リ・ボーン 時代に神風を巻き起こせ!
気怠い月曜
第1話 再起動
何だろう・・・音?心臓の鼓動? トクトクトクと定期的な周期で聞こえている・・・と言うより感じる。
何も見えず、手足も動かない・・・いや!手足が無い? 身動きも出来ず、手足も目も耳も口も無いのか?
一瞬パニックになりつつも、あれ? 俺って死んだのか? と何となく納得し冷静になった。
不思議なもので、冷静になってみると、何故か安心感に溢れた暖かさを感じるのである。
そして、意識が微睡みの中へと埋没して行く。
あれから、どれ位眠ったのだろう? トクトクと言う鼓動を感じる場所にまだ居るのだが、状況が少し変化した様である。
目の存在と手足の存在を感じる。
目を開けようとするが、何も見えないし、勿論手足を動かす事も出来ない。
で、俺って何だ? と今の状況を把握しようと思考を巡らせるのだが、意識や記憶がボンヤリと霞が掛かった様な感じで、ハッキリとはしない。
そして、暫く考えている内に、妙に暖かくて心が落ち着く・・・と、また意識を手放してしまった。
今度の目覚めは、周期が早かったようだ。
状況は変化してな・・・いや、指が動かせた! いやそんな気がしただけかもしれない。
それと、何か水中で聞こえる様なくぐもった音が聞こえる気がする。
耳と言うか、全身に響く様で、心地よい様な微妙な振動。
そうか! これは声か! 割と高音なので、女性の声なのかも知れない。
次に意識が戻ると、歩いて居る様な、振動を感じた。
ふむ・・・ここまで来ると、決定だな。
どうやら、驚く事に現在俺は、女性の体内に宿っているらしい。
手足も前より多少は動かせる様になっている。
目の存在も、口の存在感じる。
しかし、呼吸をする事は出来ない・・・と言うか、酸素は体内に供給されているので息苦しくはない。
おそらくだが、最初より脳も発達して来たので、色々と認識出来る様になったのだろう。
生まれる前の胎児って、こんな風に色々考えたりしてるのか? とふと思ったのだが、そもそも自我があるとは思えないので、こんな風に考えていたりはしないのではないかと思う。
では、俺だけが変なのか? そもそも俺は誰だ? 俺と言う事は、男だった筈。
必死に最後の記憶を呼び戻そうと考える。
そして、暫くすると名前を思い出した。
そうだ、俺の名は、佐々木徳治郎!
代々伝わる佐々木流斬刀術の師範代、佐々木直治郎を父親とする、武術一家の次男坊であった。
時代は昭和、台頭する大日本帝国へ、欧米による卑劣なABC包囲網で資源を絶たれ、死活問題となった我が国は、最後の最後まで対話による解決策を模索したのだが、白人主義である欧米列強は、格下と見下す黄色人種が、意見を述べ、力を付ける事を許さず、無理な条件を飲む様に押しつけて来た。
そして、最後の最後に、条件を飲もうとしたら、いきなりちゃぶ台をひっくり返され、条件すら無視した難癖で、長々と協議した条約の雛形を白紙に戻し、植民地化されている亜細亜の開放と、日本の生き残りを掛けて、大東亜戦争へと突入したのだった。
俺は、病弱な長男の清治郎の代わりに、志願して海軍の航空隊へ配属され、それなりの戦果を残していた。
しかし、資源と工業力で劣る我が国は、拡大する戦場に対応仕切れず、更に米国の新型爆撃機の登場で、追い込まれ、本土決戦を1日でも遅らせる為に・・・御国の為、いや愛する家族の為、友人の為にと神風特攻隊に志願した。
そして、敵の駆逐艦の艦橋へと爆弾を抱えて急降下した・・・したよな!? あれ??
いや、それが最後じゃないな・・・。
まだあるぞ? 敵の艦砲射撃で主翼の燃料タンクから出火して、制御を失って空中分解したところに光に包まれて・・・気が付くと石造りの礼拝堂?祭壇?の様な所に呼び出されていたんだった。
『勇者召喚』とか言う物だったらしい。
でだ、いきなり目の前に金髪の別嬪さんや、西洋の全身鎧を身に纏った兵士がズラリ並んでいて、驚いたのだが、
「く・・・最早これまでか・・・。但し、只では死なんぞ! 一人でも多く道連れにしてくれるわ!」
と意気込んで、突っ込もうとした所を、その別嬪さんに縋られて止められ、説明を受けて驚いたんだった。
まあ、驚いた事に、地球とは別の世界? 星? カサンドラスと言う世界に呼び出されて居た訳だが、何でも中世時代の欧羅巴の様な文化レベルで、魔王と言う存在が率いる魔王軍に攻められており、人類全体vs魔王軍の戦争の最中だったらしい。
ギリギリまで人類軍で頑張ったらしいが、次々と撃破され、最後の頼みの綱と、勇者召喚を行ったらしい。
だが、その頼みの綱の勇者召喚も、1回目、2回目と失敗続きで、多くの犠牲が出たらしい。
そして、最後の3回目で成功したのが俺と・・・。
「ああ、成功しました! これで失敗だったら、もう打つ手無しでした。」
と涙ながらに縋られ、突っ込む勢いを失ってしまったんだよな。
しかも驚いた事に、明らかに日本語ではない言葉なのに、ちゃんと意味を理解し、まるで日本語で話すかの様に自分でも返事をしていた。
今更だけど、冷静に考えると、変だよな。
まあ、これが本当なのかどうかはその後に確かめたのだが、真実だった。
で、勇者召喚したからと言って、それが即戦力となる訳で無く、ただ只管訓練に継ぐ訓練の日々。
元々佐々木流斬刀術を幼少の頃より学んでおり、病弱で頭脳派な長男の代わりに師範代代理を公言出来る程には剣術に慣れ親しんでいたのが功を奏して、刀を得てからは、目覚ましい戦闘力を発揮出来た。
更に、魔法のある世界であった為、魔法を学び、色々な童話やお伽噺に出て来る様な魔法を使える様になった。
ここまでの基礎訓練と下地作りに約2年を要してしまった。
ほぼ休み無く、訓練と対魔物の討伐を繰り返したが、これだけの日数が掛かってしまった。
この2年間で、人類(人族、エルフ族、ドワーフ族、ホビット族、マーメイド族、獣人族)は大幅にその生存圏をすり減らし、多くの仲間を失ってしまった。
既に戦争前の半分の人口にまで落ち込んでしまい、個の戦力頼みの戦術では、ここからの巻き返しは難しいと判断せざるを得なかったのだ。
そこで俺は、元の世界で知り得た近代兵器(銃火器や爆弾)等を発案し、その開発と生産を開始した。
幸いだったのは、魔法や魔道具、鍛冶に長けたエルフやドワーフが、生き残って居た事だ。
そして、月日が流れ、徐々にではあるが、俺は、人類軍の精鋭部隊を率い、奇想天外(カサンドラスでは非常識)な作戦を立案し、次々と戦況をひっくり返して行った。
魔法が使えない者でも最大限の戦力となる、銃火器や、大砲は大いに役立ってくれた。
魔法を使える者の絶対数が、魔族に比べ1/5にも満たない人類軍ではあったが、これらの近代兵器によって、遠方からの攻撃が可能となったのだ。
これによって、キルレシオに劇的な変化が出て、ある時は孤立する都市に群がる魔族を撃退し、ある時は進軍して来る魔族の軍団を殲滅した。
また、無線機を使う事で、リアルタイムな情報収集が可能となり、作戦成功の確度が格段に上がったのも大きかった。
そして更に2年後、2回の大きな戦では、ついに魔王軍の四大将軍の内2人を撃破し、多大な損害を与えた。
これによって、四大将軍は、二大将軍になった訳だ。
このタイミングで、魔王軍へ使者を送り、平和交渉を提案したのだが、「共存など糞食らえ!」と対話を拒否されて、仕方なくそのまま進軍する事になった。
そして更に2年が過ぎ、四大将軍の最後の2人が率いる2倍の戦力に対し、大勝利を収めた。
戦いは苛烈で、約1ヵ月に及ぶ消耗戦であった。
人類軍側も、決して少なくない戦死者や怪我人が出たが、魔王軍側はその比ではなく、9割が戦死、残り1割は戦闘不能又は捕虜となったのだった。
ここで、最後の平和交渉の使者を送ったのだが、ここでも「下等種である人類と平和共存等、臍で茶が湧くわ!」との返答で、魔王城まで攻め込む事になった。
そして、勇者召喚されてから8年ちょっとが過ぎた頃、ついに魔王城へと雪崩混み、最後の最後は、魔王vs俺の一騎打ちとなり、愛刀『雪風』によって、魔王の胴体を両断し、右腕は肩から飛ばした。
長き月日を掛け、多くの犠牲者を出し、隠れて泥水を啜って凌いでいた生活から解放されたのだ。
が!だ・・・ 死に際の最後っ屁の様な呪詛魔法と闇魔法の複合魔法の攻撃で、下半身を飛ばされ、残った上半身も徐々に蝕まれる様に、黒い靄になって消えて行く。
回復魔法も効かず、魔王が力尽きて消滅した後を追う様に、俺も死んだ。
そう、本来であれば、元の世界に戻れると聞いていたのだが、この最後っ屁で、本来であれば一緒に戻るべき肉体を失ってしまい、その結果何故か胎児として意識を取り戻したと言う事らしい。
まあ、大東亜戦争がどうなったか? 日本がどうなったか? 家族や友人達は無事なのか? 今更ながら凄く気になるのだが、今度生まれ出る世界はどんな所なのだろうか、愉しみではある。
願わくば、今度の世界が、平和な世界であって欲しいものだ。そして更に欲を言えば、魔法のある世界であらん事を願おう。
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