論トイレも風呂もキッチンも付いている。

 家具も装備されていて、リビングにはソファーやテーブル、ダイニングキッチンにはテーブルと椅子やキッチンカウンター、食器棚、ベッドルームにはダブルベッドやシングルベッド等と寝具等等。

 更に魔道具は、冷蔵庫やエアコン、消臭、遮音、照明や、簡易結界も付いていて、真夏でも快適に過ごせるのである。


「なあ、これ下手すると、我が家より快適じゃないか?」

 と父上が真顔で呟いていた。


 母上も、風呂やトイレが付いている事や、簡易結界のお陰で虫にも刺されず、快適な生活が出来るので、キャンプ大好きになってしまった。

「何か、このままテント暮らしも悪く無いわね。」と。


 ふふふ、だってこのテント、滅茶苦茶高かったからねぇ。

 職人に発注して、作って貰ったんだけど、多分日本のお金で言うと、億は掛かってね。

 俺が素材を提供しててその値段だから、素材から全部購入で揃えると、20倍ぐらいの値段になるんじゃないかな?

 作る職人に素材を渡して、仕様を説明した時、職人が余りの高級素材に震えてたからね。




 そもそもだが、魔力を持つ魔物の肉は、ゴブリンを除き、大抵の場合、基本的に非常に美味しいのだ。

 どうやら、より多くの魔力を持つ魔物程、美味しいとされている。

 ミノタウロスで作るすき焼きとか、もう絶品で、何時までも食べて居たい程に美味い。


 元々戦前生まれの俺は、カサンドラスに移ってから、ステーキや肉串を頻繁に食べる様になったのだが、この時代に転生して来て初めて焼き肉を食べた時、


「あー!この手があったのか!!」

 とカサンドラスで、この味付けを思い付かなかった事を、酷く後悔した程であった。

 どうせ食べるなら、最高の素材で試したかったと……。


 だからこそ、こうして、また魔物の肉で焼き肉を食べられる様になって、心躍る日々である。

 現代は、色々と前世では無かった様な料理が沢山あって、本当に幸せである。

 やっぱり戦時中の食料不足の事が、頭の何処かに引っかかってるのかも知れない。



 さて、毎週末恒例となった佐々木家のダンジョン攻略だが、人型であるゴブリンに最初はやはり足が竦んだ様だったが、『殺らなければ殺られる』と言う事を本能で感じ、自然と身体が反応して、無事討伐していた。

 それ以降は、熟練度やレベルアップと共に精神的な耐性が付いたのか、感情云々で惑わされる事無く、全員がサクサクと進める様になった。

 一応3階層を2巡したのも効果的だったと思う。

 そして、現在父上、母上、兄上の3人は共にレベル5まで上がり、6階層まで進んでいる。

 3人で連携を取れば、6階層に出て来るオークの上位種にも対応出来る様になった。

 流石にまだ、複数の上位種には対応出来ないが、それでも1匹ずつなら不安無く見ていられる。

 特に、父上の成長が素晴らしく、魔法と刀を上手く使い分け、相手を翻弄しながら兄上と2人で前衛を熟している。

 母上は、横から回り込んで来る奴を、牽制しながら、魔法や槍で数を減らしつつ、さりげなく前衛をサポートしている。

 兄上も父上の成長に負けず、大化け中である。

 まだまだ剣技は稚拙なのだが、しかし俺が教えた佐々木流斬刀術の基本を再現しつつ、極端に体格差があるオーク……それも剣を持った上位種の打撃を有る時は回避したり、流したりしつつ、相手の手傷を増やしていく。

 剣技としては、まだまだではあるが、魔法の使い方は、父上以上に上手い。

 まあ、流石は父上と母上の血を引く我が兄上である。


 俺は、家族総出の週末以外を自分専用の日として、新月以外の週5日は月ダンジョンでレベル上げを行っている。

 現在は、第15階層の途中まで進み、レベルは、14まで上がった。

 魔王討伐時のスペックと比べると、20%って所だろう。

 体格もあるが、まだまだ先は遠い。

 更に、レベルが10を超えた辺りから、当然ではあるが、最初の頃の様には、ポンポンレベルアップ出来なくなっている。

 これは、必要経験値がレベル毎に上がる事と、出て来る魔物の種類が弱い事が原因である。



 そうそう、ダンジョンに通う様になって、レベルアップの影響か、母上が益々若返ったらしい。(本人談)

 元々余り化粧っ気の無い人だったんだが、最近はスッピンでほぼノーメイクである。

 肌の張りと艶が違うらしく、

「アッ君聞いて!今日も他のママさん達に、化粧水何使ってるの? 最近益々肌が綺麗でまるで10代みたいって言われたのぉ~♪」

 と嬉し気にニコニコしながら言っていた。


 父上は父上で、「力が湧いてくる・・・20歳の頃よりも活力が漲っている。」と拳を握りしめてポーズを取りながら叫んでいたから、相当違うんだろう。

 この分だと、我々兄弟に3番目の兄弟が増えそうな気がする。

 出来れば、前世からの願いであった、可愛い妹をお願いしたい。





 もうすぐ夏がやってくる。

 盆休みには、今年もまた清兄ぃの所へ行く予定なのだが、清兄ぃは必須として、叔父上(父上の弟)やその子(俺の従姉妹)をどうするかを決めて置く必要がある。

 出来れば、佐々木流を受け継ぐ者達には参加して欲しいのだが、そこら辺は要ご相談だろうな。

 あと、母上方の曾祖母や従姉妹で母上と同じ魔力視を持つ者達……これをどうするか?

 ハッキリ言って、魔法の素養がおそらく高い筈なので、このまま放置は非常に才能が勿体ないと思うのだ。


 だが、突然「貴方は魔法の素養があります。是非訓練してダンジョンに行きましょう! 魔物が闊歩する未来を生き抜く為に!」と言われ、それを信じる奴が居たら、それこそ危ない奴である。

 更にこれが一般に漏れると、どう転んでも非常に厄介な事になる。

『何処の誰までを引き込むか?』の区別は慎重に行うべきだろう。


 とにかく、それまでに、家族全員をレベル10までに引き上げて置きたいと考えるのであった。

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