第5話 空白を埋める

 清兄ぃから得た情報で、日本が戦争に負けた事、終戦の前に、卑劣な米軍により、2種類の原子爆弾と言う、大量破壊兵器を使われ、民間人を含めた多くの人が犠牲になった事を聞いた。

 これは、どう言いつくろっても、国際法違反で、完全に日本人をモルモットにした、実験であったと言わざるを得ない。

 現人神であられる天皇陛下は、占領軍によって、今では日本の象徴という存在に貶められていると言う・・・。

 なんたる事だ・・・。


 そして、日本を、いや日本人を恐れた占領軍は、日本国憲法を日本を守れない物に書き換え、更に教育方針を偏向し、『日本=悪』を植え付けたらしい。

 これをWGIP(ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム)と言って、日本が再び再起しない様に頭を押さえつける為に、日本人の意識を変えたとの事。



 話は変わり、戦後の復興~現在までの佐々木家の話を聞いた。

 清兄ぃは俺の出征後、暫くして、結婚し、3人の子供を授かったらしい。

 で、父はその長男の息子と言う事だそうだ。

 残念ながら、長男は既に他界してしまったらしい。つまり俺は、曾孫と言う事だそうだ。


 最終日の前夜、俺は清兄ぃの部屋に行き、清兄ぃの身体状態をチェックした。

 80歳を超えた清兄ぃの身体は、かなりボロボロで、彼方此方に腫瘍や内蔵の異常がある状態だった。

 そこで、俺は現在持って居る魔力量でギリギリ1回使える、『パーフェクト・ヒール』を発動し、清兄ぃの身体をレストアした。

 魔法の発動と同時に、恐ろしい勢いで魔力を持って行かれ、ブラックアウト寸前だったが、何とか耐え、


『これで、暫くは保つと思う。後4年もすれば、もっと動ける様になるので、それまで生きていてくれ。』

 とモールスで伝えた。


 翌朝、いきなりボケも無く、身動きも軽くなった清兄ぃに全員が大層驚いていたが、みんな喜んでくれていた様なので大丈夫だろう。





 本当に有意義な帰省であった。

 両親は、気付くと曾爺さんの部屋に居て、対面して座り、カタカタと音を立てた後、曾爺さんが話すと言う、意味不明な状況に頭を傾いでいたが、概ね「爺さん好きな子ね」程度に解釈してくれたらしい。



 自宅に戻って来た俺は、自分のやれる事をやって、早く成長し、前の人生でやり残した事を完遂してやろうと心に誓った。

 身体のスペックを引き上げ、魔力量を増やし、新しい知識を詰め、出来る事を増やし、来たるべき時の為に備えるのだ。



 ◇◇◇◇



 生後10ヵ月になった頃には、ある程度、上手く喋る事が出来る様になり、普通に立ち上がって歩ける様にもなった。

 魔力量は日々の努力の結果、前の身体の時の魔王戦の頃に比べて1/100ぐらいまでにはなったのではないかと思う。

 それに伴い、各属性の初級レベル~中級ぐらいまでは使える程度になった。

 残念ながら、この世界ではステータスが使えないのか、はたまた一定の年齢に達してないのかは不明だが、数値による確認が出来ないのは非常に辛い。


 だが、一つ問題があった。

 現在の兄上である。

 弟と仲良くしたいらしく、面倒を見てくれようとするのだが、中身が26歳の青年の為、辿々しく絵本を読んで貰っても、嬉しくはないのである。

 しかし、邪険にも扱えず、構いたがる為に、非常に困った状態なのである。


 そして、どうしようか?と悩んでいたのだが、兄上の持っている玩具で良い物を発見した。

 流石は佐々木家と言う事か、柔らかいフワフワの物で作られた、刀である。


 そこで、兄上と2人で、その玩具の刀を使って、訓練をする事にしたのだった。


「あつしぃ~、凄いなぁ。小さいのに強いんだもん。」

 と兄上が小さい俺をキラキラした目で見つめる。


「兄上、ここはもう少し腰を落として・・・低くして。こんな感じ。」

 と言うと、


「こう?」


「そうそう、で、上から引き絞る感じでギュッと振る。」

 と言う感じで、佐々木流斬刀術を指南する。

 まあ、こう見えても中身は、実戦経験有りの佐々木流斬刀術の師範代だからな。


 佐々木流斬刀術だけでなく、更に、字や漢字を教え、計算を教え、勝手に英才教育を行ったのだ。

 そして、『遊び』と言う名の英才教育を始めて半年が過ぎた頃、兄上に、魔力感知と魔力操作を教え始めた。


 なかなか、魔力感知が出来なかった兄上だが、1ヵ月ぐらいでついに魔力感知を習得し、更に2ヵ月で魔力操作が出来る様になったのだった。

 勿論、これらは、2人だけの秘密として、他言無用に言い聞かせている。


 兄上が幼稚園に通う様になり、やっと自分だけの時間が増えたので、新聞を読んだり、父上の本を読んだりして、知識を収集していたが、新聞は暫くすると読まなくなった。

 全部の新聞がこうなのかは、不明だけど、内容が酷かった。


 そうそう、TVと言う物もあって、これは活劇を四角い薄い板で見られるのだが、色々な番組と言う物があって、絵が動く『アニメ』と言う物は興味深かった。

 まあ、内容は子供用なので、アレなんだが、動く紙芝居と言った所か。

 これの良い所は、飴を買わなくとも、見られる所だろう。

『冒険戦隊アリエンジャー』とか言う戦闘物の活劇は、腹を抱えて笑ってしまった。


 しかし、あれだな、こう言う活劇物やアニメとかで魔法とか出て来るって事は、この世界でも魔法は使える人は使える、メジャーな物なのかも知れないな。

 もしかすると、学校で教わるのだろうか?


 しかし、その疑問と言うか仮説は、新しく始まった、『魔法っ子 アメルン』と言うアニメの設定を見て否定された。

 やはり、この世界には魔法が存在しないのである。

 夢物語やお伽噺で魔法が出て来る程度なのだと。


 そうそう、1つ面白い事が判明した。

 TVを見ていると、英語やフランス語のインタビューが流れたのだが、全て言葉を聞いただけで、内容が理解出来た。

 つまり、勇者召喚で貰ったギフトである、『言語理解』がこの身体でも有効らしい。


 試しに、TV番組の外国語講座と言うのを見て見たが、何処の国の言葉でも理解出来て、意識すれば、喋れる事も判明した。


 幼稚園に通う兄上だが、魔法の訓練はかなり進み、魔力量も俺程ではないが、かなり増えた様だ。

 魔力操作もかなり熟練度が増して来て、とうとう、『身体強化』が使える様になった。

 もっとも、魔力量の問題で、使用出来る時間はザックリ3分と言った所だろう。

 そして、3分が過ぎると、魔力枯渇で気絶するので、慌てて俺が魔力譲渡して、気絶を防ぐ感じ。

 まあ、これが逆に良かった様で、予想以上の勢いで、魔力量が日増しに増えていっている。


 自分、兄上共々、順調に日々成長していたのだった。

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