第12話 奴隷からの脱却 6 家令を倒したと思ったら次はお前らか!
「遅くなって済まん待たせたな、相棒」
侯爵家で俺と訓練してくれたピンク頭がそう言って手を挙げた。
東部大公の領地で二番目に強いって言われてたがそれは疑いようがない。
そのぐらいの実力を持っている。
服は泥だらけだが、もしかして戦場から駆けつけたのか。
疲れているだろうが、彼はバケモノだ、大丈夫だろう。
相棒、頼りにしてるぜ。
さあこれで形勢逆転だ。
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嬉しいサプライズだ、ピンク頭は大公領にいるから大公の家臣だろ。
首切りとか言われてるが東部大公は奴隷風情を気に掛けてくれたんだ。
まだ会ったことないけど、いつかお礼したい。
普通に考えたら皇族を抜きにしたら大公って貴族のトップだろ。
こっちは卑民の中でも更に下の奴隷だ。
普通に考えたら絶対あり得ない。
しかし馴れ馴れしいよなピンク頭、俺のことを相棒とか、あはは。
悪い気はしない、強者にそう言われるなんて、軽口であっても光栄だ。
◇
ピンク頭は信じられないぐらいの強さだ。
一時交換で動体視力のスキルの下級を借りて使っていたからかろうじてわかった。
あきらかに刃こぼれし斬れなくなっている剣を用いあっという間に魔法使い二人を倒した。
まず鈍器のようなものをクソヤローの護衛である炎属性の魔法使いに投げ、それが頭にヒット、鈍い音がした。
その場に倒れ痙攣していてみるみる血だまりができる。
ご愁傷様。
と同時に同じくクソヤロー護衛の身体強化スキル・中級に向かい、その短剣を避けた流れで首筋に剣を当て彼を沈めた。
刃こぼれした剣だが、それでも頸動脈を切ったのか噴水のように血が溢れとぶ。
「ちょっと弱すぎだろう」
ピンク頭は物足りなさそうに言った。
まあ確かに弱かっただろう。
俺が
◇
南部大公の宝剣と呼ばれているらしい敵の勲爵が怒りに染まった顔をして喚く。
「そのピンクの頭! お前が首切り大公のところの死に神子爵か!
今回南部軍の仲間たちをよくもっ! 」
なに、ピンク頭って子爵なの?
うん調子に乗って不敬な行動を取らないようにしよう。
そう思いながら二人の戦いを見る。
クロダイル勲爵は一気に跳び五メートルほどの距離を詰め、そのまま突こうとするが、子爵がボロイ剣で払う。
そこから何度か打ち合うがどう見てもピンク頭いや子爵が強い。
それからまもなく子爵は危なげなくクロダイル勲爵を仕留めた。
俺も魔法の使えぬ護衛を余裕を持って仕留めた。
後は家令本人とその近くにいる能力が不明の謎の男だけだ。
謎の男、どんな魔法を持ってるのか。
スキルはたいしたことない、几帳面・初級だった。
そこへドカドカ大人数が駆けてくるくる音が聞こえた。
敵か味方か。
もし敵だったら、さっきチラッと見かけた元々この領地を治めるパレッティの一団が応戦してくれればいいんだが。
ダダダダッと乱入してきたのは代官に率いられた奴隷たち。
百人? そのぐらいかもしれない。
俺は急いで一次変換で戦闘スキルを奪おうとしたが一挙に大人数が現れ、不可能だった。
そしてその中にはヴァネッサがいた。
「子爵様! 子爵様! こいつらはみんな奴隷で操られているだけです。
殺さないでください。
あっ、あそこのあの人、彼は現ご領主、準伯爵様でやっぱり隷属魔法で操られてますから」
「そりゃちょっと面倒臭いな。
準伯爵の件は了解。
残りはどうせ奴隷だろ。
あっそうか、タウロの仲間なんだな。
なるべく気をつけるが絶対とはいえないぞ。
どうしても助けたいやつはお前の方で対処しろ」
俺は頷きながらもうヴァネッサに向かっていく。
初めてヴァネッサに一時交換を使った時と違い、今は素早く奪えた。
棒術・金級がなくなったヴァネッサの実力は上級ぐらいだろう。
ヴァネッサは俺を見て驚きそれからすぐ納得した顔になった。
そのヴァネッサに当身をくらわし、気絶してもらった。
その間にも奴隷は自発的に家令のクソヤローの周りを囲む。
厄介なことになった。
俺は敵となった奴隷の戦闘スキルを一時交換で奪いながら戦闘不能にしていく。
ピンク頭の子爵はなんでもないように倒していくが、ホントに手加減しているか心配になる。
だが数が多すぎてキリがない。
すると家令バーナードとそれを囲む奴隷たちの塊から例の能力不明で謎の男から弾き出された。
クソヤローが怒鳴っている。
「その者も守れ、中に入れろ」
しかし数が多くて奴隷たちは統制が取れてない。
目が合った謎の男は怯えているように俺は感じ、牽制も含め、敵から奪った剣で攻撃を入れた。
男は大声を出して仰け反るだけで抵抗もしない。
剣は思いがけずズブズブと深く刺さり、彼は息をしなくなった。
と間もなくクソヤローを守っていた奴隷が次々に倒れだし、ついには立っているのはクソヤローと代官だけになった。
「もうおしまいだ、隷属魔法が解けた、また一からやり直しだ」
嗚咽しながらそんなことを言う彼に「どういうことだ?」とピンク頭の子爵は問い質した。
「今タウロに殺された魔法使いは世にも珍しい魔力融通という種類の魔法の持ち主でした。
彼は元々魔力量も特大でした。
彼からの融通により私は二千もの人に隷属魔法を維持できたのです。
また始めからやり直し…… 」
「もうそれは無理だぞ。
目を覚ました奴隷たちがお前を睨んでいる。
後処理はタウロに任せよう。
俺は本業に戻る。
これでも一応大公殿下の側近なんでな」
◇
子爵が去ってから一時間ほどで奴隷区や代官所などは制圧した。
バーナードのクソヤローは完全に拘束している。
目を覚ました奴隷の大半はクソヤローを血祭りにあげようとする。
それを俺やヴァネッサが押しとどめた。
隷属魔法から解放された準伯爵がみんなを説得する。
「バーナードのクソヤローは色々な証人だし、今回のここ東部と南部の紛争の張本人で謀反人でもある」
なんかうん、なんとなく嫌な予感がした。
するとドカドカとパレッティ一族が入ってきた。
三十人ほどか、そのうち半分以上は冒険者のような雰囲気だった。
代表して前領主が宣言した。
「ご苦労だったな、さあここには酒も用意してある。
勝利の宴をしようぞ」
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