第4話 ただいま!

 その数日後、晴れて新たな自宅へと戻り、現在ベビーベッドの中で毎日を過ごしている。


 病院から家までの間、おそらく自動車と思われる乗り物の中から街並みを観察して気付いたのは、この世界、そしてここは、確実に日本であろうと言う事。

 やっと念願の日本に戻って来たのである。


 但し、俺の知る日本とは、かなり時代が違うのか、自動車も街並みも、道路でさえ、全てが違いすぎた。

 道は、石畳ともコンクリートとも違う、黒い舗装をされていて、電柱らしき物は沢山あるが、木ではなく、コンクリートっぽい色だった。

 田んぼも畑も殆ど見かけず、四角いビルディングや小さい家が沢山所狭しと建っていた。

 人も自動車も多く、驚きの連続である。


 更に驚いたのは、迎えに来た父上が、四角い薄い板をこちらに向けて、

「はーい、撮るよー、チーズ」

 とか言った後、パシャとか音がしていた。

 あれはカメラなのだろうか?


 俺が居た日本では、個人でカメラを持つ等は、一部の大金持ちの家だけで、一般は街の写真館へ、節目節目に家族写真を撮りに行ったものだ。



 そして、最も驚いた事と言えば、この家族の姓が、佐々木であった事だった。

 偶然なんだろうか? いや、まさかなぁ・・・。


 そして、俺の名前だが、佐々木徳士(あつし)と名付けられた。

 更に、俺の兄だが、佐々木清士(きよし)と言うらしい。

 なんか、ここまで来ると、出来過ぎだよな・・・。


 俺の自宅は、四角いビルディングの5階にあった。

 驚きはそのビルディングの入り口が、全面的にガラスで、しかも自動で開いたのだ。

 階段を使わず、エレベーターと言う四角い部屋に入ると、自動で上昇して5階に辿り着いた。

 余りにも、驚く事が多くて疲れてしまい、途中で眠ってしまった。



 翌日からも、驚きの連続であった。

 テレビとか言う物で白黒でなく、本当に目の前にある様な本物の色で、動きのある写真が見られるのである。

 しかも電話の様に声も聞こえる。


 これは、日本は日本でも、きっとかなり長い年月が経過した未来の日本なのだろうと推測された。

 しかし、日本がこうして今も存在すると言う事は、きっと大東亜戦争は、勝ったか、もしくは停戦なり平和交渉なりが上手くいったのだと思われる。

 機会があれば、一度調べてみたい。

 更に不思議なのは、日本だとすると、魔力が存在するのも不思議ではある。

 俺が知っている日本・・・まあ時代では、魔力なんて存在しないと言うか、周知されてなかったからな。



 ◇◇◇◇



 さて、推定日本に再度生を受けて、早6ヵ月。

 どうやら、お盆と言う事で帰省するらしい。


 汽車でない列車・・・電気で走る物らしいに乗って、とてつもなくデカい建物の場所へとやって来た。

 そして、俺は驚いた。


 空港である。

 しかも、この日本では、民間人が気軽に汽車に乗る感覚で、飛行機に乗れるらしい。

 凄い時代になった物だ。

 出来れば、操縦席も見て見たい物だが・・・。


 俺達家族の乗る機体は、747と言う数字の機体らしい。

 その747は一式陸攻に比べ、遙かに大きく、また素晴らしいフォルムであった。

 プロペラは見当たらず、どうやら当時噂で聞いていたが、ドイツからイ型潜水艦で情報を持って来て、日本独自で試作機を作ったジェットエンジンと同じ物らしい。


 なるほど、当時は試作段階の軍事機密だった物が、既に民間に出回っているのか。


 747の内部はとても快適で、驚く程に綺麗だった。

 どうやら、俺は滅茶滅茶興奮していたらしく、


「あらあら、この子ったら、飛行機が好きなのね? ふふふ」

 と母上が微笑んでいた。


「そう言えば、父の弟が零戦乗りだったらしいから、血筋かもな。」

 と父上も微笑む。



 離陸の時間となり、滑走路から一気に加速すると、巨大な機体がフワリと浮き上がった。

 何とも、凄まじいパワーである。


 そしてドンドンと上昇し、あっと言う間に雲の上に踊り出た。


 何と言う上昇力・・・これがジェットの力なのか。

 当時、高高度での限界で空の要塞と呼ばれた敵爆撃機を、なかなか迎撃出来ず何度も煮え湯を飲まされたのを思い出す。



 で、まあ色々な驚きの連続等があったが、それは細事なので省略させて貰う。

 到着した帰省先の父上の実家は、かなり古くなってはいたが、見覚えのある俺の生まれ育った家だった。


 ああ・・・やっぱりか!!

 そして、出迎えてくれた皺クチャになった老人にを見て、感極まった俺が思わず叫んだ。


「せ、い、にぃ(清兄ぃ)」


 すると老人・・・清兄ぃが、クワッと目を見開き、


「徳か! 徳!! 戻って来たのか!」

 と老人と赤ん坊が泣き叫ぶ大騒ぎに。



 まあ、何とか落ち着きを取り戻した父上と母上、そして同居している長女夫婦の解釈では、老人故のボケと偶然と言う事に収まったらしい。


 帰省中の3日間、俺は、ハイハイと掴まり立ちを駆使しつつ、清兄ぃの部屋へと何度も訪問し、辿々しい会話を進め、お互いの再開を喜び合うのであった。

 まあ、まだ喋りが上手く出来ない俺は、主に清兄ぃから昔教えて貰った、モールス信号で会話していたのだがな。

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