第13話 奴隷からの脱却 7 再び登場「待たせたな、相棒」
なんかうん、なんとなく嫌な予感がした。
するとドカドカとパレッティ一族が入ってきた。
三十人ほどか、そのうち半分以上は冒険者のような雰囲気だった。
代表して前領主が宣言した。
「ご苦労だったな、さあここには酒も用意してある。
勝利の宴をしようぞ」
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お酒と食べ物が並べられている。
「これはこれは、本家殿及びご一同。
どうしてここへ」
現領主が少し驚いて尋ねた。
家令のクソヤローとかに話が漏れたらまずいので、隷属状態にあった領主には俺は話してなかった。
「そこにおるタウロとかいう奴隷から情報を得たのだ」
「そうでしたか」
「ご領主様先ほどからお気づきになってらっしゃるでしょうが、俺にかけられていた隷属魔法は解けてしまったみたいです」
「そんなはずはない、何かの間違いだ。
私の隷属魔法は今まで解けたことが一度もないんだ。
それが解けるのは、術者の私が死んだ時か、解除の術を上掛けした時だけなんだが。
まさか…… タウロお前には、うわっ」
何か俺のことを話しだそうとしていたようだったが、本家についてきたならず者といった感じのおっさんがバーナードに蹴りを入れた。
その後もボコボコにされる。
「いいいたい、たたたすけてくれ。
悪かった、二度としないから」
今バーナードに死なれるのはまずいんだが。
それが伝わった訳じゃないだろうが。
「大丈夫、息の根は止めねえよ」
そういいながらおっさんは暴行を続けた。
「しかし本家様は酒と食べ物を準備しているとは用意周到ですね。
来るタイミングもよかったですね。
戦闘みたいな危険なことは避けて、勝負がつくのを待っていたとか」
「貴様!」
偉そうな元領主一族が激怒して剣を抜こうとした。
そこへ現領主が割って入る。
「タウロがすみません。
なにしろ礼儀を知らない奴隷だった者ですから」
「ジョンダンよ、ご苦労だった。
これから先の大変なことはすべて我々が引き受けよう。
お前はもう自由だ。
どこへなりとも行くがよい。
ただし、タウロとかいう生意気な奴隷は置いて行け。
どうしても
「私は見てましたがあきらかにタウロは今回の功労者です。
その旨、上へ報告しなければなりません」
「前領主で
正統な領主であるこの私が承っておこう」
「失礼ながら父上様を始め、皆様方は今は無役のはず。
法律的にも私がここパレッティ領の当主です。
大公殿下にも認められております」
一人の男が前に出てきた。
前領主と顔立ちがそっくりだ。
「調子に乗るな。
お前もバーナードの一味ということでここで斬って捨ててもいいのだぞ」
「兄上、それはあまりにも。
隷属魔法をかけられるとわかりつつこの領地の証人となるために残ったというのに」
「俺のことを従妹などと呼ぶな。
父上が一晩の間違いを犯したために出来た存在。
お前なんぞ間違った存在ということだ。
だいたいパレッティの姓を名乗る許可は与えてないだろう。
そんなお前がどうしてここの領主になれよう」
その時俺は気づいた。
飲み食いしていた気の早い連中が苦しんでいることを。
ヴァネッサは俺の後ろにいてまだ何も口にしていない。
「みんなぁ! 飲み食いするな。
それは毒だ。
口に手を突っ込んで無理してでも吐け!」
ちょっと気づくのが遅かったようだ。
ほとんどの者が口に手や異物を入れゲーゲーやってる。
「やっぱり奴隷って馬鹿だねえ。
自分たちがこんないい食べ物にありつけるはずないのに。
しかも我々高貴な血が流れている者が卑民に施すはずがない。
卑民や下民は貴族のために尽くし、貴族のために死ぬ存在なんだよ。
わかってないんだねえ」
俺と同じ年とは思えない丸々と太ったおっさん顔が虫唾が走るようなことを言った。
「さあゴミは片付けよう」
前領主が声を上げるとまた戦闘が始まった。
まともに動けそうなのはこっちは五人だけ。
だが焦らない。
天恵スキル一時交換でパレッティ一味から手に入れたばかりの集音が教えてくれた。
大勢の者がこちらへ向かっている、そんな足音がする。
そして金属の武具が擦れるような音もする。
取りあえず俺の持ってるこの場において有効そうなスキルを味方に振り分ける。
「おい貴族様を殺したら厄介なことになるから、戦闘不能にだけしておけよ。
もうすぐ援軍というか本軍が助けに来てくれるから」
それを聞いて尊大な者たちが慌てた。
「援軍ってなんだ、でたらめだろう」
「おい相手はたった五人だ」
「こいつらを消せば証拠は何もないんだ」
「タウロを殺れ。
あいつは念書を持ってるはずだ」
「ジョンダンもこの際始末しろ」
そこへ聞きたくない声と台詞が聞こえてきた。
「頼むータウロ助けてくれ。
愛し合った中じゃないか」
家令バーナードは足が自由になったようで走って逃げたが、いかんせん手を縛られていてかなり怪我をしている。
これだけ叫べるからまだ致命傷はないのだろうが、愛し合ったなどと大声でしかも事実と異なる恥ずかしいことを叫ばないでくれ。
ホントは俺が殺してやりたいがきっと訪れるであろう大公に判断してもらうためにもクソヤローにはまだ生きていてもらわねばならない。
不本意ながら俺はクソヤローを助け、ついでに男の大事なところに蹴りを入れ、気絶させた。
これ以上余計なことを喋られては敵わん。
その時聞いたようなフレーズが聞こえてきた。
「遅くなって済まん待たせたな、相棒」
この声と台詞は待っていたものだった。
ピンク頭の子爵様が飛び込んできた。
「待て、お前ばかりカッコつけやがって」
後ろに続くミックがそう言ってピンク頭を怒鳴った。
きっと首切り大公が軍を率いてやってきたんだ。
とにかく俺は安堵した。
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