第13話 小さな1歩だが大きな1歩

 いよいよである。

 あれから3日程経って、細い月が出ている夜がやって来た。


 夕方が近くなった頃、

「あら、アッ君、何か今日はソワソワしてるわね?」

 と普段はポワンとしてる印象の母上が、何故か鋭い突っ込みを入れてくる。


「そ、そうかな?

 いえ? 普段通りだと思いますが?」

 と焦りながら返事をするが、何故か、ジトッとした疑いの目で俺を見てくる。


 思わず、口笛を吹きながら、

「お先に、風呂入って来ます!」

 と風呂場に逃げ込んだのだった。


 夕食を済ませ、いつも見ているお気に入りのTVアニメも今日は全然頭に入って来ない。

 落ち着かないので、早々に子供部屋に戻り、兄上が図書館から借りてきてくれた、本を読んでいた。

 うむ…本は良いな、気持ちがスッと落ち着く。


 現在読んでいるのは、近代兵器の解説本である。


「しかし、凄いな。

 今はこんな誘導兵器があるのか!」


 俺の戦っていた時代には、戦闘機の武器は、もっぱら機関銃と爆弾か魚雷であった。

 爆弾も魚雷も誘導する様な機能は無く、ただ狙って投下後は、神頼みである。

 なるほど、レーダーとは、電波の反射で距離や高さ等を割り出すのか。

 他にも、ミサイル等、面白い兵器が沢山書いてあった。

 一方、狙われる側の戦闘機にも、その自動追尾するミサイル等の目を誤魔化す為の装置が付いている。

 熱源を出したり、レーダー波を妨害する様な物をバラ撒いたりするらしい。


 そう言えば、戦時中、偵察機が、風船をバラ撒いて、逃げ伸びたって話を聞いたな。

 発想は、あんな感じなのか?


 等とブツブツと独り言を言いながら、熟読していると、


「あつし、熱中しているみたいだけど、そろそろ寝る時間だよー。」

 と兄上が教えてくれた。


 早速、読んだページにしおりを挟み、ベッドへと飛び乗った。


 兄上が

「じゃあ、電気消すよー」

 と言って、灯りを消して、二段ベッドの上へと上がって行ったのだった。


 俺は、「兄上、おやすみなさい!」と挨拶をして、アイテムボックスからブレスレットを取り出して、左腕に填めた。

 盤面をタッチすると、アンテナは2本立っている。

 どうやら、大丈夫な様子だ。


 カサンドラ様から聞いた手順で、起動すると……




 見知らぬ建物の中に居た。

 服装も、背格好もベッドに横たわったままの姿である。


 建物の中は、明るく、清潔であったが、床や壁は、彼方此方風化していた。


「ここが、月ダンジョンの入り口の部屋なのか?」

 と独り言を言いつつ、辺りを見渡すと、窓があり、その外には、月の表面と宇宙が広がっていた。


「おおお!!!!」

 と思わず叫び声を上げ、窓の方へと走って行く…と、あっ!!!

 身体がフワッと予想以上に浮き上がり、天井に思いっきり衝突した。


 ドゴッ


「痛ってーーー!」


 と頭を両手で押さえつつ、今度はその反射で床へと落下。

 また床で跳ね返り、天井の方へと……。


 何とか、勢いを手足で吸収して止まり、窓ガラスを突き破る事は無かった。


「あっぶねぇーー! この外って真空だよな?」

 と額の冷や汗を拭く。


「そうか、月の重力は地球の1/6だったな…。」

 と猛省する。


 多分、ダンジョンの入り口を超えると、重力が地上と同じになっているのだろうが、この建物自体は遺跡を利用していると言う事だったので、まあそう言う事なんだろう。


 窓とは反対の方を向くと、何やら立て看板があって、


「←月ダンジョンはこちら❤」

 と書いてあった。


「うわっ! これ絶対書いたのカサンドラ様だよな。」

 と思わず苦笑いする俺は、一度冷静に装備を調える事にした。


「武器は…っと、俺の愛刀の小太刀にして、防具は……これ、使えるかな?」

 とブツブツと独り言を言いながら、アイテムボックスの中を探しつつ、床の上に広げて行く。


 俺が魔王討伐時に使って居たシリーズは、一応全部アイテムボックスの中にあった。

 不思議なのは、下半身が消滅した際に一緒に消えた筈のブーツも含まれていた。

 ありがたい事だ。


 問題は、これらの装備のサイズ自動調節が上手く動作するかと言う懸念だが、どうやら要らぬ懸念だったようだ。


「良かった、装備出来た。

 しかし、アレだな…兄上を連れて来る際は、どうするか?

 予備の装備、ランクが落ちるけど、大丈夫かな?

 取りあえず、材料はあるんだけどな…。」

 とまたもやブツブツと独り言。


「まあ、取りあえずは、一度ダンジョンに潜って様子を見てからだな。」



 今度は飛び跳ねないように、細心の注意を払いつつ、チョコンチョコンと立て看板の示す方向へと進んで行く。


 すると、無駄にキラキラと輝くアーチが目に入って来た。


「うわっ、やな予感がする…」


 立て看板もありました。


「じゃじゃーーん、ここが入り口だよーー❤」

 と書いてある立て看板が。


 キラキラネオンのアーチには、「ようこそ月のダンジョンへ」とご丁寧に書いてある。


「いやいや、これこそ、無駄な魔力消費だろ!!」

 と脱力しつつも、ダンジョンの入り口を潜ったのだった。

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