第2話 出来る事からコツコツと
過去を思い出してからは、目覚めている時はかなり色々と有意義な時間を過ごせる様になった。
この世界の胎児が生まれるまでの期間は不明だが、日々身体が完成して行く感覚がある事から、既に後1ヵ月ぐらいで生まれるのではないかと推測出来る。
なので、体内で出来る範囲の筋力トレーニングと言うか、身体の掌握だな・・・をやりつつ、更に魔力を感知しようと意識を巡らせる。
く・・・くきゅー・・・
また、意識を失ってしまった。
目が覚めた(目は開けないけど、意識的な意味でね)。
どれ位たったかは不明だけど、多分数時間かな。
また魔力の感知を始めるとしよう・・・。
そうして、俺は身体の掌握と、魔法の行使に不可欠な魔力感知のトレーニングを積み重ねた。
魔力感知のトレーニングを行うと、必ずこの体力の無い身体は意識を手放してしまう。
しかし、それは逆を返せば、魔力が存在する世界であるとも言える。
魔力が全く無い世界であれば、魔力感知で体力面や精神面で消耗する事は、まず無いだろうと言う推測からだ。
18歳で魔法のある世界を経験した俺には、魔力や魔法がなんたるかを知っている訳で、それは大きなアドバンテージである。
是非とも、この無駄に長い時間を有効活用させて貰おうじゃないか!
そして、俺は魔力感知トレーニング後の気絶を繰り返した。
懲りもせずに何回も何回も・・・。
正確な事は判らないが、徐々に気を失うまでの時間が延びている気はする。
そして、43回目、ついに! ついに!!! 魔力らしき物を感知する事に成功した!
やったね!! カサンドラス流であれば、ハイファイブとか言って、仲間同士で片手同士でパンと叩く場面なのだがな。
自分の母親のそれより早い心臓の鼓動とは別に、ジンワリと熱く熱を持つ微かな反応それが血液に乗り、血管を通り、体中に散って行くのを感じた。
あと、不思議な事に、母親と繋がる臍の緒を通して、別の魔力が流れて来るのも感じる。
なるほど、この母親からの魔力が大過ぎて、逆に自分の魔力の感知が邪魔されていた感じか。
魔力感知を外に向けると、上の方に大きな魔力の根源がある事が判る。
ああ、この世界は、ちゃんと魔法のある世界なんだな・・・ 良かった!
と心からこの転生を喜ぶのであった。
◇ ◇ ◇
そして、今、日々充実した胎児ライフを過ごしている。
まあ、そうは言ってもやれる事は少ないので、日々狭いお腹の中で、少しだけ手足を動かしたり、筋力を付ける為の静的な運動を行ったり、魔力感知やその先の魔力操作の訓練を行っている。
最近では、魔力感知に加え、生命エネルギーを感知する生態感知も習得したので、朧気であるが、母親の周囲の気配が分かる様になった。
更にちょっと面白かったのは、初期の頃に感じた振動であるが、あれが歌声であった事が判明した。
肉体が成長するに伴い、聴力も発達し、少しずつ音程が変わる事が判明したのだ。
また、母親の側には、高頻度で小さい反応が存在した。
おそらく、俺の兄妹となる者ではないかと推測している。
年の頃は4歳ぐらいかな? 正解をこの目で見るのが楽しみだ。
元の世界では3歳年上の兄、清治郎とはかなり良い関係であったと思う。
少なくとも、俺には心から尊敬する自慢の清兄ぃだった。
身体は弱く、残念ながら佐々木流斬刀術の激しい稽古は難しかったのだが、誰に似たのか、異常に頭が良くて、いつも難しい本を読んでいた。
そんな清兄ぃの影響で、俺も色々と教えて貰い、特に火薬の作り方や、毒ガスが発生する組み合わせ、爆発する組み合わせ、それらの薬品や素材の作り方なんかを教えて貰ったりしていた。
その知識は、召喚されたカサンドラスで、大いに役に立ってくれた。
人類軍が盛り返した大きな原動力になってくれたのは、間違い無い。
と言う事で、今回の新しい兄妹にも期待が高まるのである。
更に、タイミングの問題か、時々別の大きな反応も近寄って来たり、側で動きがなかったりする事がある。
おそらくは、父親ではないかと、反応が在ったり無かったりするのは、日中は仕事に行ってるとかかと推測している。
◇ ◇ ◇
いい加減、現状に慣れ親しんで、時間潰しのトレーニングも進み、魔力操作程度では気絶しなくなってきた。
本来なら、そろそろ最初の魔法発動の訓練に移って良い頃合いではあるのだが、流石に母親のお腹の中でそれは拙いと、我慢を強いられている。
魔力感知や魔力操作の練度が上がった事で、一つ理解した事があるのだが、この母体と臍の緒で繋がっている状態での魔力操作は、非常に効率が良かったと考察出来る。
通常、単体で魔力感知や魔力操作の訓練を始める場合、個人差はあるが、魔力が少ないと、アッと言う間に魔力切れを起こして気を失う。
そして、自然に回復を待つ事になるが、この臍の緒で繋がっている事で、強制的にリチャージされ、短時間で魔力が復活するのだ。
その恩恵で、通常の訓練よりも、高効率でこれらの訓練が出来、更に!魔力が枯渇した事で、魔力の保持量を上げる効果があるのだが、これが魔力ポーションを湯水の様に飲んで、ドーピングしているかの如くに、強制的に行えると言う。
魔法を訓練する者にとっては、正に夢の様な環境である。
そして、魔力枯渇に対する耐性も上がって来て、なかなか気を失わない状態になったのである。
まあ、現在母体からのリチャージ中なので、暇潰しにそんな事を考えて居る状態である。
そんなマッタリした時間を過ごしていたのだが、そんな平和な時を揺るがす異変が起こった。
何だろう、小刻みに身体に揺れが伝わって来る。
心なし、母親の心拍数も上がっている・・・地震か?
あ、収まったな・・・ふぅ~、生まれる前に地震でお陀仏とか勘弁して欲しいぜ。
まったく、ヤレヤレだな。
あ!また揺れてる! 心拍数が早い! あ、何か移動してるな・・・。
周りに複数人の気配があるな。
あ、収まった。
ん? これ、もしかして陣痛なのか? 俺放出されちゃうのか?
あ、また揺れてるし、何かお袋さんの唸る様な声が聞こえる。
あ、何か身体の周りを包む暖かいお風呂の水が無くなったよ?
え? え?? ちょっ! く、苦しいよ? 何これ、圧迫されるんですけど? あいたたた!! 俺の顔がぁーーー! あああ!肩引っかかってるから!
ふぅ~、肩を何とか動かして、クリアしたぜ。
と言うか、腕が簀巻きにされた様な感じで、腹も圧迫されて苦しいんだけど!
ああああ、足が引っかからない様にっと、つま先立つ感じでピンと伸ばして・・・
あ、頭頂部が何かヒンヤリするーー!
ズポン!
「あ、おぎゃー(あ、眩しい!!!)」
「おめでとうございます。 男の子ですよ! 驚く程に安産でしたね。お疲れ様です。」
「ああ、男の子なの。ハアハア・・・こ、こちらに顔を見せて! 初めまして私の可愛い赤ちゃん♪」
お!ここは一つ愛想良くしとかないとな!
「あ、おぎゃー、おぎゃー(あ!初めまして! 宜しくお願いします!)(ニマリ)」
「あら、この子、笑ったわ!!」
「あ、本当だ! 何て表情の豊かな子なんでしょう。きっと大物になりますよ!」
ふふふ、何だか良いスタート切れたっぽいね。
あ!!! ちょ! 痛いから! そこ、俺のお臍!!! うがーー!!
「おぎゃーー!!」
『ライト・ヒール、ライト・ヒール、ライト・ヒール!』
あ・・・痛みが引いた・・・。
そして、俺は魔力切れで気を失ったのだった。
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