第20話 おかあさんといっしょ

「母上、凄すぎます!

 ここまで下地が揃っているのなら、『身体強化』も直ぐに使える様になりますよ!」

 と俺自身もかなり興奮して宣言すると、


「え?何?何? 身体強化って、あれかな?魔法を使うって事なの?」


「うーん、魔法…と言うか、魔力を使って自分の骨や筋力や瞬発力なんかを、補強する感じですね。

 先程、魔力操作で手に魔力を集めましたよね? あれを今度は魔力で、骨や筋力を補助する様なイメージを込めて身体の中をグルグル回すのですよ。

 そうすると、そのイメージに沿った力が魔力で補われ、動きが速くなったり、高くジャンプ出来たり、重い物を持てたりするようになるんです。」

 と説明すると、なるほど…と言いながら、頭を傾いだり唸ったりしながら、更に20分程やっていた。


「あ、出来たかもしれないわ!」

 と突然声を上げ、今まで見た事の無い、合気道の型らしき動きを始めた。


「うーん、動きにキレが出てる気はするけど、これじゃあ、出来たのか、判らないわねぇ。」

 と指で顎を支え、首をコテっと傾いでいる。


「ああ、じゃあ、ジャンプしてみるのが、一番分かり易いですよ。

 ここじゃあ、頭をぶつけてしまうから、外じゃないと危ないですが。」

 と言うと、母上が、

「じゃあ、アッ君、公園行こう!!」

 と早速お出かけの準備を始めたのだった。



 結果だが、母上は、身体強化を物にした。

 軽く飛んだ高さは3m。

 本人も驚きの声を上げていた。


 そして、ノリノリになった母上は、

「こ、これは凄いわ! アッ君凄いわ!!」

 と其処ら中を走り廻ってらっしゃる……しかもかなりあり得ないスピードで。


 公園に来ている他の子らは、

「あのお母さん、しゅごい!!」

 とか手を叩いてはしゃいでいた。


「は、母上、他の方の目が行く前に、自重を!」

 と慌てて制したので、何とか大人の目には触れなかった様だ。


 それからの母上のはしゃぎ様はまるで女子高生の様で、可愛かった。



 ◇◇◇◇



 何とか、無事に自宅へと戻って来て、母上にせがまれるまま、魔法を教え始めた。

「魔法は、魔力をその属性に合わせたイメージで発動します。

 つまり、より具体的なイメージさえあれば、魔法は発動します。

 例えば、水魔法なら、空気中の水分が集まるイメージとか、空気中の酸素と水素が分子結合して発生する様なイメージを作りつつ、集めた魔力にイメージを送り込むと……

 このように。」

 と言って、掌の上に、30cmぐらいの水の玉を作り上げた。


「キャァーー! 凄いわね!

 なるほど…イメージね? イメージ…水のイメージ…」

 とブツブツ言いながら、掌に魔力を集め始める母上。


 ジャバー……


「「あっ!」」


 掌から水が1リッター程、床に流れ落ちた。


「キャーー! 雑巾雑巾」

 と慌てて、雑巾を取りに走る母上。


 俺は、取りあえず、水魔法を使って床の上の水を集めて、持ち上げ直した。


「大丈夫です。今、床の上の水を吸い上げましたから。」

 と母上に伝え、バケツを持って来て貰った。


「しかし、母上凄いですね。

 最初から水が出ましたよ!

 次は、水同士が引力で引っ張り合う様なイメージにすると、綺麗な水の玉、ウォーターボールになりますよ。」

 と告げると、


「ごめん、ちょっと風呂場で少し練習してくるわ!」

 とバケツを持って風呂場へ行ってしまったのだった。


 そんな母上を見て、カサンドラスに召喚された頃の俺を思い出す。

「最初の魔法が発動すると、楽しくてしょうがないんだよなぁ」と。


 そして、兄上が帰宅する頃には、母上が水魔法の初級を取得していたのだった。


 ステータスは、下記の通り。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 名前:佐々木奈津子

 年齢:29歳

 種別:人族  Lv:1

 職業:---

 状態:興奮状態(小) 疲労(小)

 HP:38/39

 MP:5/28

 筋力:38

 俊敏:25

 頭脳:77

 運 :65

 武術:合気道

 魔法:水 初級

    風 ---

    土 ---

    光 ---

    聖 ---

 ギフト:ステータス

 スキル:魔力感知

     魔力視

     魔力操作

     身体強化

 称号:古の血をひく者

 加護:

    

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 母上……魔力枯渇寸前まで頑張ったらしい。

 ふふふ、母上、やるなぁ~。


 しかし、これで我が家の残りは父上だけか……。

 流石に父上だけを仲間外れにするのは、同じ年代(精神的実年齢)として、寂しすぎるし、本意ではない。

 是非とも父上にも習得して頂かねばな。


 と言う事で、母上と相談して、父上に今夜話す事にしたのだった。

 まあ、何処まで話した物かは、よくよく考える必要があるのだがな……。


 暫く経って、学校から兄上が帰って来た。

 そこから兄上も交え、母上と魔法の訓練を夕方近くまで行い、兄上も無事に一属性の魔法を取得した。

 はしゃぐ兄上と、一緒になって喜んで居る母上の姿は、微笑ましい物があった。


「魔法でも武術でも何でも同じだけど、十分な鍛錬を行って、身体に擦り込んで行くと、更に初級が中級、そして上級、果てにはEx級となります。

 MPも日々枯渇まで使い切れば、徐々に増えて行くから、これも重要です。

 あ、但し、特に兄上の火魔法ですが、火事になったりするので、訓練場所に注意が必要です。

 間違って、魔法を暴発しちゃうと、大惨事になるので、注意して下さいね。

 兎に角、当面ですが、母上は、身体強化と水魔法、兄上は今まで通り身体強化と火魔法ですね。

 これらの熟練度を上げて下さい。そうすれば、取りあえず、自分自身の身を守れる程度の戦闘能力にはなりますから。」

 と注意事項とこれからの方針を説明した。


「判ったわ! だけどお母さん、ちょっと不思議に思っている事があるんだけど、アッ君は何でそんなに色々知っているのかな?

 普通の幼稚園生は、そんなに賢くないんだよ?」

 と母上がジト目で俺を見つめて来た。


 ううう……どうするか。

 取りあえず、転生した事は伏せて、大神様の啓示って事にするか。


「判りました。本当は父上も居る所でとは思ってたんですが、先に母上と兄上に聞いて頂くとします。」

 と頭の中で転生を誤魔化した大まかなストーリーを作りつつ、説明を始める。


「この世界をお作りになった、大神様と言う方がおられまして、古より、人類だけでなく、様々な生き物や、その環境の大まかな設計図を作りました。

 そして、この世界はその大まかな設計図を基にして、いくつかの可能性を独自の判断で進んで来ましたが、人類だけは、その大神様のお作りになった設計図……大神様はロードマップと呼ばれてましたが、そのロードマップから大きくズレる様な進化と言うか軌跡を辿り始めました。

 このまま人類が間違った方向に進めば、大神様が作ったこの世界の理の外に外れ、世界が崩壊してしまうのです。

 過去にもありましたが、ノアの大洪水や、恐竜達をも滅ぼしたとする氷河期も然り、何度かロードマップの範囲内に治める為の、地球規模の大災害が起こってます。

 記憶に新しい時代ですと、中世のヨーロッパで流行ったペスト等による暗黒の時代と呼ばれるのもその1つです。

 で、先にお話したように、このままでは、世界が理から外れてしまいますので、また地球規模の天変地異が起こります。

 大神様の話では、あと約8年です。」

 とここまで話すと、真剣に聞き入っていた母上と兄上は、驚きと焦りの入り交じった表情をしていた。


「え? どんな天変地異かは判らないの?」


「いえ、大方の内容は聞いております。

 魔物……そうですね、猛獣なんかとは比べ物にならない程強いモンスターで、胸に魔石と言う魔力結晶とも言うべき物を持つ、生き物が発生します。

 これは、現代兵器では、全く役に立ちません。

 倒せるのは、魔力を帯びた兵器による攻撃でないとダメなのです。勿論、魔法も有効です。

 だから、8年後、家族全員が生き残れる様にと考えてます。

 まあ、俄には信じられないでしょうけど、大神様から教えて頂いた事実です。」

 と説明すると、2人とも唸りながら考え込んでいた。

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